娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
135 / 266

121 謀略

しおりを挟む
 斎藤に聞きたいことは、山ほどあった。
 しかし、どれから聞けばいいのか頭を悩ませる。

 斎藤の過去については、ノアから詳しく聞かせてもらった。
 しかし、その話にはいくつか疑問点がある。
 俺は「答えたくない質問には、無理に答えなくても構いません」と前置きをしたうえで、話を切り出した。


「斎藤さんは、魔王を討伐されたんですよね?」

「ええ」

「魔王というのは、どのくらい強い存在だったのですか?」

「そうですね……一国の兵を総動員しても、傷一つつけられるかどうかというところですかね」

「その魔王を倒した……おひとりで?」

「いえ、仲間がいました。別世界からの異世界人が一人、そしてこの世界の住人が3人」

「その仲間も、斎藤さんと同じくらい強いのですか?」

「……いいえ」


 斎藤の話では、仲間の戦闘力はさほど高くなったという。
 この世界の一般的な兵士に比べるとレベルは高い方だったそうだが、対魔王戦では手も足もでなかっただろうと。
 その代わり、彼らには斎藤の補助の役割があった。


「魔王城までの道案内、身の回りの世話、荷物の運搬、そして回復や強化などの支援魔法。みんな、それぞれの役割を全うし、魔王討伐に協力してくれました。私一人では、成し遂げられなかったことでしょう」

「ただ、実際に戦闘に参加したのは斎藤さん一人だった」

「……そうですね。彼らが参加しても、無駄死にするだけでした」


 やっぱり。
 そう思って、俺はずっと抱えていた疑問を斎藤にぶつけた。


「どうしてそんな圧倒的な力を持つ斎藤さんを、オートラック王国は武力で制圧できると思ったのでしょう?魔王よりも強い存在なら、戦っても勝ち目がないことくらいわかりそうなものですが」

「……彼らは、私を殺す気はなかったのです」

「え?」

「ただ、国を挙げてとらえようとした、という事実が必要だったのです」


 意味がわからず、俺は首を傾げた。


「魔王を討伐したことにより、オートラック王国の国民の多くが、私を英雄として敬ってくれました。当時王国は国民の支持を失っていましたから、私を取り込むことで支持を取り戻そうとしていたのです。しかし、私は国や権力に振り回されたくはなかった」

「だから、叙爵を断ったんですよね?」

「ええ。ただそれによって、王国側にとって、自分たちの味方に付かない私は邪魔者でしかなくなってしまった。そんなとき、私は貴族とちょっとしたいざこざを起こしてしまったのです」

「女の子を助けたと……」

「はい。しかし王国側にとって、重要だったのは私と貴族のあいだでトラブルが生じたことでした。彼らはこれ幸いと、話を彼らに都合よく変えて広めたのです」

「都合よく?」

「最終的に、女の子に危害を加えようとしていたのは私のほうで、止めに入った勇敢な貴族にまで暴力をふるったことになりました」


 斎藤はそう言ったが、事件は人通りの多い街中で起こったこと。
 そんなに簡単に、事実の改変ができるだろうか?


「日本で暮らしてきた伊月さんには理解できないかもしれませんが、この国の身分の差はとても大きいのです。数十人の平民の証言よりも、たった一人の貴族の証言が優先される。国は新聞社などにも手をまわし、徹底的に私の悪印象を広げることに成功しました」

「でも、女の子とか、その両親とか……」

「私をかばってくれようとした人もいたようですが、国の圧力には抗うことはできません。それに、私が貴族を取り押さえてしまったのは事実。まったくの嘘よりも、真実を混ぜた嘘のほうが信ぴょう性が増すものです。彼らの戦略は見事に成功し、民衆はもはや私を敬うことはなくなりました」

「……そんな……」

「状況を悪くした一番の原因は、かつての仲間が国側についたことでしょうか」


 そう語る斎藤の瞳には、諦めの色が浮かんでいた。
 コトン、とお酒のカップを斎藤がテーブルに置いた。

 彼は追加のお酒を注ぎながら、話を続ける。
 飲まなくては話せないような内容なのだろう。


「裏切られたとはいえ、私に彼らを恨む気持ちはまったくありません。長い間ともに旅を続けてきて、彼らがいかに善良な人間であるかを知っていたからです」

「善良な人間が、裏切るものですか?」

「……人は、優先順位をつけて行動する生き物です。彼らには、私よりも優先すべきことがあった。そのため、私を犠牲にしたのはある意味、仕方のないことでしょう」


 斎藤の言葉に、俺はようやく理解した。
 彼らもまた、国の圧力に負けてしまったのだと。
 家族や友人なんかを、人質に取られていたのかもしれない。

 仮に俺が同じ立場だったとして、仁義を尽くすために妻や娘を犠牲にできるかと言えば、それは難しいだろう。


「……それでも……それでもあなたには、恨む権利があると思います」


 俺がそういうと、斎藤は悲しそうな顔で「ありがとうございます」と答えた。 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...