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121 謀略
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斎藤に聞きたいことは、山ほどあった。
しかし、どれから聞けばいいのか頭を悩ませる。
斎藤の過去については、ノアから詳しく聞かせてもらった。
しかし、その話にはいくつか疑問点がある。
俺は「答えたくない質問には、無理に答えなくても構いません」と前置きをしたうえで、話を切り出した。
「斎藤さんは、魔王を討伐されたんですよね?」
「ええ」
「魔王というのは、どのくらい強い存在だったのですか?」
「そうですね……一国の兵を総動員しても、傷一つつけられるかどうかというところですかね」
「その魔王を倒した……おひとりで?」
「いえ、仲間がいました。別世界からの異世界人が一人、そしてこの世界の住人が3人」
「その仲間も、斎藤さんと同じくらい強いのですか?」
「……いいえ」
斎藤の話では、仲間の戦闘力はさほど高くなったという。
この世界の一般的な兵士に比べるとレベルは高い方だったそうだが、対魔王戦では手も足もでなかっただろうと。
その代わり、彼らには斎藤の補助の役割があった。
「魔王城までの道案内、身の回りの世話、荷物の運搬、そして回復や強化などの支援魔法。みんな、それぞれの役割を全うし、魔王討伐に協力してくれました。私一人では、成し遂げられなかったことでしょう」
「ただ、実際に戦闘に参加したのは斎藤さん一人だった」
「……そうですね。彼らが参加しても、無駄死にするだけでした」
やっぱり。
そう思って、俺はずっと抱えていた疑問を斎藤にぶつけた。
「どうしてそんな圧倒的な力を持つ斎藤さんを、オートラック王国は武力で制圧できると思ったのでしょう?魔王よりも強い存在なら、戦っても勝ち目がないことくらいわかりそうなものですが」
「……彼らは、私を殺す気はなかったのです」
「え?」
「ただ、国を挙げてとらえようとした、という事実が必要だったのです」
意味がわからず、俺は首を傾げた。
「魔王を討伐したことにより、オートラック王国の国民の多くが、私を英雄として敬ってくれました。当時王国は国民の支持を失っていましたから、私を取り込むことで支持を取り戻そうとしていたのです。しかし、私は国や権力に振り回されたくはなかった」
「だから、叙爵を断ったんですよね?」
「ええ。ただそれによって、王国側にとって、自分たちの味方に付かない私は邪魔者でしかなくなってしまった。そんなとき、私は貴族とちょっとしたいざこざを起こしてしまったのです」
「女の子を助けたと……」
「はい。しかし王国側にとって、重要だったのは私と貴族のあいだでトラブルが生じたことでした。彼らはこれ幸いと、話を彼らに都合よく変えて広めたのです」
「都合よく?」
「最終的に、女の子に危害を加えようとしていたのは私のほうで、止めに入った勇敢な貴族にまで暴力をふるったことになりました」
斎藤はそう言ったが、事件は人通りの多い街中で起こったこと。
そんなに簡単に、事実の改変ができるだろうか?
「日本で暮らしてきた伊月さんには理解できないかもしれませんが、この国の身分の差はとても大きいのです。数十人の平民の証言よりも、たった一人の貴族の証言が優先される。国は新聞社などにも手をまわし、徹底的に私の悪印象を広げることに成功しました」
「でも、女の子とか、その両親とか……」
「私をかばってくれようとした人もいたようですが、国の圧力には抗うことはできません。それに、私が貴族を取り押さえてしまったのは事実。まったくの嘘よりも、真実を混ぜた嘘のほうが信ぴょう性が増すものです。彼らの戦略は見事に成功し、民衆はもはや私を敬うことはなくなりました」
「……そんな……」
「状況を悪くした一番の原因は、かつての仲間が国側についたことでしょうか」
そう語る斎藤の瞳には、諦めの色が浮かんでいた。
コトン、とお酒のカップを斎藤がテーブルに置いた。
彼は追加のお酒を注ぎながら、話を続ける。
飲まなくては話せないような内容なのだろう。
「裏切られたとはいえ、私に彼らを恨む気持ちはまったくありません。長い間ともに旅を続けてきて、彼らがいかに善良な人間であるかを知っていたからです」
「善良な人間が、裏切るものですか?」
「……人は、優先順位をつけて行動する生き物です。彼らには、私よりも優先すべきことがあった。そのため、私を犠牲にしたのはある意味、仕方のないことでしょう」
斎藤の言葉に、俺はようやく理解した。
彼らもまた、国の圧力に負けてしまったのだと。
家族や友人なんかを、人質に取られていたのかもしれない。
仮に俺が同じ立場だったとして、仁義を尽くすために妻や娘を犠牲にできるかと言えば、それは難しいだろう。
「……それでも……それでもあなたには、恨む権利があると思います」
俺がそういうと、斎藤は悲しそうな顔で「ありがとうございます」と答えた。
しかし、どれから聞けばいいのか頭を悩ませる。
斎藤の過去については、ノアから詳しく聞かせてもらった。
しかし、その話にはいくつか疑問点がある。
俺は「答えたくない質問には、無理に答えなくても構いません」と前置きをしたうえで、話を切り出した。
「斎藤さんは、魔王を討伐されたんですよね?」
「ええ」
「魔王というのは、どのくらい強い存在だったのですか?」
「そうですね……一国の兵を総動員しても、傷一つつけられるかどうかというところですかね」
「その魔王を倒した……おひとりで?」
「いえ、仲間がいました。別世界からの異世界人が一人、そしてこの世界の住人が3人」
「その仲間も、斎藤さんと同じくらい強いのですか?」
「……いいえ」
斎藤の話では、仲間の戦闘力はさほど高くなったという。
この世界の一般的な兵士に比べるとレベルは高い方だったそうだが、対魔王戦では手も足もでなかっただろうと。
その代わり、彼らには斎藤の補助の役割があった。
「魔王城までの道案内、身の回りの世話、荷物の運搬、そして回復や強化などの支援魔法。みんな、それぞれの役割を全うし、魔王討伐に協力してくれました。私一人では、成し遂げられなかったことでしょう」
「ただ、実際に戦闘に参加したのは斎藤さん一人だった」
「……そうですね。彼らが参加しても、無駄死にするだけでした」
やっぱり。
そう思って、俺はずっと抱えていた疑問を斎藤にぶつけた。
「どうしてそんな圧倒的な力を持つ斎藤さんを、オートラック王国は武力で制圧できると思ったのでしょう?魔王よりも強い存在なら、戦っても勝ち目がないことくらいわかりそうなものですが」
「……彼らは、私を殺す気はなかったのです」
「え?」
「ただ、国を挙げてとらえようとした、という事実が必要だったのです」
意味がわからず、俺は首を傾げた。
「魔王を討伐したことにより、オートラック王国の国民の多くが、私を英雄として敬ってくれました。当時王国は国民の支持を失っていましたから、私を取り込むことで支持を取り戻そうとしていたのです。しかし、私は国や権力に振り回されたくはなかった」
「だから、叙爵を断ったんですよね?」
「ええ。ただそれによって、王国側にとって、自分たちの味方に付かない私は邪魔者でしかなくなってしまった。そんなとき、私は貴族とちょっとしたいざこざを起こしてしまったのです」
「女の子を助けたと……」
「はい。しかし王国側にとって、重要だったのは私と貴族のあいだでトラブルが生じたことでした。彼らはこれ幸いと、話を彼らに都合よく変えて広めたのです」
「都合よく?」
「最終的に、女の子に危害を加えようとしていたのは私のほうで、止めに入った勇敢な貴族にまで暴力をふるったことになりました」
斎藤はそう言ったが、事件は人通りの多い街中で起こったこと。
そんなに簡単に、事実の改変ができるだろうか?
「日本で暮らしてきた伊月さんには理解できないかもしれませんが、この国の身分の差はとても大きいのです。数十人の平民の証言よりも、たった一人の貴族の証言が優先される。国は新聞社などにも手をまわし、徹底的に私の悪印象を広げることに成功しました」
「でも、女の子とか、その両親とか……」
「私をかばってくれようとした人もいたようですが、国の圧力には抗うことはできません。それに、私が貴族を取り押さえてしまったのは事実。まったくの嘘よりも、真実を混ぜた嘘のほうが信ぴょう性が増すものです。彼らの戦略は見事に成功し、民衆はもはや私を敬うことはなくなりました」
「……そんな……」
「状況を悪くした一番の原因は、かつての仲間が国側についたことでしょうか」
そう語る斎藤の瞳には、諦めの色が浮かんでいた。
コトン、とお酒のカップを斎藤がテーブルに置いた。
彼は追加のお酒を注ぎながら、話を続ける。
飲まなくては話せないような内容なのだろう。
「裏切られたとはいえ、私に彼らを恨む気持ちはまったくありません。長い間ともに旅を続けてきて、彼らがいかに善良な人間であるかを知っていたからです」
「善良な人間が、裏切るものですか?」
「……人は、優先順位をつけて行動する生き物です。彼らには、私よりも優先すべきことがあった。そのため、私を犠牲にしたのはある意味、仕方のないことでしょう」
斎藤の言葉に、俺はようやく理解した。
彼らもまた、国の圧力に負けてしまったのだと。
家族や友人なんかを、人質に取られていたのかもしれない。
仮に俺が同じ立場だったとして、仁義を尽くすために妻や娘を犠牲にできるかと言えば、それは難しいだろう。
「……それでも……それでもあなたには、恨む権利があると思います」
俺がそういうと、斎藤は悲しそうな顔で「ありがとうございます」と答えた。
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