娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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「歩きながら、ルートの確認をしておこうか」

 
 ノアがそう言って、右のほうを指さした。


「あっちがロナリア帝国。そして反対側がオートラック王国だね。ユミュリエール教国に行くには、どちらのかの国を跨ぐ必要があるんだ」

「……ロナリア帝国……」


 蓮とラウルは、かつて召喚された国の名前に顔を青くしている。


「大丈夫。今回はオートラック王国を通っていくから、ロナリア帝国には入らないよ。正晴くんは国を出て20年以上経ってるけど、2人はまだ追われて間もないからね。警備隊なんかに手配が回っていたら危ないし。ただ問題は、国境だね」

「国境か」

「そう。ロナリア帝国、オートラック王国、ユミュリエール教国は今、三つ巴状態なんだ。だから国境間の警備は厳しくなってる。主要な街道には兵士が常駐しているし、まず通れないだろうね」

「じゃあ、警備の薄いところを狙うのか?」

「うん。でも、巡回の警備がいる。巡回の隙を突かないと国境は越えられない」

「それなら探索魔法で……」

「いや、魔法はだめです」


 きっぱりと言い切ったのは、斎藤だった。
 理由を訊ねると「魔法は探知されるから」だという。


「この世界では、魔法の発動を探知する魔法道具が普及しています。世界のおよそ半数くらいの人が魔法を使える世界ですから、犯罪防止などを目的に開発されたそうです」

「なるほど……じゃあ、周囲を警戒しながら何とか……」

「それもリスクが高いでしょう。整備されていない国境沿いの道は、草木が生い茂り、視界の悪い場所が多い。巡回が接近しても気づかない可能性もあります」


 しかし、それでもリスクを承知で挑むしかないだろう。
 少しでも見晴らしの良い場所を探し、あとは運に身を任せるしかない。

 いざとなったら、俺が先陣を切って戦おう。
 そんな覚悟を人知れず決めるが……。


「なので、情報を買いに行きましょう」


 そういう斎藤の言葉に、俺は出鼻をくじかれた。


「じょ、情報を……?」


 戸惑いつつ問いかけると、斎藤は頷いて話を続ける。


「ええ。知り合いに独自の情報網を持つ情報屋がいます。やつなら、国境の巡回ルートも把握できるでしょう」

「そんな人が……」

「情報料はそれなりに吹っ掛けられるでしょうが、先日倉庫にためていた素材をまとめて売り払ったので、資金としては十分でしょう。やつには、魔王討伐時から世話になっているので」

「今でもお付き合いが?」

「ええ、時々」


 そして斎藤は小声で「ロナリア帝国から逃げ出した転移者の消息とか」と呟いた。
 俺は驚いて目を見開く。
 それはつまり、蓮とラウルに関する情報だろう。


「やつも何の情報も得ていませんでした。ということはつまり、帝国側には行方は突き止められてないということです。帝国の情報網がやつのそれに勝るとは思えないので」

「……なるほど」


 斎藤がそこまで言い切るということは、相当腕のいい情報屋なのだろう。
 俺は感心しつつ、話の続きに耳を傾けた。


「やつはこれから向かう街の小さなバーにいます。正確には、バーの奥の隠し部屋に。やつに会うためには、バーで特定の酒を頼む必要があります」

「なんだかそれって……」

「スパイ映画みたいでしょう?」

「ええ。ちょっとテンション上がりますね」

「私もそうでした」


 そういった斎藤は、どこか嬉しそうだった。
 もしかしたら、好みが合うのかもしれない。
 今度、元の世界の好きな映画や漫画なんかの話をしてみようか、などと俺は呑気に考えていた。
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