159 / 266
145 脅迫
しおりを挟む
穂先が当たった瞬間、青年はがくりとうなだれるように意識を失った。
しかし先程の少年のように、頭が光の粒になることはなかった。
穂先は確実に当たったように見えたが、実は逸れていたのだろうか。
そう思ったのもつかの間「馬鹿なことを」と呟いたノアの声に、それは誤りなのだと察した。
「いったい何が……?」
それでも状況がわからずに混乱していると、俺たちを守っていた子どもたちのうちの一人が『自殺したのよ』と教えてくれた。
声の主は兜を脱ぎ、憂いを帯びたため息をついた。
長い金髪を高い位置で一つに束ねた少女は、幼い顔つきながらも大人びた表情をしている。
『あの槍は、相手がどんな存在でも命を奪ってしまう恐ろしいもの。それはこの世界の神であっても変わらないわ』
「でも、あの青年は……」
『彼は器に過ぎなかったから。槍はあの子を貫いたように見えたけど、実際はその中身だけを刺したのよ。あなたたちには見えないかもしれないけど、彼の横には頭のない遺体が転がっているわ』
「そんな……」
『そもそも、神は永遠を生きる存在。病気やケガなんかで命を落とすことはないわ。……力を損なうことはあってもね。神を殺すには、あの槍のような特別な神具の力が必要になるの。だからあの槍はもともと、神の裁判のために……』
そこまで言いかけたところで、片腕を失った少年が『おい』と少女を制止した。
少女は少し困ったような顔をして『悪かったわ』と少年に謝罪する。
『つい喋りすぎてしまったわ。君たち、この話は他言無用でお願いね。とくにあの方には』
少女はノアはこっそり指さし、いたずらっぽく笑った。
少年は呆れたように肩をすくめる。
そして少し遠い目をして、少年が吐き捨てるように言った。
『つまりやつは、罪を償うことを放棄したということだ。我々は、やつに責任を問う機会すら奪われてしまった』
「……まあ、仕方ないことだよ」
そうつぶやいたのは、ノアだった。
ノアがパチンと指を鳴らすと、俺たちを囲んでいた壁がすうっと消えていった。
ノアは俺たちの様子を確認し「怪我はないね」と安心したように笑った。
そして俺たちのそばに立つ少女に、にっこりと笑みを向ける。
「おしゃべりはほどほどにね」
どうやら先ほどの会話はすべて聞かれていたらしい。
少女は目をそらしながら、小声で『すみません……』と返した。
ノアはため息をつきつつも、それ以上少女を責めることはしなかった。
代わりに、騒ぎを聞きつけたらしい騎士たちが駆けつけてきた。
騎士の一人が、地面に倒れこんでいる青年を見て顔を青くして叫んだ。
「ルーシュ様!」
ルーシュ、どこかで聞いた名前だ。
少し考えて、はっと気づいた。
確か、このユミュリエール教国の教皇の息子がそんな名前だったような気がする。
つまり、今の状態だけ見れば、俺たちは国のトップの息子を手にかけた犯罪者だといわれても仕方がない状況だ。
「貴様ら……よくも……」
完全臨戦態勢の神聖騎士たちが、俺たちに向かって剣を構える。
ただし、彼らの視線には違和感がある。
俺たちよりも武装しているノアの部下たちのほうに敵意が向きそうなものだが、そちらには目を向けることもない。
まるで、その姿が見えていないようだ。
ノアは小さく指をパチンと鳴らした。
すると再び空間にひずみが生じる。
ノアの部下たちはひずみの前に列を正して並び、息のそろった敬礼をする。
そして、ひずみの中に消えていった。
俺たちはぽかんとしながらその姿を眺めていたが、騎士たちはやはり目もくれないかった。
その後、いち早く動いたのは斎藤だった。
斎藤は袖口から仕込みナイフを取り出し、ルーシュの首筋にあてる。
袖口に隠しポケットでもついていたのだろうか?
驚く騎士たちに、斎藤は落ち着いた声で告げた。
「聖女をこの場に連れてこい。さもなくば、この男は命を落とすことになるだろう」
しかし先程の少年のように、頭が光の粒になることはなかった。
穂先は確実に当たったように見えたが、実は逸れていたのだろうか。
そう思ったのもつかの間「馬鹿なことを」と呟いたノアの声に、それは誤りなのだと察した。
「いったい何が……?」
それでも状況がわからずに混乱していると、俺たちを守っていた子どもたちのうちの一人が『自殺したのよ』と教えてくれた。
声の主は兜を脱ぎ、憂いを帯びたため息をついた。
長い金髪を高い位置で一つに束ねた少女は、幼い顔つきながらも大人びた表情をしている。
『あの槍は、相手がどんな存在でも命を奪ってしまう恐ろしいもの。それはこの世界の神であっても変わらないわ』
「でも、あの青年は……」
『彼は器に過ぎなかったから。槍はあの子を貫いたように見えたけど、実際はその中身だけを刺したのよ。あなたたちには見えないかもしれないけど、彼の横には頭のない遺体が転がっているわ』
「そんな……」
『そもそも、神は永遠を生きる存在。病気やケガなんかで命を落とすことはないわ。……力を損なうことはあってもね。神を殺すには、あの槍のような特別な神具の力が必要になるの。だからあの槍はもともと、神の裁判のために……』
そこまで言いかけたところで、片腕を失った少年が『おい』と少女を制止した。
少女は少し困ったような顔をして『悪かったわ』と少年に謝罪する。
『つい喋りすぎてしまったわ。君たち、この話は他言無用でお願いね。とくにあの方には』
少女はノアはこっそり指さし、いたずらっぽく笑った。
少年は呆れたように肩をすくめる。
そして少し遠い目をして、少年が吐き捨てるように言った。
『つまりやつは、罪を償うことを放棄したということだ。我々は、やつに責任を問う機会すら奪われてしまった』
「……まあ、仕方ないことだよ」
そうつぶやいたのは、ノアだった。
ノアがパチンと指を鳴らすと、俺たちを囲んでいた壁がすうっと消えていった。
ノアは俺たちの様子を確認し「怪我はないね」と安心したように笑った。
そして俺たちのそばに立つ少女に、にっこりと笑みを向ける。
「おしゃべりはほどほどにね」
どうやら先ほどの会話はすべて聞かれていたらしい。
少女は目をそらしながら、小声で『すみません……』と返した。
ノアはため息をつきつつも、それ以上少女を責めることはしなかった。
代わりに、騒ぎを聞きつけたらしい騎士たちが駆けつけてきた。
騎士の一人が、地面に倒れこんでいる青年を見て顔を青くして叫んだ。
「ルーシュ様!」
ルーシュ、どこかで聞いた名前だ。
少し考えて、はっと気づいた。
確か、このユミュリエール教国の教皇の息子がそんな名前だったような気がする。
つまり、今の状態だけ見れば、俺たちは国のトップの息子を手にかけた犯罪者だといわれても仕方がない状況だ。
「貴様ら……よくも……」
完全臨戦態勢の神聖騎士たちが、俺たちに向かって剣を構える。
ただし、彼らの視線には違和感がある。
俺たちよりも武装しているノアの部下たちのほうに敵意が向きそうなものだが、そちらには目を向けることもない。
まるで、その姿が見えていないようだ。
ノアは小さく指をパチンと鳴らした。
すると再び空間にひずみが生じる。
ノアの部下たちはひずみの前に列を正して並び、息のそろった敬礼をする。
そして、ひずみの中に消えていった。
俺たちはぽかんとしながらその姿を眺めていたが、騎士たちはやはり目もくれないかった。
その後、いち早く動いたのは斎藤だった。
斎藤は袖口から仕込みナイフを取り出し、ルーシュの首筋にあてる。
袖口に隠しポケットでもついていたのだろうか?
驚く騎士たちに、斎藤は落ち着いた声で告げた。
「聖女をこの場に連れてこい。さもなくば、この男は命を落とすことになるだろう」
22
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる