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158 娘の今
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「それで、話って?」
ちびちびと舐めるように酒を飲みながら、ノアに問いかける。
ノアが少し悲しそうな顔をしているのが、妙に気がかりだった。
「柚乃ちゃんのことなんだけどね」
予想外に娘の名前が出て、俺は思わず目を見開いた。
「ゆ、柚乃に……何かあったのか……?」
自分でも声が震えているのがわかる。
鼓動がドクドクと早まるのを感じながら、俺はじっとノアを見つめた。
「ううん。柚乃ちゃんは元気にしているよ」
「そ、そうか……」
「今の柚乃ちゃんがどうしているのか、何を考えているのか、伊月くんは知りたい?」
もちろん知りたい。
そう即答したかったが、含みのあるノアの言い方がなんだか引っかかる。
俺は悩んだ結果「聞いてもいいことなのか?」と問い返した。
「どうだろう?……知りたいなら教えてあげることはできる。でも、柚乃ちゃんから直接話を聞いた方がいいのかもしれない」
「……それはどういう……?」
ノアもまた、悩んでいるように見えた。
俺に話をするべきか、しない方がいいのか。
ノアが躊躇する何かが娘に起こっているということが、俺には恐ろしく思えて仕方がなかった。
静寂に包まれた室内の空気は重い。
窓の外から見える夜の闇が、俺の不安を表しているようだった。
「聞かなくてもいいんじゃない?」
ベッドから、不意にあっけらかんとした声が聞こえる。
視線を向けると、眠っていたはずの妻が寝ぼけ眼でこちらをぼんやり眺めていた。
「詩織?」
「柚乃ちゃん、元気なんだよね?身体だけじゃなくて、心もちゃんと」
ゴシゴシと目を服の裾でこすりながら、妻が起き上がる。
まだ眠気が強いらしく、半分夢の中にいるような顔だ。
それでもその視線は、しっかりとノアを貫いている。
「元気だよ、心身ともにね」
ノアが確かにそう答えると、妻はふにゃりと気が抜けたように笑う。
その笑顔を見ていると、俺の不安も少し和らいだ気がした。
「ノアくんが悩むってことは、柚乃ちゃんにとって大事なことなんだと思う。だったら人からじゃなくて、本人に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
「でも、柚乃にはいつ会えるか……」
「きっともうすぐだよ。じゃなかったら、ノアくんがこんな話するわけないもん」
そう言って微笑む妻が大人びて見えて、もしかして記憶が戻ったのではないかと思った。
でもそのしゃべり方はいまだ幼い。
俺は妻の言葉に同意の気持ちを込めて頷いた。
「そうだな。大事なことは、柚乃からちゃんと聞こう。今は……元気にしていると知れただけで、十分だ」
「……そっか」
俺の言葉に、ノアは安堵したような顔をした。
それを見て、一抹の不安を覚えたが、気づかないふりをした。
再びうとうとし始めた妻を寝かしつけていると、蓮と話を終えた奈央が戻ってきた。
そして机の上のグラスをみて「いいなぁ」と目を輝かせる。
ノアはそんな奈央に「一緒にどうだい?」と小瓶を掲げて見せた。
奈央は建前として遠慮しながらも、すぐにノアの差し出したグラスを受け取った。
酒の香りを楽しむその姿は晴れやかで、蓮と満足のいく会話ができたであろうことが窺える。
そんな奈央に、ノアが問いかけた。
「奈央ちゃん。蓮くんとゆっくり話もできたことだし、そろそろ元の世界へ戻るかい?」
奈央はその言葉に、うっかりグラスを落としそうになったがすんでのところで何とかグラスをつかみなおすことができたようだ。
奈央は少し考えた顔をしてから「早く帰りたい気持ちはやまやまだけど」と前置きしたうえで続ける。
「私のために、みんないろいろ頑張ってくれたんだもん。元の世界に戻るのは、改めてお礼を言ってからにするわ。それに……」
「それに?」
「帰ることに決めたのは、私だけじゃないしね」
得意げに言う奈央に、俺とノアは顔を見合わせて笑った。
ちびちびと舐めるように酒を飲みながら、ノアに問いかける。
ノアが少し悲しそうな顔をしているのが、妙に気がかりだった。
「柚乃ちゃんのことなんだけどね」
予想外に娘の名前が出て、俺は思わず目を見開いた。
「ゆ、柚乃に……何かあったのか……?」
自分でも声が震えているのがわかる。
鼓動がドクドクと早まるのを感じながら、俺はじっとノアを見つめた。
「ううん。柚乃ちゃんは元気にしているよ」
「そ、そうか……」
「今の柚乃ちゃんがどうしているのか、何を考えているのか、伊月くんは知りたい?」
もちろん知りたい。
そう即答したかったが、含みのあるノアの言い方がなんだか引っかかる。
俺は悩んだ結果「聞いてもいいことなのか?」と問い返した。
「どうだろう?……知りたいなら教えてあげることはできる。でも、柚乃ちゃんから直接話を聞いた方がいいのかもしれない」
「……それはどういう……?」
ノアもまた、悩んでいるように見えた。
俺に話をするべきか、しない方がいいのか。
ノアが躊躇する何かが娘に起こっているということが、俺には恐ろしく思えて仕方がなかった。
静寂に包まれた室内の空気は重い。
窓の外から見える夜の闇が、俺の不安を表しているようだった。
「聞かなくてもいいんじゃない?」
ベッドから、不意にあっけらかんとした声が聞こえる。
視線を向けると、眠っていたはずの妻が寝ぼけ眼でこちらをぼんやり眺めていた。
「詩織?」
「柚乃ちゃん、元気なんだよね?身体だけじゃなくて、心もちゃんと」
ゴシゴシと目を服の裾でこすりながら、妻が起き上がる。
まだ眠気が強いらしく、半分夢の中にいるような顔だ。
それでもその視線は、しっかりとノアを貫いている。
「元気だよ、心身ともにね」
ノアが確かにそう答えると、妻はふにゃりと気が抜けたように笑う。
その笑顔を見ていると、俺の不安も少し和らいだ気がした。
「ノアくんが悩むってことは、柚乃ちゃんにとって大事なことなんだと思う。だったら人からじゃなくて、本人に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
「でも、柚乃にはいつ会えるか……」
「きっともうすぐだよ。じゃなかったら、ノアくんがこんな話するわけないもん」
そう言って微笑む妻が大人びて見えて、もしかして記憶が戻ったのではないかと思った。
でもそのしゃべり方はいまだ幼い。
俺は妻の言葉に同意の気持ちを込めて頷いた。
「そうだな。大事なことは、柚乃からちゃんと聞こう。今は……元気にしていると知れただけで、十分だ」
「……そっか」
俺の言葉に、ノアは安堵したような顔をした。
それを見て、一抹の不安を覚えたが、気づかないふりをした。
再びうとうとし始めた妻を寝かしつけていると、蓮と話を終えた奈央が戻ってきた。
そして机の上のグラスをみて「いいなぁ」と目を輝かせる。
ノアはそんな奈央に「一緒にどうだい?」と小瓶を掲げて見せた。
奈央は建前として遠慮しながらも、すぐにノアの差し出したグラスを受け取った。
酒の香りを楽しむその姿は晴れやかで、蓮と満足のいく会話ができたであろうことが窺える。
そんな奈央に、ノアが問いかけた。
「奈央ちゃん。蓮くんとゆっくり話もできたことだし、そろそろ元の世界へ戻るかい?」
奈央はその言葉に、うっかりグラスを落としそうになったがすんでのところで何とかグラスをつかみなおすことができたようだ。
奈央は少し考えた顔をしてから「早く帰りたい気持ちはやまやまだけど」と前置きしたうえで続ける。
「私のために、みんないろいろ頑張ってくれたんだもん。元の世界に戻るのは、改めてお礼を言ってからにするわ。それに……」
「それに?」
「帰ることに決めたのは、私だけじゃないしね」
得意げに言う奈央に、俺とノアは顔を見合わせて笑った。
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