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182 待ちわびた瞬間
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魔王と話していて、軽い違和感を覚えた。
当初魔王は俺たちを「貴様ら」と呼んでいたのに、さっきは「貴殿ら」と呼ばれた気がする。
それに、俺たちを睨みつけるような視線もすっかり鳴りを潜めて、今はどこか気まずそうな視線を向けられているように感じていた。
「ところで」
少し低い声で、ノアが言った。
「ここには、魔法陣が隠されているよね?それもものすごく強力なやつ」
「ああ」
魔王はあっさり、ノアの言葉を認めた。
俺は思わず、どこにそんなものが隠されているのかと辺りを見渡す。
しかし、そんなものはどこにも見当たらない。
戸惑っていると『隠匿の魔法が使われてる』とサミューが終えてくれた。
この小屋を覆うほどの大きな魔法陣が、地面に描かれているのだそうだ。
「この小屋はそもそも、魔法陣の上に建てられたものだ。歴代魔王の手にも負えない脅威が訪れたとき、この場に封印できるようにな」
「……それ、言ってよかったのか?」
「いいも悪いも、そもそもこの程度では足止めもできないだろう」
諦めたように言う魔王に「よくわかってるね」とノアが笑いかける。
加えて「無理に使おうとしたら、壊してやろうと思ってたのに」なんて続けるのだから、恐ろしい限りだ。
そこまで話したところで、先程の男が再び影の中から姿を現した。
そういう能力だと理解していても、ビビってしまうのはどうしようもない。
「確認がとれました」
「……やはりな」
魔王は男と短くやりとりをしたあと、俺たちに向かって頭を下げた。
「数々の非礼、心よりお詫びする」
「ということは、柚乃ちゃんの話と僕らの話が一致したのかな?」
「ああ。……すぐ彼女のもとへ案内しよう」
魔王は立ち上がり、踵を返して歩き始めた。
どうやら直々に連れて行ってくれるらしい。
急な展開に戸惑いつつも、急いでそのあとを追う。
道すがら、何人かの魔族とすれ違った。
彼らは一様に、魔王と連れ立って歩いている俺たちに窺うような視線を向けてくる。
「え、皆様、どうされたんですか?!」
俺たちの姿を目にとめたのか、後ろの方から慌てた様子でアリーが駆けつけてきた。
俺たちが魔王に失礼でも働いたと思ったのか、俺たちと魔王を交互に見ておろおろしている。
その様子を見る限り、俺たちをさらった魔王の作戦をアリーは知らずにいたようだ。
「心配はいらない。持ち場に戻れ」
「ですが……」
「彼らとはちょっとした縁があってな。賓客として過ごしてもらうことになった。連行しているわけではない。新しい部屋が決まったら知らせるから、後のことは頼む」
魔王の言葉に、アリーがほっとしたように微笑んだ。
そして「かしこまりました」と頭を下げる。
俺たちの部屋は、娘の近くに改めて用意してくれるそうだ。
ありがたく思いつつも、魔王と娘の部屋が隣だと聞いて、なんとも不快な気分になった。
ずっと考えようにしているとある可能性が、現実味を帯びていくようで、頭をふっていやな想像を追い出す。
「伊月くん、さっきから百面相しているよ」
ノアがくすくす笑いながら言う。
だが仕方がないだろう。
入ってくる情報が多すぎて、感情がごちゃまぜになっているのだ。
ふと自分の手を見ると、小刻みに震えていた。
娘にようやく会える喜びのためか、それとも漠然とした不安感のせいか。
ぎゅっと拳を握りしめ、顔を上げる。
目の前には、虹色の膜のようなもので覆われたゲートが佇んでいる。
これが、以前アリーが話していた結界なのだろう。
魔王が俺たち一人一人に手をかざすと、手の甲に文様が浮かび上がった。
この文様が、結界の通行許可証の役割を果たすらしい。
ゲートをくぐるとき、なんとも言えない抵抗のようなものを感じたが、そういう仕様なのだという。
ちなみに、文様のない者は結界に触れた瞬間弾かれるそうだから、よくできている。
結界を抜けてしばらく歩いた先は突き当りになっていて、ドアがふたつ並んでいた。
左が魔王、そして右が娘の部屋だという。
娘の部屋の前には、侍女だと名乗る落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。
そして俺たちを見て頭を下げると、扉越しに「お越しになりました」と声をかけた。
中からは娘とは異なる女性の声で「どうぞ」と返事が聞こえる。
それを確認してから、侍女はゆっくりと扉を開いた。
当初魔王は俺たちを「貴様ら」と呼んでいたのに、さっきは「貴殿ら」と呼ばれた気がする。
それに、俺たちを睨みつけるような視線もすっかり鳴りを潜めて、今はどこか気まずそうな視線を向けられているように感じていた。
「ところで」
少し低い声で、ノアが言った。
「ここには、魔法陣が隠されているよね?それもものすごく強力なやつ」
「ああ」
魔王はあっさり、ノアの言葉を認めた。
俺は思わず、どこにそんなものが隠されているのかと辺りを見渡す。
しかし、そんなものはどこにも見当たらない。
戸惑っていると『隠匿の魔法が使われてる』とサミューが終えてくれた。
この小屋を覆うほどの大きな魔法陣が、地面に描かれているのだそうだ。
「この小屋はそもそも、魔法陣の上に建てられたものだ。歴代魔王の手にも負えない脅威が訪れたとき、この場に封印できるようにな」
「……それ、言ってよかったのか?」
「いいも悪いも、そもそもこの程度では足止めもできないだろう」
諦めたように言う魔王に「よくわかってるね」とノアが笑いかける。
加えて「無理に使おうとしたら、壊してやろうと思ってたのに」なんて続けるのだから、恐ろしい限りだ。
そこまで話したところで、先程の男が再び影の中から姿を現した。
そういう能力だと理解していても、ビビってしまうのはどうしようもない。
「確認がとれました」
「……やはりな」
魔王は男と短くやりとりをしたあと、俺たちに向かって頭を下げた。
「数々の非礼、心よりお詫びする」
「ということは、柚乃ちゃんの話と僕らの話が一致したのかな?」
「ああ。……すぐ彼女のもとへ案内しよう」
魔王は立ち上がり、踵を返して歩き始めた。
どうやら直々に連れて行ってくれるらしい。
急な展開に戸惑いつつも、急いでそのあとを追う。
道すがら、何人かの魔族とすれ違った。
彼らは一様に、魔王と連れ立って歩いている俺たちに窺うような視線を向けてくる。
「え、皆様、どうされたんですか?!」
俺たちの姿を目にとめたのか、後ろの方から慌てた様子でアリーが駆けつけてきた。
俺たちが魔王に失礼でも働いたと思ったのか、俺たちと魔王を交互に見ておろおろしている。
その様子を見る限り、俺たちをさらった魔王の作戦をアリーは知らずにいたようだ。
「心配はいらない。持ち場に戻れ」
「ですが……」
「彼らとはちょっとした縁があってな。賓客として過ごしてもらうことになった。連行しているわけではない。新しい部屋が決まったら知らせるから、後のことは頼む」
魔王の言葉に、アリーがほっとしたように微笑んだ。
そして「かしこまりました」と頭を下げる。
俺たちの部屋は、娘の近くに改めて用意してくれるそうだ。
ありがたく思いつつも、魔王と娘の部屋が隣だと聞いて、なんとも不快な気分になった。
ずっと考えようにしているとある可能性が、現実味を帯びていくようで、頭をふっていやな想像を追い出す。
「伊月くん、さっきから百面相しているよ」
ノアがくすくす笑いながら言う。
だが仕方がないだろう。
入ってくる情報が多すぎて、感情がごちゃまぜになっているのだ。
ふと自分の手を見ると、小刻みに震えていた。
娘にようやく会える喜びのためか、それとも漠然とした不安感のせいか。
ぎゅっと拳を握りしめ、顔を上げる。
目の前には、虹色の膜のようなもので覆われたゲートが佇んでいる。
これが、以前アリーが話していた結界なのだろう。
魔王が俺たち一人一人に手をかざすと、手の甲に文様が浮かび上がった。
この文様が、結界の通行許可証の役割を果たすらしい。
ゲートをくぐるとき、なんとも言えない抵抗のようなものを感じたが、そういう仕様なのだという。
ちなみに、文様のない者は結界に触れた瞬間弾かれるそうだから、よくできている。
結界を抜けてしばらく歩いた先は突き当りになっていて、ドアがふたつ並んでいた。
左が魔王、そして右が娘の部屋だという。
娘の部屋の前には、侍女だと名乗る落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。
そして俺たちを見て頭を下げると、扉越しに「お越しになりました」と声をかけた。
中からは娘とは異なる女性の声で「どうぞ」と返事が聞こえる。
それを確認してから、侍女はゆっくりと扉を開いた。
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