娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
252 / 266

229 新たな日常

しおりを挟む
 日常は、思っていたよりもすんなり戻ってきた。
 妻や義母には少しのんびりすればいいと言われたが、日本に帰ってきてから半月もするころには仕事も再開した。
 久しぶりの通勤電車の圧迫感すら懐かしかった。

 娘は異世界で暮らすことになったが、住民票をあちらに移すことはできない。
 役所にそんなことを言ったら、おかしなやつだと思われるだけだろう。
 だからといって、娘の存在をなかったことにはしたくなかったし、死んだことにもしたくなかった。
 そのため不本意ながらも、これからも失踪者として扱われても仕方ないとあきらめていた。

 しかし娘の所在については、ノアが記憶や記録を操作し、辻褄を合わせてくれた。
 娘は海外に留学したことになり、その後向こうに永住することを決めるという筋書きだ。
 異世界は海外ではないが、あながち嘘ではないだろう。
 自治体や学校の手続きをどうしたのか、詳細は「企業秘密」だと濁されてしまったが、うまくやってくれたらしい。

 ちなみに、娘の失踪がなくなったことによって、俺の会社の休業理由は病気療養に変更されていた。
 病院の書類までしっかりと準備されていて、改めてノアに感謝した。

 ただし、異世界転移被害者の会関係者の記憶は、そのままにしておいてくれたらしい。
 交流をこれからも続けられるようにとの配慮が、なんとも嬉しかった。


 異世界とこちらの世界を繋ぐ鍵は、基本的に自宅で管理することになった。
 世界がつながるとき、鍵の傍にある扉が白い扉に変質する。
 そのため、職場や取引先なんかでうっかりつながったら困るだろうと妻と話した結果だ。
 鍵は所有者から一定時間離れると手元に戻ってくる仕組みなので、長時間家を空けるときは妻が持ち歩いてくれている。

 また異世界間を移動するとき、時間の経過に誤差がでることが多いが、白い扉に関しては気にしなくていいとノアに言われた。
 なんでも、普段扉は閉じているが、二つの世界を繋ぐ道は固定されているから、時間がずれることはないらしい。

 しかし時間のずれの問題がないからと言って、事前連絡もなしに向こうにいきなり押し掛けるわけにはいかない。
 魔王は気にしなくていいと言ってくれたが、こちらで娘が結婚していたとしても、無断で訪問することはしないだろうというと「そういうものか」と納得してくれた。
 前もって決めたルールは、二つ。

 訪問前に白い扉を通して手紙を送り、相手の返答を得ること。
 ただし緊急時は、事前の連絡なしで扉を使用すること。

 手紙を送るときは、白い扉を開かず、下の隙間から手紙だけを差し入れることになった。
 手紙を届けるたびに扉を開けていては、プライバシーの確保が難しいと判断したからだ。
 うっすら扉を開けて手紙を差し入れようかと話していたら、ちょうど遊びに来ていたノアがこの方法を提案してくれた。
 まるで実態のあるメールのようで、なんだかおもしろい。
 ちなみに娘とやり取りするために、妻がかわいらしい便箋と封筒を買い込んでいたのが微笑ましかった。


 娘からは訪問を知らせるもののほかにも、頻繁に手紙が届く。
 少し前には、魔王との婚約発表が盛大に行われたことを知らせてくれた。
 参加も打診されたが、人前に出るのは俺も妻もあまり得意ではないため、遠慮した。
 代わりに、結婚式には必ず出席すると約束した。

 結婚式は、娘が出産してしばらくしたころに行うという。
 妊娠中に行うには、準備期間が足りないようだ。
 一国の主でもある魔王の結婚式に招く来賓は多く、遠方から参列するものも少なくない。
 それに娘の体調を最優先にという魔王らしい理由も相まっての決定だった。

 結婚より先に子どもが生まれると非難を浴びるのではないかと危惧していたが、サーシャによるとまったく問題ないらしいので安堵した。
 むしろ「何が問題なんだ?」と首を傾げられたくらいだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...