娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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特別編(27)手料理

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「うちの子がご迷惑をおかけしました」


 母がそう言って頭を下げると、新は「いえいえ」と微笑んだ。
 笑っているけど、なんだか泣きそうな顔をしている新を、アイシャは不思議に思って見つめる。


「あの……?」


 母も戸惑ったような視線を新に向けた。
 すると新は「申し訳ない」と眉を下げる。


「瀬野さんの娘さんに会えたんだと思うと、なんだかこみあげてくるものが」

「……父のお知り合いなんですか?」

「ええ。瀬野さんには、本当にお世話になりまして」


 母は不思議そうに新と蓮を交互に見ていた。
 その隣で父も、訝しむような視線を向けている。

 そのとき祖父が「佐々木さんと蓮くんだよ」と母に言った。


「ああ、あの!」


 母は驚いたような顔をしたあと、にっこりと微笑んだ。
 そして「父と母がお世話になりました」と頭を下げる。

 父はまだ首を傾げていたが、母が何か耳打ちすると、納得したように頷いた。


「佐々木くん、久しぶりだね。前にみんなで勉強会したの、覚えてる?」

「久しぶり。覚えてるよ。あのときは世話になりました」


 蓮がそういうと、母は楽しそうに笑った。


「話には聞いていたんだけど、すごく大変だったんだって?」

「まあな。でも今になって思えば、悪いことばっかりでもなかったかもな」

「そっか……」

「そういうそっちは、今は魔王の嫁になったんだろ?」


 そこまで言って、蓮がふと父に視線を向けて固まる。
 そしてわなわなと震えだしたかと思うと、興奮した様子で新の後ろに隠れた。


「え、ちょっと待って。その隣にいるのってまさか、魔王ご本人とか言わないよな……?」

「ご本人だよ?」

「まじか!」


 蓮は父が怖いのか、新の背中に隠れたままだ。
 それでもチラリと顔をのぞかせ、キラキラした瞳で父を見つめている。


「レン、怖いの?パパ優しいよ?」


 アイシャが問いかけると、蓮はまたはっとした顔をしてからアイシャを指さし「魔王の娘じゃん!」と叫んだ。
 その頭を新が軽く小突き「すみません」と呆れ顔で謝る。

 アイシャは驚いたが、蓮が小声で「魔王……やばい、かっこいい……」とつぶやいたのが聞こえたので、悪い気はしなかった。







 その日の晩ごはんは、祖母と曾祖母が腕によりをかけて作ってくれた。
 祖父母の家には料理人がいないと知って、アイシャは驚いた。
 魔王城ではいつも、厨房の料理人が腕を振るい、母が手料理を作ることはほとんどなかったから。

 それでも母はたまに、おでかけのときにお弁当というものを作ってくれる。
 お弁当というのは母の故郷の文化らしく、城の料理人たちも興味深そうに箱に詰められていく料理の数々を眺め、感心していた。

 祖母と曾祖母の料理の中には、母のお弁当で食べたことのあるおかずもある。
 アイシャはうれしくなって「これ好き!」と指をさす。

 そんなアイシャをにこにこと眺めながら、曾祖母が「卵焼きね」と答えた。


「ママが作ったごはんみたい」

「それはそうよ。ママはおばあちゃんに料理を教わったんだもん」


 母が言って、アイシャは納得した。
 見慣れない料理もたくさん並んでいて、どれから食べようかと心が弾む。
 そんなアイシャの口元を、母がそっとハンカチで拭った。
 どうやらよだれが垂れていたらしい。


「アイシャもお腹を空かせているみたいだし、頂きましょうか」


 祖母が笑いながら言う。
 両手をあわせて「いただきます!」とアイシャは元気よく挨拶をして料理に箸を伸ばした。
 物心つく前から食事の挨拶は教えられていたが、それが日本の文化だということをアイシャはまだ知らない。
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