【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい

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第4話

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「レオ兄様、ユージオ兄様!」

 ヅカヅカと靴音を鳴らしながら近づいてくる二人組は二番目の兄のレオドールと三番目の兄のユージオだ。

 レオ兄様がジトっとアーデルヘルムを睨めば彼は頭を下げる。

「ヴェロニカ。お前、こんなところで何やってるんだ」
「何って、剣術の稽古を付けてもらってるのよ」
「お前には必要ないだろ」

 バッと持っていた木刀を取り上げられムッと口を尖らせる。

 昔からレオ兄様は私のやることに口出しをしてくるから今まで何回も衝突してきた。

それは私のことを思ってくれているからなのだと分かってはいるのだけれど。お互い気が強いからなかなか収まらない。

「兄様には関係ないでしょ。それに騎士団の仕事はどうしたのよ」

 王子であれど男は自分の身は自分で守れ、という国王である父の脳筋方針で兄達は子供の頃からアーデルヘルムに剣術を教えられていた。

 長兄のエミリオは跡継ぎとして父の元に付いているが、二人はそのままの流れで近衛騎士団に入っている。

 今は近衛騎士団にいる時間だ。だからいちいち煩い兄達がいないこの時間を選んだというのに。

「休憩中だ」
「おかしいですね。いつもならまだ稽古中のはずですが」

 私たちの会話に割り込んできたアーデルヘルムに兄の片眉がピクリと動いた。

 明らかに不機嫌の雰囲気が醸し出されているが、アーデルヘルムは気にせずに胸ポケットから懐中時計を取り出して時計を確認すると兄二人に視線を向けた。

 先ほどまで臣下としての顔をしていたが騎士団の話が出れば違う。すぐに近衛騎士団長の顔をして、そのギャップに胸がときめいてしまった。

 「うっ」とレオ兄様の半歩後ろに立つユージオ兄様は言葉に詰まらせるも、レオ兄様は胸を張ってアーデルヘルムに向き合う。

「副団長殿に急用ができたため、早めの休憩を言い渡されてきたんだ」
「・・・・・・そうでしたか。失礼しました」

 後ろ暗いことはないと言い張るレオ兄様とは逆に、ユージオ兄様は目を逸らした。

 恐らく無理を言って休憩を取ってきたのだろう。だがそれを休暇中のアーデルヘルムが確認するすべがないので、アーデルヘルムは素直に引き下がる。

 何か言いたげに引き下がったアーデルヘルムが気に食わなかったのか、兄様は眉間に皺を寄せた。

「先日父上に聞かされたのだが、妹と婚約を結んだというのは本当か」
「はい。その通りです」

 すぐに頷いたアーデルヘルムにレオ兄様の目つきはさらに鋭くなっていく。

 婚姻が決まったことを報告したらレオ兄様だけが反対していたのだが、まさか本人に噛み付いてくるなんて。

「……貴殿は父上に男爵位を賜っていたがただの平民だろ。そんな男に大事な妹を幸せにできるとは──」
「!!」

 その発言に私は目をカッと見開く。

「レオドール兄様!!」

 思ったより大きな声で怒鳴ってしまい、三人の驚いた目がこちらに一気に向く。

 それに負けず、目と眉を吊り上げてレオ兄様だけ睨むと兄様はさっきのユージオ兄様みたいに言葉を詰まらせた。

 私がレオ兄様を略さずに呼ぶ時は本気で怒っていることを知っているからだ。

「それは国民を助け導く王族として恥ずべき発言です。アーデルヘルムに謝ってください!」

 レオ兄様は昔から王族として誇りを持っているため、平民や下級貴族を馬鹿にするところがある。

 お父様やエミリオ兄様に散々怒られて気をつけてはいるみたいだが、頭に血が昇ると口から出てしまうのが悪いところだ。

 至極当然なことを妹に言われたレオ兄様は言葉に詰まらせる。そしてアーデルヘルムにゆっくりと頭を下げた。

「……悪かった」
「いえ、私は大丈夫です」

 アーデルヘルムは困ったように「頭を上げてください」と言うと、レオ兄様は目線を逸らして頭を上げた。ユージオ兄様はほっと胸を撫で下ろしている。

 まだ頭に血が登っている私は心配そうにこちらを向いたアーデルヘルムに深々と頭を下げる。

「兄が失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
「ヴェロニカ様! 頭を上げてください」

 まさか私にまで頭を下げられるとは思っていたのかアーデルヘルムの焦った声が頭上から聞こえる。

 一回のみならず二回も王族に頭を下げられたのだ。他の人に見られたら変な噂が立つだろう。

 促されて頭を上げるも、こんな顔を見られなくて私の視線は自分の靴にある。

「……アーデルヘルム、申し訳ありません。少し体調が悪いのでこの場で失礼いたします。次の約束の日は後日連絡しますので」

 アーデルヘルムに引き止められる前に早口で話し、ぺこりとお辞儀をしてその場を後にする。

 ユージオ兄様が「送っていこうか」申し出てくれたけど丁重にお断りをしてその場を後にした。



 その場には男三人だけが取り残された。気まずい雰囲気を察してユージオはレオドールを連れて去っていき、ついでに木刀も持っていってくれた。

 その二人の背中を見送り、アーデルヘルムはため息を吐いて首の後ろを掻いた。

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