〘完結〛わたし悪役令嬢じゃありませんけど?

桜井ことり

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「ソフィア、ここはちょっと頭を冷やして、一度ライネル様と直接話してみるべきじゃない?」

邸内のサロンで、ロザリーが真剣な面持ちで言う。私もそれはわかっていた。だけど、どう声をかければいいのか。昨日の会話は一方的な“破棄”で終わってしまった。彼の気持ちを知るには、直接会うしかないとは思うけれど、ライネルはそもそも会ってくれるのだろうか。

「それでも……私から積極的に行って、もし門前払いされたらと思うと」

「遠慮してたら進展しないよ。婚約破棄なんて大ごとなのに、黙って時が過ぎるのを待ってても、いい方向に行くかどうか」

ロザリーの言葉はまっとうだ。何より、彼女は私のことを案じてくれている。私は一度深呼吸をして、頭の中を整理してみる。

「そうね……ありがとう、ロザリー。ライネルに直接会える機会を探してみるわ。あの人が何を考えているのか、話してみなきゃわからないものね」

「うん、その調子! 私も協力するから。もし反応が悪ければ、周囲から固める作戦でいこうよ」

彼女の明るい笑顔に力をもらい、重かった胸が少しだけ軽くなる。まずはライネルに連絡を取ってみよう。仮に拒まれたとしても、それで終わりにするわけにはいかない。

 

午後、私は書斎にこもって一通の手紙を書き始めた。ライネル宛だ。何事もなかった頃なら、手紙を書くときは嬉しい気持ちが湧いていたのに、いまはどう文面を綴ればいいか迷いばかりが先行する。

「ライネル様、昨日のご発言についてお伺いしたく――」

書きかけの文字を読んで、私は首を振る。そんな堅苦しい文では、まるで他人行儀だ。もう少し、率直に書きたい。だけど貴族らしい形式を崩すわけにもいかない。思わずため息が漏れた。

 

悩んだ末、「お時間をいただければ、少しお話をさせてください」というフレーズで締めくくった。その手紙を使用人に託しながら、内心は落ち着かなかった。ライネルが読んで、どう反応するか――返事があるのか、ないのか。

夕方になっても返事は届かず、私は少しも落ち着かないまま眠りについた。

 

翌朝。まだ早い時間帯に、ロザリーから興奮気味に声を掛けられた。

「ソフィア、どうやらライネル様が公爵家の馬車で王宮に向かったらしいって!」

「王宮? いきなりどうして?」

「そこまではわからないけど……もしかしたら王宮内で会えるかもしれないよ。何かの用事があれば、あなたも行くことになるかもしれないでしょ?」

ロザリーが妙に目を輝かせている。正直、今の私に王宮へ出向く予定はない。けれど何かしら招かれる機会があれば、ライネルに直接会って話すチャンスがあるかもしれない。そんなことを考えていたら、突然執事のウィルフレッドが部屋をノックする。

「お嬢様、王宮の小宴への招待状が届いております。急な開催とのことで、本日夕刻より行われるそうです」

「え……? こんな急に?」

私とロザリーは顔を見合わせる。まるで何かに導かれるような展開だ。通常、王宮の催しはもっと早く案内状が届くものだけれど、今回は事情が違うらしい。どうやら小規模な集まりで、王太子エリオット殿下が開く趣味の音楽鑑賞会だとか。貴族の有志が集まる気軽なイベントと聞いている。

「行くしかないわね、ソフィア。これを逃したらいつまたライネル様と接触できるかわからないし」

ロザリーは力強く頷く。私も心は決まった。たとえ会えなくとも、ライネルの行動を少しでも探るチャンスになる。そう思っただけで、心の中に小さな勇気の灯がともった。

 

その日の夕方、私たちは急ぎの仕立て屋の手配や身支度を終え、王宮の小宴へと向かう。緊張を抑えつつ、馬車に揺られながら目を閉じ、できればライネルに直接話を――と願う。ロザリーはそんな私の手をしっかり握りしめ、笑顔で言った。

「大丈夫。私がついてるから」
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