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「ソフィア、ちょっとだけいい?」
ある日の午後、ロザリーが少し緊張した面持ちで私を呼び止めた。私たちは伯爵家の庭を散歩していたのだが、ロザリーはわざと周囲に人影がないことを確認すると、声を潜めてこう言った。
「実は……王太子殿下から、あなたに伝言があるの」
「殿下から?」
一瞬胸が高鳴る。リリーナの一件が終息した今、殿下がわざわざ私に何を言いたいのだろうか。ロザリーは神妙な顔つきで続ける。
「ソフィアがこれからの道を自由に選べるように、王家としてもできる限りの配慮をするつもりらしいわ。もし伯爵家が公爵家との縁談を正式に解消しても、殿下はあなたを支援する。そう伝えてほしいんだって」
驚きと感謝の気持ちが湧き上がる。王家は基本的に貴族の結婚事情に直接干渉しないものだが、エリオット殿下は私がこれまでの騒動で傷つき、悩んでいることを知っているからこそ、こうしてメッセージを送ってくれたのだろう。
「殿下は……本当に優しい方ね」
思わず小さく呟く。リリーナが企てた陰謀から私を守り、さらにこの先の人生においても“選択肢”を与えてくれるなんて、普通では考えられない対応だ。ロザリーは微笑みながら頷く。
「それに、私が聞いた話だと、殿下はあなたに求婚めいた言葉をかける可能性もあるらしいわ」
「え……?」
驚きで言葉を失う。エリオット殿下が求婚? まさかそんなことが。確かに殿下と私は事件を通じて信頼関係を築いたが、それと恋愛感情は別物ではないかと思う。
「もちろん、殿下に確かな意図があるわけじゃないかもしれない。でも、あなたがライネル様を選ばないなら、王家として新たな縁を提案する、って考え方もあるのかも」
ロザリーの推測に、私は戸惑いを隠せない。ライネルとの関係に思い悩んでいる今、もし王太子殿下からもアプローチを受けたら――伯爵家の人間としては、王家の縁談はとても大きい意味を持つ。でも、そんなことを考えるより先に、胸の奥がざわついてしまう。
「わかんない……私、婚約破棄の一件で頭がいっぱいなのに、さらに王家からの縁談なんて受け止めきれない」
思わず本音を吐露すると、ロザリーは肩をすくめる。
「そりゃそうよね。だけど、あなたは思いのほか“大物”になっちゃったのよ。リリーナを倒して王宮を救った“勇敢な伯爵令嬢”として、社交界ではひっぱりだこだわ。そういう話が舞い込んでも不思議じゃないの」
言われてみると、確かにここ数日だけでも「ソフィア・エヴァンスはあの騒動を終わらせた立役者だ」「可憐でありながら芯が強い」という評判が広まっているようだ。かつて悪役令嬢として噂されたのが嘘のように、今では正反対の評価を受けている。それを利用しようと考える貴族がいてもおかしくない。
「だから、まあ焦らずに。いくつもの道があるなら、あとはあなたがどこを歩くか決めればいいのよ。王家との縁談がダメってわけじゃないし、ライネル様を許して婚約をやり直すのもいい。あるいは、まったく別の道を選ぶのだって構わないでしょう」
ロザリーの言葉は極めて理性的だ。確かに、私が決められないと悩む必要はないのかもしれない。時間をかけて、自分の気持ちを見つめ直すのも一つの選択肢だ。
「……そうだね。やっと“自由”を手にしたんだもの。焦らずに考えるわ」
心の底からそう思えた。リリーナがもたらした陰謀を乗り越えて、私の世界は広がったのだ。かつては婚約者と結婚するのが当たり前の将来だと信じていたけれど、今は人生の可能性がいくつも見えている。
「ソフィアがどんな道を選んでも、私は味方だよ」
「ありがとう、ロザリー。あなたの支えには本当に助けられたわ」
二人で手を取り合う。かつて悪役令嬢と囁かれ、孤立しかけた私が今こうして笑っていられるのは、ロザリーや周囲の人々が私を信じてくれたからだ。だからこそ、これからの人生を自分の意思で選びたい。ライネルの求婚、殿下の提案、そして全く別の選択――そのどれもが私の自由だ。
「迷いもあるけど、きっと答えは見つかるはず」
そう自分に言い聞かせると、少し胸が軽くなった。私は微笑んでロザリーの手を離し、空を見上げる。雲ひとつない青空は、まるで私を祝福するように晴れ渡っていて、まぶしく目を細めながらも、不思議と背筋が伸びる心地がした。
ある日の午後、ロザリーが少し緊張した面持ちで私を呼び止めた。私たちは伯爵家の庭を散歩していたのだが、ロザリーはわざと周囲に人影がないことを確認すると、声を潜めてこう言った。
「実は……王太子殿下から、あなたに伝言があるの」
「殿下から?」
一瞬胸が高鳴る。リリーナの一件が終息した今、殿下がわざわざ私に何を言いたいのだろうか。ロザリーは神妙な顔つきで続ける。
「ソフィアがこれからの道を自由に選べるように、王家としてもできる限りの配慮をするつもりらしいわ。もし伯爵家が公爵家との縁談を正式に解消しても、殿下はあなたを支援する。そう伝えてほしいんだって」
驚きと感謝の気持ちが湧き上がる。王家は基本的に貴族の結婚事情に直接干渉しないものだが、エリオット殿下は私がこれまでの騒動で傷つき、悩んでいることを知っているからこそ、こうしてメッセージを送ってくれたのだろう。
「殿下は……本当に優しい方ね」
思わず小さく呟く。リリーナが企てた陰謀から私を守り、さらにこの先の人生においても“選択肢”を与えてくれるなんて、普通では考えられない対応だ。ロザリーは微笑みながら頷く。
「それに、私が聞いた話だと、殿下はあなたに求婚めいた言葉をかける可能性もあるらしいわ」
「え……?」
驚きで言葉を失う。エリオット殿下が求婚? まさかそんなことが。確かに殿下と私は事件を通じて信頼関係を築いたが、それと恋愛感情は別物ではないかと思う。
「もちろん、殿下に確かな意図があるわけじゃないかもしれない。でも、あなたがライネル様を選ばないなら、王家として新たな縁を提案する、って考え方もあるのかも」
ロザリーの推測に、私は戸惑いを隠せない。ライネルとの関係に思い悩んでいる今、もし王太子殿下からもアプローチを受けたら――伯爵家の人間としては、王家の縁談はとても大きい意味を持つ。でも、そんなことを考えるより先に、胸の奥がざわついてしまう。
「わかんない……私、婚約破棄の一件で頭がいっぱいなのに、さらに王家からの縁談なんて受け止めきれない」
思わず本音を吐露すると、ロザリーは肩をすくめる。
「そりゃそうよね。だけど、あなたは思いのほか“大物”になっちゃったのよ。リリーナを倒して王宮を救った“勇敢な伯爵令嬢”として、社交界ではひっぱりだこだわ。そういう話が舞い込んでも不思議じゃないの」
言われてみると、確かにここ数日だけでも「ソフィア・エヴァンスはあの騒動を終わらせた立役者だ」「可憐でありながら芯が強い」という評判が広まっているようだ。かつて悪役令嬢として噂されたのが嘘のように、今では正反対の評価を受けている。それを利用しようと考える貴族がいてもおかしくない。
「だから、まあ焦らずに。いくつもの道があるなら、あとはあなたがどこを歩くか決めればいいのよ。王家との縁談がダメってわけじゃないし、ライネル様を許して婚約をやり直すのもいい。あるいは、まったく別の道を選ぶのだって構わないでしょう」
ロザリーの言葉は極めて理性的だ。確かに、私が決められないと悩む必要はないのかもしれない。時間をかけて、自分の気持ちを見つめ直すのも一つの選択肢だ。
「……そうだね。やっと“自由”を手にしたんだもの。焦らずに考えるわ」
心の底からそう思えた。リリーナがもたらした陰謀を乗り越えて、私の世界は広がったのだ。かつては婚約者と結婚するのが当たり前の将来だと信じていたけれど、今は人生の可能性がいくつも見えている。
「ソフィアがどんな道を選んでも、私は味方だよ」
「ありがとう、ロザリー。あなたの支えには本当に助けられたわ」
二人で手を取り合う。かつて悪役令嬢と囁かれ、孤立しかけた私が今こうして笑っていられるのは、ロザリーや周囲の人々が私を信じてくれたからだ。だからこそ、これからの人生を自分の意思で選びたい。ライネルの求婚、殿下の提案、そして全く別の選択――そのどれもが私の自由だ。
「迷いもあるけど、きっと答えは見つかるはず」
そう自分に言い聞かせると、少し胸が軽くなった。私は微笑んでロザリーの手を離し、空を見上げる。雲ひとつない青空は、まるで私を祝福するように晴れ渡っていて、まぶしく目を細めながらも、不思議と背筋が伸びる心地がした。
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