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第1話 追放された荷物持ち
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灰色の空が広がる中、魔王城の前線拠点では、血と煙の臭いが残る戦場の名残が漂っていた。
そこに立たされているのは、ボロボロの布のような服を着た若い男——レオン。
彼は荷物持ちとして勇者パーティに同行していたが、今まさに追放を言い渡されようとしていた。
「おいレオン。お前はもういい。ここで終わりだ。」
そう告げるのは、金髪で聖剣を持つ勇者カイル。かつて村の英雄と呼ばれた男に、レオンは幼い頃から憧れていた。だが今、その面影はない。傲慢で、人を見下ろすような態度。聖なる輝きではなく、どこか淀んだ光を目に宿していた。
「……終わりって、俺、何かしたか?」
「したも何も、お前が役に立ったこと、一度でもあるか? 荷物を落とし、足を引っ張り、魔物が出れば後ろで震えてるだけだ。勇者パーティには、そんな荷物はいらねえ。」
仲間たちは無言で視線を逸らした。僧侶のメイラは、申し訳なさそうに唇を噛んでいたが、結局何も言わなかった。
魔術師のジンは露骨に鼻で笑い、女盗賊のエイラは目を細めて冷たく言い放つ。
「報酬も装備ももらってたくせに、感謝の一つもないの? 本当に図々しいわね」
レオンは拳を握りしめた。だが、反論の言葉は出てこなかった。彼に確かな功績があるわけでもない。荷物を運び、焚き火の準備をし、最後に食器を洗う。それが自分の役目だと信じていた。それで役に立てていると思っていた。
「……わかった。もう余計なことはしない。ありがとうございました。」
そう言って荷物を背負い、踵を返した。
パーティの誰も呼び止めなかった。カイルの声だけが背後から冷たく響く。
「お前みたいな出来損ないでも、せいぜいどこかの村で日雇いでもして生きろよ。」
その言葉を最後に、レオンは丘を下りていった。雨雲が垂れこめ、風が冷たかった。
***
数日後。
森の中の小さな村、ルグナ。レオンはその村の外れにある廃屋のような納屋で暮らしていた。
旅の途中で残っていた食糧も底をつき、朝から畑を耕し、薪を割る。
だが農具が壊れかけていたため、手で土を掘るような状態だ。村人が見かねて近づいてきた。
「おい兄ちゃん……そんな素手でやってたら怪我するだろ。スコップでも貸そうか?」
「あ、ああ……大丈夫です。ありがとうございます。でも、これくらいなら——」
言いかけた瞬間、レオンの手が土を掘り返した。
驚いた村人が目を見開く。
まるで柔らかい粘土を撫でるように、固い地面が音もなく崩れ、深く掘られていったのだ。
「な、なんだその力……!?」
レオンは驚いた顔をしたが、ただ笑ってごまかした。
「え、なんか……ちょっと柔らかい土でしたね。」
そう言って、汗をぬぐいながら作業を続ける。
だがその後も、斧で薪を割れば丸太は風を切るように真っ二つ。畑を耕せば地面が自然とやわらぎ、石ころまで消えてしまう。
いつの間にか、村全体が耕されていた。
それでもレオンは気づかない。
自分が「神々の加護」を持つ存在だということを。
***
その夜、村の井戸のそばに、一人の少女がいた。
銀髪の少女、リリア。旅の途中で怪我をし、この村に身を寄せていた冒険者だ。
夜風に吹かれながら、彼女は遠くからレオンの姿をじっと見つめていた。
「昼間、あなた……魔法も使わずに大地を割ってたわよね?」
「え? いや、そんな大げさなこと、俺にできるわけ——」
「私、Aランク冒険者よ。目の錯覚じゃないわ。」
レオンは困った顔をした。だが、リリアの真剣な瞳を前にすると、笑って逃げることもできなかった。
「……いや、本当に。でも、子どもの頃からよくこういうのあって。なんか……手を出すと勝手に良くなるっていうか。」
「それ、普通じゃないわ」
リリアは半ば呆れたように言い、ため息をついた。
「まあいいわ。あなた、今夜は警戒しておきなさい。どうも、森に魔物の群れが近づいてる。」
レオンは頷き、納屋へと戻る。だがその頃、森の奥では確かに低いうなり声が響いていた。
***
夜が深まり、風がざわめく。
レオンが目を覚ますと、納屋の壁を揺らすような振動が伝わってきた。
「……地震? いや、これは——」
外に飛び出すと、黒い霧のような魔物が群れをなして村を包囲していた。
十数匹の牙をむく魔狼たち。リリアが剣を抜き、村の中央で構えている。
「まずいわ、村人を避難させないと!」
レオンは走り寄り、リリアの後ろに立つ。
だが、魔狼の一匹が横から飛び出し、彼に向かって突進してきた。
その牙が目の前に迫り——
レオンの手が自然に動いた。
彼が振るったのは拳。だがその一撃が空気を裂き、地面をえぐり、魔狼は塵となって霧散した。
静寂。
リリアも、魔狼たちも、その場に凍りついた。
「……え?俺、今……殴っただけだよな?」
レオンが呆然とつぶやく。
だが答える者はいない。残りの魔狼も、恐怖に震えながら後退していく。
リリアがようやく声を振り絞った。
「あなた……いったい何者?」
「俺? ただの荷物持ち、だったんだけどな。」
彼は苦笑しながら、自分の拳を見つめた。
その手には、まだ淡い光が残っていた。
***
村は救われた。
翌朝になると、村人たちはレオンを囲み、興奮したように口々に話していた。
「魔狼の群れを一瞬で吹き飛ばしたんだって!?」「あの人、何者なんだ?」
「もしかして本物の勇者様……?」
レオンは必死に否定したが、誰も信じてくれなかった。
リリアはそんな彼をじっと見て微笑む。
「やっぱりただの村人じゃないわね。気になる……」
彼女の瞳に興味と親しみの色が混じる。
レオンがそれに気づかないまま、畑の手入れを始める。
世界は静かに、しかし確実に動き始めていた。
追放された荷物持ちが、やがて神すら超える存在になるとは、この時まだ誰も知らない。
続く
そこに立たされているのは、ボロボロの布のような服を着た若い男——レオン。
彼は荷物持ちとして勇者パーティに同行していたが、今まさに追放を言い渡されようとしていた。
「おいレオン。お前はもういい。ここで終わりだ。」
そう告げるのは、金髪で聖剣を持つ勇者カイル。かつて村の英雄と呼ばれた男に、レオンは幼い頃から憧れていた。だが今、その面影はない。傲慢で、人を見下ろすような態度。聖なる輝きではなく、どこか淀んだ光を目に宿していた。
「……終わりって、俺、何かしたか?」
「したも何も、お前が役に立ったこと、一度でもあるか? 荷物を落とし、足を引っ張り、魔物が出れば後ろで震えてるだけだ。勇者パーティには、そんな荷物はいらねえ。」
仲間たちは無言で視線を逸らした。僧侶のメイラは、申し訳なさそうに唇を噛んでいたが、結局何も言わなかった。
魔術師のジンは露骨に鼻で笑い、女盗賊のエイラは目を細めて冷たく言い放つ。
「報酬も装備ももらってたくせに、感謝の一つもないの? 本当に図々しいわね」
レオンは拳を握りしめた。だが、反論の言葉は出てこなかった。彼に確かな功績があるわけでもない。荷物を運び、焚き火の準備をし、最後に食器を洗う。それが自分の役目だと信じていた。それで役に立てていると思っていた。
「……わかった。もう余計なことはしない。ありがとうございました。」
そう言って荷物を背負い、踵を返した。
パーティの誰も呼び止めなかった。カイルの声だけが背後から冷たく響く。
「お前みたいな出来損ないでも、せいぜいどこかの村で日雇いでもして生きろよ。」
その言葉を最後に、レオンは丘を下りていった。雨雲が垂れこめ、風が冷たかった。
***
数日後。
森の中の小さな村、ルグナ。レオンはその村の外れにある廃屋のような納屋で暮らしていた。
旅の途中で残っていた食糧も底をつき、朝から畑を耕し、薪を割る。
だが農具が壊れかけていたため、手で土を掘るような状態だ。村人が見かねて近づいてきた。
「おい兄ちゃん……そんな素手でやってたら怪我するだろ。スコップでも貸そうか?」
「あ、ああ……大丈夫です。ありがとうございます。でも、これくらいなら——」
言いかけた瞬間、レオンの手が土を掘り返した。
驚いた村人が目を見開く。
まるで柔らかい粘土を撫でるように、固い地面が音もなく崩れ、深く掘られていったのだ。
「な、なんだその力……!?」
レオンは驚いた顔をしたが、ただ笑ってごまかした。
「え、なんか……ちょっと柔らかい土でしたね。」
そう言って、汗をぬぐいながら作業を続ける。
だがその後も、斧で薪を割れば丸太は風を切るように真っ二つ。畑を耕せば地面が自然とやわらぎ、石ころまで消えてしまう。
いつの間にか、村全体が耕されていた。
それでもレオンは気づかない。
自分が「神々の加護」を持つ存在だということを。
***
その夜、村の井戸のそばに、一人の少女がいた。
銀髪の少女、リリア。旅の途中で怪我をし、この村に身を寄せていた冒険者だ。
夜風に吹かれながら、彼女は遠くからレオンの姿をじっと見つめていた。
「昼間、あなた……魔法も使わずに大地を割ってたわよね?」
「え? いや、そんな大げさなこと、俺にできるわけ——」
「私、Aランク冒険者よ。目の錯覚じゃないわ。」
レオンは困った顔をした。だが、リリアの真剣な瞳を前にすると、笑って逃げることもできなかった。
「……いや、本当に。でも、子どもの頃からよくこういうのあって。なんか……手を出すと勝手に良くなるっていうか。」
「それ、普通じゃないわ」
リリアは半ば呆れたように言い、ため息をついた。
「まあいいわ。あなた、今夜は警戒しておきなさい。どうも、森に魔物の群れが近づいてる。」
レオンは頷き、納屋へと戻る。だがその頃、森の奥では確かに低いうなり声が響いていた。
***
夜が深まり、風がざわめく。
レオンが目を覚ますと、納屋の壁を揺らすような振動が伝わってきた。
「……地震? いや、これは——」
外に飛び出すと、黒い霧のような魔物が群れをなして村を包囲していた。
十数匹の牙をむく魔狼たち。リリアが剣を抜き、村の中央で構えている。
「まずいわ、村人を避難させないと!」
レオンは走り寄り、リリアの後ろに立つ。
だが、魔狼の一匹が横から飛び出し、彼に向かって突進してきた。
その牙が目の前に迫り——
レオンの手が自然に動いた。
彼が振るったのは拳。だがその一撃が空気を裂き、地面をえぐり、魔狼は塵となって霧散した。
静寂。
リリアも、魔狼たちも、その場に凍りついた。
「……え?俺、今……殴っただけだよな?」
レオンが呆然とつぶやく。
だが答える者はいない。残りの魔狼も、恐怖に震えながら後退していく。
リリアがようやく声を振り絞った。
「あなた……いったい何者?」
「俺? ただの荷物持ち、だったんだけどな。」
彼は苦笑しながら、自分の拳を見つめた。
その手には、まだ淡い光が残っていた。
***
村は救われた。
翌朝になると、村人たちはレオンを囲み、興奮したように口々に話していた。
「魔狼の群れを一瞬で吹き飛ばしたんだって!?」「あの人、何者なんだ?」
「もしかして本物の勇者様……?」
レオンは必死に否定したが、誰も信じてくれなかった。
リリアはそんな彼をじっと見て微笑む。
「やっぱりただの村人じゃないわね。気になる……」
彼女の瞳に興味と親しみの色が混じる。
レオンがそれに気づかないまま、畑の手入れを始める。
世界は静かに、しかし確実に動き始めていた。
追放された荷物持ちが、やがて神すら超える存在になるとは、この時まだ誰も知らない。
続く
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