追放された最弱村人、実は世界最強でした 〜神々に愛された無自覚チート、気づいたら聖女も魔王も嫁希望だった件〜

uzura

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第10話 王都の陰謀

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王都ルシエルの空は曇天に覆われ、風は重く、遠くの鐘の音だけが沈んだ街に響いていた。  
人々はどこか怯えたように視線を伏せ、広場には兵士たちの姿が絶えなかった。  
商人の馬車が街を行き交っても、笑い声や呼び声といった活気はない。まるでこの街全体が、目に見えない何かに支配されているかのようだった。  

「……王都に入るたびに思うが、この不気味な静けさは異常だ。」  
リオがフードを深くかぶりながら呟いた。  
隣を歩くリアも沈痛な面持ちで頷く。  
「住民の魂が薄く感じます。まるで“祈り”が吸い取られているような……。」  
肩に乗ったシリスが尻尾を小さく揺らす。  
「にゃ。感じるにゃ、この瘴気。前より濃くなってるにゃ。もう王都の根にまで染みてるにゃ。」  

彼らは王都の裏通りにある古びた宿屋へと歩を進めた。  
リオの古い知り合い――物資商の老人バルドがそこで情報を集めているという。  

店の扉をくぐると、バルドは帳簿を手にしていた。  
白髪交じりの短髭を揺らし、リオを見るなり目を剥いた。  
「おいおい……リオじゃねぇか。お前、生きてたのか!」  
「運よくな。久しぶりだ、バルド。」  
「まったく、追放されたって噂しか聞いとらんかったぞ。……で、今度は何しに来た?」  
リオの視線が鋭く光る。  
「王都で何が起きているか知りたい。特に勇者アルトと神殿、そして王の動向だ。」  

重苦しい沈黙。  
バルドはゆっくり椅子に腰を下ろし、声を潜めた。  
「お前ら、命を惜しまない覚悟があるなら話そう。」  
「聞こう。」  
「ここ数ヶ月で、王と神殿は異様に密接になった。政策のほとんどは“神託の声”として勇者アルトが進言している。」  
リアの瞳が揺れる。  
「神託の……声?」  
「そうだ。だが妙なんだ。その神託ってやつ、誰も聞いたことがねぇ。神官長でさえ、アルトから伝えられた内容を“王の意志”として発表するだけなんだよ。」  
リオの拳がわずかに震えた。  
「つまり、神慮を語るふりをして、王権と教権の両方を握ってるってわけか。」  
「そうだ。しかも先週から、王都の各地で“祈願の儀”って名目で民を集め始めてる。祈りを捧げるほど国が栄えるだとよ。魔力を吸われてるとも知らずにな……。」  
「魔力を……吸う?」  
リアの顔が青ざめる。  
「そうだ。祈りの名を借りて、人々の生命力を供給しているんだ。」  
「……やはり、“黒き王”の復活に繋がっている。」  

リオは目を閉じた。  
あの時リアが言っていたことが、いま現実となっている。  
“封印された魔神を蘇らせるため、生命の糸が断たれていく”――。  

バルドが陰鬱な声で続けた。  
「加えて噂じゃ、“創世の加護を持つ者”の血を王城が探してるらしい。お前、心当たりがあるだろ?」  
リオの体内で血が冷えるような感覚が走った。  
「……つまり、俺を血の供物にする気か。」  
リアが信じられないものを見るような目でリオを見つめた。  
「リオ……そんな……」  
「心配するな。渡すつもりはない。」  
リオは静かに笑った。その笑みには、かすかな怒りと決意が混ざっていた。  

「バルド。王城に入る裏道を知ってるな?」  
老人は目を細めた。  
「まったく抜け目がねぇな。お前がここに来た時点で予想はしてたよ。」  
机の下から古い羊皮紙を取り出し、広げる。  
「城壁の北側、果樹園の地下に整備用の通路がある。誰も使ってねぇが、そこからなら地下牢に繋がる。」  
「助かる。恩に着る。」  
「恩に着るって顔してねぇな。リオ、お前、本気でやるのか?」  
「アルトを止める。俺の力を利用したいってんなら、利用しようとしている奴ごと潰す。」  

リアの声が静かに響く。  
「私も行きます。これは神に仕える者として見過ごせません。」  
シリスがため息混じりに尻尾を垂らした。  
「まったく、勇者パーティより危険なメンバーにゃ。」  

夜が訪れ、三人は王城の外壁へと忍び寄った。  
暗雲に覆われた空の下、月光は細い刃のように冷たかった。  
果樹園の奥に隠された井戸へ降りると、湿った空気と共に鉄と血の匂いが漂う。  
リアが囁く。  
「人の気配……奥に何かいます。」  
進むたびに、壁に埋め込まれた魔石が青く光る。  
それは監視の魔術装置だった。  

「これ、完全に軍事施設にゃ。民の祈りの儀なんてもんじゃないにゃ。」  
「アルトは人の命を原料にしている。多分ここで“黒き王”の器を作ってるんだ。」  

足音を殺して進むと、広い地下空間へと出た。  
祭壇のような円形の台。その中央で、鎖に繋がれた数十人の人々が眠っていた。  
魔法陣が彼らの体から光を吸い取り、奥の装置へ流れている。  
その装置の中心には、黒い結晶――まるで心臓のように脈動する塊があった。  

「これが……“黒き王”の核……!」  
リアの声が震える。  
「間に合ってよかった。」  

低い声が響いた。  
暗闇から現れたのは、銀の鎧を纏う男――勇者アルト。  
その背に差した聖剣が、かつての仲間たちの希望の象徴だった。  

「リオ。やはりお前が来ると思っていた。」  
「久しぶりだな、アルト。」  
「お前の力をこの手に収めれば、この国は完全になる。神なき世界を変える救世主は俺だ!」  
「……あいかわらずだな。全部、自分の正義で塗りつぶす。」  
「お前には理解できん! 神も人も弱すぎる。この“黒き王”さえ支配できれば、災厄すら人の道具になる!」  

アルトの剣が煌めく。  
聖光と瘴気が混ざり、地を割った。  
衝撃波が走り、リアとシリスが弾き飛ばされる。  

リオは前に出た。  
「俺を血にするつもりだったんだろ? だったら一滴残らず、ここで返してやる!」  
光が溢れた。  
足元の魔法陣が反応し、リオの体から無数の根が広がる。  
それは破壊ではなく、再生の力。  
鎖で繋がれた人々を包み、彼らの失われた命を取り戻していく。  

「何をしている! やめろ!」  
アルトが叫んだ瞬間、結晶から黒い靄が吹き上がった。  
その手に絡みつき、アルトの瞳が焦げた赤に染まる。  
「離れろ、アルト!」  
「はは……これだ! これこそ神の力だ!」  

結晶の鼓動が激しくなり、地下全体が揺れる。  
石壁に亀裂が走り、落石が降り注ぐ。リアがリオに手を伸ばす。  
「リオ! 今は撤退を!」  
「いや、あと少しだ。こいつを封印しなきゃ、王都が持たない!」  

リオは剣を掲げ、呪文を叫んだ。  
「“創世の樹”、命の環を閉じよ!」  
光柱が天へ昇り、黒い結晶を覆う。  
悲鳴のような震動と共に黒い核がひび割れ、沈黙した。  

アルトは膝をつき、荒い息を吐いた。  
「俺は……この手で……神を……」  
リオが口を開こうとした瞬間、天井が崩れ落ちた。  

眩い光の中、リオはリアをかばって飛び込む。  
重い音とともに地下空間は崩壊し、煙と土が世界を覆った。  

――そして、静寂。  

どれほどの時間が経ったのか。  
地上では、人々が空を見上げていた。  
王都を覆っていた黒い雲が裂け、初めて太陽の光が差し込んだのだ。  

だがその光の中に、リオたちの姿はない。  

「リオ……!」  
リアが崩れた瓦礫をかき分け、声を振り絞る。  
「お願い……!」  

風が静かに吹いた。  
その風の中、どこからか小さな白い光の粒が舞い上がる。  
まるで答えるように、優しくリアの頬に触れた。  

続く
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