転生したら最強の神具を持っていた!~無自覚英雄は今日ものんびり街を救う~

にゃ-さん

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第4話 スライムに囲まれたけど、気づけば街が救われてた

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鐘の音が鳴り響く街の中。人々が悲鳴を上げながら通りを逃げ回っていた。  
石畳の道路が振動し、建物の窓が揺れる。地鳴りのような重低音が遠くから迫ってくる。  

タクトは思わず空を見上げた。空が霞んでいる。いや、霞ではない。何かが降ってくるのだ。  
ゼリーのように透き通った物体が、雲のように空から次々と落下していた。  

「スライム!? こんなに大量に!?」  
リリアが叫ぶ。セリナも顔を強張らせた。  
「信じられない……数百、いいえ千はいるわ。魔獣が群れで降るなんて!」  
「スライムってもっと可愛いモンスターじゃなかったっけ!?」  
地面に落ちたスライムたちは、どろどろと周囲を溶かしながら広がっていく。悪臭とともに、街路石がじゅうじゅうと音を立てて溶けた。  

「酸性タイプね。あれは下手に近づくと装備が全部溶けるわよ!」  
「ってことは、倒し方を間違えると街ごとやばいってことか……!」  
「そう。下手な火球で焼いたら有毒ガスが出る。」  
「ええ……そんな限定ボスみたいな扱い……。」  

タクトは迷った。ここでまた腕輪を使えば、確実に目立つ。  
また“勇者様”呼ばわりされるだろう。それでも放っておけない。  
上空にもまだスライム雲が残っている。放置すれば街全体が飲まれる。  

(……仕方ない。今回だけ。本当に今回だけ。)  

腕輪にそっと触れる。声を出してはいけないと分かっていても、自然と呟いてしまう。  
「スライム、消滅。……頼む、静かにやってくれよ?」  

光が広がった瞬間、空気が水面のように揺らめいた。  
次の瞬間、空を覆っていたスライムの群れが、まるで消しゴムで消したように消えた。  
同時に地上のスライムも泡となって溶け、数秒で跡形もなく消え失せた。  

風が止み、街に静寂が訪れる。  
煙も匂いも、損壊の痕跡すらない。タクトは思わず腕を見た。  

(頼んでないのに、完全修復までしてる……。仕事が早いな、ほんとに。)  

リリアとセリナが呆然と立ち尽くしている。  
「……今の、全部……タクトさん?」  
「……いや、その、まあ……なんか知らないけど終わってた。」  
「“終わってた”ってレベルじゃないわよ!!!」  

セリナが叫ぶ。彼女の杖から放たれる微量な魔力と違い、今の現象は完全に“世界を書き換えた”レベルだった。  

人々が顔を出し始める。騎士団らしき兵士が駆け寄ってきた。  
「街の被害はゼロ!? 一体何が起きたんだ!?」  
「勇者様が……!勇者様が守ってくださった!!」  
誰かがそう言った瞬間、歓声が爆発した。  

「また勇者様だ!やっぱりあの方が……!」  
「光の加護だ!奇跡だー!!」  

いやだから違うってば!!  
タクトが全力で否定しても、感謝と崇拝の嵐は止まらない。  
リリアは楽しそうに笑い、セリナは腕を組んで呟く。  

「これでもまだ“ただの通行人”って言い張るのね。」  
「ほんとだよ!」  
「……まあ、悪い気はしないけど。」  

セリナはにやりと笑い、リリアがむっとした顔になった。  
「わ、私だってタクトさんを最初に見つけたんですからね!」  
「はいはい、そういう喧嘩はやめよう。俺はただ平和に暮らしたいだけなんだから。」  

しかし平和は長く続かなかった。  
タクトの視界にメッセージが浮かぶ。  

――“外部干渉を検知。転移信号:神界より接続要請”  

「……ちょっと待て、神界?」  
腕輪が輝き、タクトの身体が光に包まれる。  
「ちょ、ちょっと!タクトさん!?」  
「また勝手にっ……!」  

叫び声を残し、彼の姿は消えた。  

* * *  

気づくと、あの黄金の間にいた。  
初めて転生の話をされた、あの神殿のような空間。  
女神がまたそこに立っていた。かつてより少し疲れた表情で。  

「お久しぶりね、タクト。」  
「お久しぶりじゃないですよ!また勝手に連れてこないでください!」  
「ごめんなさい、でもあなたが想定以上に活躍しすぎたの。神具にも負荷が溜まってるの。」  
「俺、活躍したくてしたわけじゃ……!」  

女神は微笑しつつも、どこか苦笑混じりだった。  
「あなた、本当に“無自覚最強”ね。力を抑える意識を持たないと、存在そのものがこの世界の法則に干渉してしまうわ。」  
「干渉って……つまり?」  
「簡単に言うと、あなたが“こうなればいい”と思ったことが現実になる。世界があなたに合わせて動くの。」  
「……いやそれ怖すぎるでしょ。」  

「でも、あなたにしか世界を保てない可能性もあるの。」  
「ん?どういうことです?」  
「この異世界には“螺旋の破壊者”という異界存在が近づいている。私だけでは抑え込めない。あなたの力が必要なの。」  

タクトは頭を抱えた。  
「やっぱりですか。こうなると思ってましたよ。のんびりできる日、どこ行ったんだろう……。」  
「肩の力を抜いて。あなたがいるだけで、世界は守られるわ。」  

「それが怖いって言ってるんですよ……。」  

女神は少し申し訳なさそうに微笑んだ。  
「一応、負荷軽減のために調整しておくわ。しばらくは発動を意識しない限り、大きな現象は起こらないはず。」  
「ほんとですか?暴発とかやめてくださいよ。」  
「ええ、約束するわ。」  

女神の光がタクトを包み、その姿は再び地上へと戻された。  

* * *  

「タクトさんっ!」  
「無事だったのね!」  

リリアとセリナが同時に駆け寄ってきた。  
タクトはぐったりとした顔で笑う。  
「神様に……ちょっと説教されてた。」  
「説教!?」  
「いやまあ、色々あって。」  

リリアがホッと肩をなでおろし、セリナは腕を組む。  
「どうやら普通の存在じゃないってことだけは分かったわ。」  
「いや、俺は普通だよ。多分。」  

すると、近くの通りから兵士が走ってきた。  
「勇者様!王城からの召喚命令です!直ちにお越しください!」  
タクトは半泣きの顔になった。  
「お願いですから、そういう呼び方やめて……。」  
リリアとセリナは顔を見合わせ、そして同時に笑った。  

喧騒の中、誰一人怪我人も損失も出ていない。  
スライム被害ゼロ。  
人々は今日も平穏に過ごせる。  
本人の意思とは関係なく、三上タクトはやっぱり“街を救ってしまう”のだった。  

(続く)
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