追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件

uzura

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第4話 「古代語読めるの!?」村長令嬢と秘密の図書室

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翌朝の村は騒がしかった。  
前日の亜竜騒ぎがまだ村人の話題を独占しており、どこへ行っても「リオン様が」「風の刃で」と噂話が続いている。  
家々の前に立ち話の輪ができ、農具を手にしても話は止まらない。  
リオン本人としては申し訳ないやら居心地が悪いやらで、小屋からそっと抜け出した。

村の外れの丘に登ると、風が心地よく吹き抜けていく。  
遠くに森を望み、村を見下ろすと、煙が上がる屋根も見慣れた風景になりつつあった。  
静かな時間を取り戻したくて、彼はいつものように本を開く。  
金褐色に焼けた古い紙からは、わずかに暖かい光が差していた。

「この本……本当に不思議だよな。」

いつものように独り言が宙に溶ける。  
文字は古代語で、一般の魔導士どころか王家の学者でも読めないもの。  
それを当たり前のように理解できる自分の方が、もはや異常なのかもしれない。  
そんな思考をかき消すように、背後から声がした。

「リオンさん、やっぱりここにいた!」  
振り返るとミーナが駆け寄ってくる。息を弾ませ、笑顔を浮かべていた。

「村長が呼んでます。朝からずっと探してたんですよ!」  
「僕が?何か悪いことしましたっけ。」  
「違います!なんでも“お礼をしたい”って。」

お礼と言われても心当たりは多すぎた。風車、亜竜、畑――。  
ため息をつきつつ村長の屋敷へ向かうことにする。

村長の家は村の中心にある石造りの古い家屋で、村で唯一二階がある。  
扉を叩くと、すぐに中から柔らかい声が返ってきた。

「お入りください、リオンさん。」

出迎えたのは白髪混じりの壮年の男、グレン村長だった。  
その傍らにはミーナとは別の若い女性が立っていた。  
きりっとした瞳に、淡い銀髪を結った姿。腰に小さな短剣を下げ、明らかにこの村の人間とは雰囲気が違う。  
リオンは軽く会釈した。

「お初にお目にかかります。リリア・ローランと申します。村長の娘ですわ。」

どこか王都育ちのような上品な言葉遣い。  
リオンが名乗り返すと、彼女は興味深そうにこちらを見つめた。

「あなたが例の“賢者様”ですね。風を操り竜を討ち、風車を甦らせたとか。」

「いや、“様”はやめてもらえると。僕はただの流れ者です。」

にっこり微笑んだリリアは、それ以上否定しても意味がないと悟ったように肩をすくめた。  
村長が口を開く。

「リオンさん、あなたが来てから村が生き返った。誰一人、あなたに感謝してない者はいません。  
だが、それだけじゃなくてね……実は、前からあなたに見てもらいたいものがあったんだ。」

そう言って彼はリリアに視線を送る。娘が小さく頷くと、壁の奥の棚を押しのけた。  
軋む音とともに奥に隠された扉が現れる。  
扉の向こうからは冷たい空気が流れてきた。

「秘密の……部屋?」

「代々この村長の家に伝わる“図書室”です。」  
リリアがランプを取り、リオンを案内する。  
通路を抜けると地下倉庫のような円形の部屋が現れた。  
天井からは鍾乳石のような岩が垂れ、奥には棚が幾重にも積まれている。  
無数の本、巻物、石板。どれも古びており、ほとんどがくすんだ色をしていた。

「これは……すごい量だな。」

「そうでしょう?」リリアが微笑む。「でも誰も読めないんです。全部、古代語で書かれているそうで。」

リオンは唖然として棚の一冊を手に取った。  
見覚えのある文字列が並んでいる。  
「アトラ系の文書?」  
思わず口に出すと、リリアが目を見張った。

「その言葉、知っているんですか?」

リオンは頷いた。  
ページをめくり、数行を読み上げてみせる。  
すると古代語の文字が淡く輝き、隠されていた地図のような模様が浮かび上がった。  
光が床へ広がり、部屋全体が淡い金に包まれる。

「こ、これは……」リリアが後ずさる。  
村長も言葉を失い、ただ光に見入っていた。  
リオンは本を閉じ、光が静まるのを待った。  

「どうやら、古代の防御結界の記録みたいですね。でも書き換えが暴走してる。」

「読めるのですか? 本当に?」

「まあ、なんとなく、そういう感じで。」

言ってしまってから自分の軽さに後悔する。  
だがもう遅い。リリアは興味津々で彼に詰め寄った。

「信じられません……何百年も誰も解読できなかったのに!お願いです、続きも読んでください!」

「い、いや、そんな簡単に言われても。僕、正確な研究者じゃ――」

「お願いです!」  
王都育ちの気品などどこへやら、リリアは身を乗り出してきた。  
近すぎる距離にリオンは思わずたじろぐ。  
そのやりとりを見た村長が咳払いをした。

「リリア、落ち着きなさい。だが、確かにお願いしたい。本来これは学者が解読してもいいはずだったが……王都に頼んでも誰も読めなかったんだ。」

リオンは唇を噛み、少しだけ考えた後うなずいた。

「わかりました。できる範囲で読みます。ただし、僕の理解が合っている保証はありません。」

そう言って本を再び開く。  
指先がページをなぞるたび、魔力の粒子が舞うように光った。  
読み進めるうちに脳裏に映像が流れ込む。  
――暗闇の中、無数の光の柱。封印の鍵。崩壊した都市。  
そして、“識者の末裔”という言葉。

「……これ、王都の地下構造を示してますね。もとは“アトラ文明”の遺跡を基盤に建てられた街なんです。」

「王都が、古代遺跡の上に?」

村長の声にリオンは頷く。  
「ええ。たぶん、その遺跡の魔力封印がどこかで壊れた。兆候がすでに出ています。」

「どんな兆候です?」

「魔力の流れの乱雑化、突然の天変……あと、大型魔獣の活性化とか。」

リリアが小さく息をのんだ。  
「まさか……それって、昨日の亜竜も関係してる?」

リオンは苦笑した。  
「可能性はありますね。辺境は封印の外縁部に位置する。王都の乱れが、外まで影響してきたとか。」

村長の手が震えた。  
「そんな大事なことを、王家は知らぬままか……。」

リオンは本を閉じた。  
「まだ断言はできません。でも、放っておくと面倒なことになりそうです。」

静寂が部屋を満たした。  
古代の記録を読む彼の声だけが響いていたのが、いまや誰も言葉を発せなくなっている。  
リリアがゆっくりと問いかける。

「リオンさん、どうして古代語が読めるんですか?」

「……さあ、自分でもよくわからないんです。母の形見でこの本を持ってて、物心ついた時からなぜか意味が理解できた。それだけです。」

「その本、見せてもらえませんか?」

リオンは躊躇したが、信頼できると思い、差し出した。  
リリアが手にした瞬間、本の表紙が微かに光り、暖かい風が吹いた。  
彼女は驚いて手を離す。

「今、何かが反応しました……。」

「多分、あなたも“見える”側なんでしょうね。」

「見える……側?」

「古代の記録に触れられる“血”のことです。」  
リオンは苦い笑いを浮かべた。  
母も似たように、どこか不思議な力を持っていた。  
だが彼女はその出自を一度も語らなかった。

リリアは困惑しながらも、決意を宿した表情をした。  
「なら、私も手伝わせてください。この図書室を調べましょう。もしかしたら、王都の真実に繋がる何かがあるかもしれません。」

その言葉を聞いてリオンは頷いた。  
人の温もりを感じるのは久しぶりだった。  
一人で抱えてきた理解されない知識が、ようやく誰かと共有できるかもしれない。  
それだけで心が軽くなる。

夕方。地上に戻ると、村を薫る風が吹き抜けていった。  
太陽は傾き、空の赤が地平線を染めて美しい。  
リオンはふと呟く。

「……もう少し、この村にいてもいいかな。」

「もちろんです。あなたはもう村の大事な人ですから。」  
リリアの言葉に、リオンは照れたように笑う。  
その笑顔を見た彼女も、静かに笑った。

だがその瞬間、空の彼方で雷鳴が轟いた。  
天気予報もない世界で、突然の稲妻。  
まるで王都の方角から響いたかのように。

リオンは無意識に空を見上げた。  
胸の奥に、かすかなざわめきが生まれる。

「嫌な予感がするな……。」

村長の屋敷では、まだ地下室の本棚の奥で、ひときわ強い光を放つ一冊があった。  
だれもその存在に気づかないまま、古代の封印がゆっくりと軋み始めている。

続く
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