追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件

uzura

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第6話 ギルド登録と、才能ゼロ評価のはずのステータス

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辺境グラン村の朝は静かだ。  
鳥のさえずりと川のせせらぎ以外、何の音もない。  
その中を、リオン・グレイアードは木箱を抱えて歩いていた。  
村の真ん中に建つ、小さな石づくりの建物――それが冒険者ギルドの地方支部だ。

「本当に登録しちゃうんですか?」  
隣を歩くミーナが心配そうに尋ねる。  
「だって、畑の資材とか、いろいろ買うのにギルド口座があった方が便利だろ?」  
「でも王都時代の記録が残ってるかも……“追放された無能”って扱いだったんでしょ?」  
「まあ、そのへんはうまく誤魔化すさ。」

リオンの笑顔に、ミーナはため息をついた。  
彼女は自分でもよくわからない安心感を覚えている。  
この人なら、なんだかんだでどうにかしてしまう――最近ではそれが「いつものこと」と認識すらされつつあった。

ギルド支部は小さいながらも、辺境らしい逞しさに満ちている。  
壁には討伐依頼や護衛案件が貼られ、受付には元気な若い受付嬢がいた。  
彼女の名はティアナ。栗色の髪を高く結い、辺境では珍しいほど明るく社交的な女性だ。

「いらっしゃいませ! あら、あなた新顔さん?登録かしら?」  
「ええ、そうです。名前はリオン・グレイアード。」  
「リオン……グレイアード……はい、っと……ん?王都の記録に……えっ?」

ティアナの指が止まり、目が丸くなる。  
端末の魔導水晶に浮かぶ記録は、リオンにとって嫌な思い出の象徴でもあった。

「うわ、こっちにも残ってるんですね、学園のデータ。」  
「一応全国共通ですからね。でも、あの……“才能値E評価”って書いてありますよ?」  
「俺もそれがよくわかんないんだ。実際はまあ、こんな感じで……。」

言い終えるよりも先に、ティアナが苦笑いした。  
「ま、問題ないですよ。地域ギルドは実績主義ですから。登録用の測定石に手をかざしてください。」

リオンは言われた通りに手を乗せた。  
その瞬間、測定石がまぶしいほどの光を放ち、内部から低いうなりを上げた。  
周囲の空気が波打ち、小さな地震のような振動が伝わる。

ティアナが呆然とした。  
「こ、これ……反応レベルがオーバーフローしてます!?」  
「おかしいな、力抜いたつもりだったんだけど。」  
「ちょ、ちょっと待ってくださいね……再測定……ダメだ、表示が出ない!」

測定石が軋み、魔力の余波でカウンターの花瓶が倒れる。  
慌ててミーナがそれを支え、ティアナが悲鳴を上げながら叫んだ。  
「リオンさん! 一旦止めてください!石が割れます!」  
「あ、やば。」

慌てて手を離すと、パリンッと乾いた音が響き、測定石が破裂した。  
ギルド内がしんと静まる。  
数秒遅れでざわめきが広がった。

「おい、今の何だ!?」「魔力暴走か?」「誰がやったんだ!」

ティアナは半ば呆然としながらリオンを見つめた。  
「い、いままで何千人も測定してきましたけど、石を壊した人、あなたが初めてです……。」

「えっと、ごめん。壊すつもりはなかったんだ。ただ、魔力の調整が苦手でして。」

「調整の問題じゃありませんっ!桁が!」  
半泣きのティアナを前に、リオンは肩をすくめるしかなかった。  
結局、「最上位無制限扱い」で登録されるという前代未聞の例外措置が取られることとなった。  
後日、中央ギルドから確認が入るだろうが、ティアナ曰く「辺境支部の判断でどうにかなる」とのことだ。

登録証が手渡されると、ミーナがじっとそのカードを覗き込んだ。  
「えっと……“魔力量:計測不能”“判断:特例S”? ねえリオンさん、これ、英雄クラスと同格ですよ?」  
「ま、便利ならいいか。これで資材も買えるし。」

余裕の表情のリオンとは対照的に、ギルドの職員たちはざわついていた。  
「Sランクが辺境に?聞いたことねえぞ」「本人は地味そうなのにな……」「測定器の故障じゃないのか?」  
耳に入るたびに肩がこそばゆく、リオンは早々にその場を後にした。

外へ出ると、ミーナがぷっと吹き出す。  
「なんであんなに落ち着いてるんですか?普通の人なら大騒ぎですよ!」  
「いやー、王都で散々“無能”って言われてたから、いまさら驚かないんだよな。」  
「それで片づける問題じゃありません!」  
ミーナは両手を広げて叫んだが、リオンはのほほんと笑っていた。

帰り道の途中、物資店の前で騎士団の鎧を着た若者たちとすれ違った。  
辺境の防衛任務で派遣されてきた王都の兵らしい。  
その中に、やけに高圧的な青年がいた。  
学園時代の制服の胸章を、そのまま鎧に嵌め込んでいる――見覚えのある紋章だ。

「あれ……マルクス?」  
リオンが呟くと、青年が振り返った。  
金髪碧眼の、いかにも貴族然とした男。  
彼も一瞬驚いたが、すぐに鼻で笑い飛ばした。

「……誰かと思えば、無能のリオンじゃないか。まだ王都に戻っていなかったのか?」

その声には、あの学園での嘲笑と同じ冷たさがあった。  
ミーナが眉をひそめる。  
「ちょっと、今の言い方……。」

だがリオンは手で制した。  
「いや、いいんだ。久しぶりだな、マルクス。君は相変わらずだな。」

「ふん。俺は勇者隊の候補に選ばれて忙しい身だ。こんな辺境に来たのは上の命令で仕方なく、だ。お前のような落伍者とは違う。」

彼の一言一言は棘のようだったが、リオンの顔からは驚くほど感情が消えていた。  
昔なら悔しさに声も出なかっただろう。だが今は、ただ穏やかに微笑むだけだった。

「そうか。元気そうで何よりだ。任務、頑張ってくれ。」

「何だその気取った態度は。自分の立場がわかって――」

マルクスの言葉が終わる前、突風が集落を吹き抜けた。  
リオンは無意識に手を上げ、周囲の飛んできた木屑や砂ぼこりを風で弾いた。  
まるで空気が彼に従うように流れる。  
それを見たマルクスの顔が引きつる。  
威風堂々とした鎧姿が、一瞬で小さく見えた。

「……ただの風です。僕は今、村の修繕屋みたいなもんで。戦う気も、競う気もないよ。」

あっけらかんと告げると、マルクスは真っ赤になって背を向けた。  
取り巻きを連れて、そそくさと歩き去る。  
その背中を見送りながら、ミーナが苦笑を漏らした。

「なんか、すごい“ざまぁ”な光景でしたね。」

「いやそんなつもりはないけど……ま、昔のことで怒る気にもならないよ。」

二人は笑い合いながら帰路についた。  
その背後で、マルクスの一行がひそひそと報告をしていることを、リオンはまだ気づかなかった。  
「報告しろ。グレイアードが生きていた。……あの力、見逃せない。」

数日後、ギルド支部長室。  
ティアナが緊張した表情で報告を受けている。  
中央本部から緊急連絡が届いたのだ。  
報告書にはこう記されていた。

“辺境で測定不能の魔力量を検出。異常個体確認。追踪調査を開始せよ。”

ティアナは小さくつぶやいた。  
「異常個体、ね……。でも、あの人は――誰よりも人を救う“普通の人”なのに。」

外ではリオンとミーナの笑い声が響く。  
その音だけは、まだこの土地に平穏を与えていた。

続く
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