【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季

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07. 夜会にて 〜婚約者と

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「お久しぶりです、セシリア嬢。相変わらずお美しいですね」
「まぁ!お上手ですね、マルクス様。貴方のような素敵な方にそう褒められてしまうと、舞い上がってしまいますわ」
「少しくらい舞い上がればいいのに。貴女は謙虚すぎます」

侯爵家の馬車で夜会の会場に乗りつけると、先に来て待っていたらしい婚約者がすぐに迎えに来てくれた。
差し出された手に手を重ね、お決まりのような軽口を言い合いながら会場へと向かう。

「マルクスさま!お久しぶりです!」

その背中に、高い声がかかる。
名を呼ばれたからには振り返らないわけにもいかなかったのだろう、隣のマルクスが後ろを向いた。
同じように背後をうかがえば、案の定、トリスタンに手を引かれたメリルだった。
マルクスはその二人の様子に、彼のことをよく知っていないと分からないほど、ほんの少し、顔をしかめた。

「あぁ、これはトリスタン殿、お久しぶりです。ご健勝そうで何よりです」
「お久しぶりです、マルクス殿。そちらこそお元気そうで」

マルクスは、当然のように隣の婚約者の弟トリスタンに挨拶をする。メリルが驚いたような顔をした。

「確か騎士見習いになられたのでしょう。宿舎の方での暮らしはいかがですか?」
「えぇ⋯⋯まぁ、厳しくはありますが⋯⋯」

そのまま世間話を始めたマルクスに、トリスタンは気まずげな顔をした。隣が気になるのだろう。

「マルクスさま、お久しぶりです!メリルです!」

相手にしてもらえないことに焦れたらしい、メリルが二人の間に割って入った。会話している殿方の間に入るなど、淑女としては最悪だ。
──それ以前に、本来は彼女の身分的にも許されないことなのだが。

マルクスが苦笑を浮かべた。

「失礼、メリル嬢。私はトリスタン殿とお話しているのですが」
「でも、先に声をかけたのはわたしですよ?マルクスさま、ダンスのお相手をしてくださる約束ですよね。行きましょう!」

先に声をかけたも何も、女性から男性に声をかけることは、してはならないタブーだ。
せっかくマルクスが、それに反応しないことでなかったことにしようとしたのに、自らそれを持ち出すとは⋯⋯。
この場合、男性二人の会話が一段落し、マルクスがメリルにも声をかけるまで、静かに待たなければならないというのに。

そんなことを気にする訳がないメリルは、そんなマルクスの言葉すらもまるっと無視して、あろうことか彼の腕を引こうとする。
手を引かれてリードされるのは女性側である。自ら男性の腕を引こうなど、あってはならない行動だ。

──こういう非常識な言動─男がらみが多い─をあちこちで披露しているから、特にご令嬢方に白い目で見られているのが分からないのだろうか。

呆れつつも、婚約者を助けようかと口を開こうとすると、それに気づいたマルクスが薄く笑って首を振った。

「残念ですが、私のファーストダンスの相手はセシリア嬢なのです。メリル嬢はまた後ほど」
「そんな!前もそう言って結局踊ってくださらなかったじゃないですか!今度は先にわたしと踊ってください!」

彼女は何を言っているのだろう。
何度も何度も思ってきたことだが、相変わらずメリルは予想の遥か斜め下を行く。

婚約者のいる者や既婚者は、最初にその相手と踊るという暗黙のルールがあるというのに。
まさかこれだけ夜会に無理やり参加しておいて、知らないなんてことはないだろう。⋯⋯彼女の場合はあるのだろうが。

「ファーストダンスは婚約者とです。エスコートもですがね。申し訳ないですが、これは皆様が守る当たり前のことなのです。ですよね?トリスタン殿」
「え?あ、あぁ、そうですね⋯⋯」

突然話を振られたトリスタンが、明らかに動揺していた。
対して、あくまでマルクスは穏やかな表情だ。

「会場でまたお会いできたら、そのときは是非お相手をお願いします。⋯⋯行きましょうか、セシリア嬢」

トリスタンが動けないでいるうちに、マルクスはさっさときびすを返す。
後ろで何やら女の喚く声が聞こえたが、彼はもう振り返らなかった。


前から思っていたが、この婚約者殿は優しげな顔をして、時折痛いところを的確に突いてくる。

「わざとですね?マルクス。彼女をあえて無視したのも、弟に婚約者の話を振ったのも」

置いてけぼりにした二人からだいぶ距離が空いてから、隣を見上げて小声で言う。
視線の先、彼は垂れ目がちな目を愉快そうに細めていた。

「あのお嬢さんにお坊ちゃんは、本当に困ったものだね、セシリア。あの二人と一緒に生活している君を尊敬するよ」
「実際は、それにさらにフィングレイ侯爵がつきますわ」
「それはさらにおそろしい!」

今度こそマルクスは、はばかることなく笑い声をもらした。
15のときに婚約者候補として引き合わされたマルクスとは、いつもこんな感じだ。

気を遣うことなく接することができる相手との久しぶりの会話に、詰めていた息をやっと抜けたような、そんな心地がした。
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