【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季

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06. 首飾りの攻防 〜一時決着

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首飾りを譲る気はないと見据える私の剣幕に押されたのだろう、父はたじろいだ。
すると、私たちの間に割り込むようにメリルが立ちふさがった。

「お義姉さま止めて!お義父さまを責めないで!お義父さまは悪くないんです!」

どこか的外れな言葉に唖然として、咄嗟に言い返すことができなかった。

──首飾りに対する発言で父に怒りはしたが、私の中で一番悪くて一番許せないのは、変わらずにメリル貴女なのだが。

そんなことを考えている間に、彼女の瞳に見事なほどに美しく涙が浮かぶ。

「⋯⋯本当は、わたしからお義姉さまに直接貸してくださるようお願いするつもりだったんです。でも、お義姉さまが大切にしてるようだったから、きっと断られると思って⋯⋯。⋯⋯それで、お義父さまにお願いしてみたのです⋯⋯」

涙を浮かべつつそう言ったメリルの言葉を、うまく理解できない。
彼女は、自分が何を言っているか、何をしたのか、分かっているのだろうか。

つまり、私に頼んでは貸してもらえないと思ったから、当主である父の威を借りて、私の侍女を脅して出させたということだろうか。
それを──恥ずかしげもなく言うのか。

「⋯⋯でも、そのような由来のある首飾りなのなら、うれしいです」
「うれしいって⋯⋯どういうこと?」

まだ何を言うかと、嫌な予感を覚えながらも尋ねる。
するとメリルは、心底うれしそうな笑顔を浮かべた。

「今はわたしもお義母さまの娘ですもの。それはつまり、わたしにもこの首飾りを受け継ぐ資格があるということですよね?」

どうしてそんなことを考えることができるのか。
理解できないことがこれほどまでにおそろしいとは思わなかった。
目の前の見た目はかわいらしい少女が、得体の知れない生き物のように思える。
彼女は、そのような無茶苦茶な理屈でこの首飾りを完全に自分のものにしようというのだろうか。

メリルの言葉に私の勢いが削がれたことがわかったのだろう。
彼女に庇われる格好だった父が前に進み出た。

「とにかく、今回この首飾りはメリルが着ける。セシリア、お前は他にもたくさん持っているからそれでいいだろう」
「⋯⋯っ、ですがお父様⋯⋯!」
「これ以上我儘を言うなセシリア!」

我儘ですって?
心外な言われように怒りで目の前が真っ白になる。

「聞き捨てなりませんわお父様!そもそも最初に我儘を言ったのは⋯⋯!」
「ええい、駄々をこねるな見苦しい!メリルはこの首飾りに合わせてドレスまで作ったんだ!すべて無駄にするつもりか!
今回の夜会はメリルがこの首飾りを着ける!これは当主としての私の決定だ!いいな!」

父は吐き捨てるように言う。
お得意の"当主"という言葉が出た。この言い方をした父は、もう梃子てこでも動かなくなる。

心のどこかが急速に冷めていくのを感じた。
結局、父はこういう人なのだと、分かっていたはずの事実を再確認し、諦めに似た思いが占める。

燃えたぎる怒りの炎は瞬く間に鎮火し、残ったのは──凍てつきそうなほどに冷たい感情だ。

「──お父様。この首飾りの謂れはご存知ですわね?」
「もちろん知っている。お前もさっき得意げに話していただろう」

むすりとしたまま、父は言う。
早く話を終わりにして私を追い出したいとでも言いたげな表情だ。

「その謂れをご承知の上で、メリルさんに着けさせると、そういうことでよろしいですわね?」
「くどいぞセシリア!メリルが着けると何度も言っているだろうが!」

まぁいいだろう、と心の中で冷たく呟く。
私は十分に嫌がったし、止めた。

一時でもメリルに渡すのは癪ではあるが⋯⋯
──と言うのなら、せいぜいみればいいのだ。

「──では、今回お貸しいたします」
「本当ですかお義姉さま!」
「ただし」

歓喜の表情を浮かべたメリルに、あえて、にっこりと笑ってみせる。
珍しい私の笑顔を向けられて不穏なものを感じたのか、メリルの表情が強張った。

「お父様のお言葉通り、ですわ。夜会が終わったら、すぐに返していただきます。大事な品ですので無事にお返しくださいね」
「そ、それはもちろんです、お義姉さま!あとは、また別の機会にも⋯⋯」
「その後は、この首飾りも含めて、私のものはすべて、もう二度とお貸ししませんので。よろしいですわね?」
「え⋯⋯いえ、だって、他のものも⋯⋯」

凍るように冷たい怒りが宿った瞳を彼女に向ける。

「よろしいですわね?」

強い眼差しに、メリルは顔を青くして言葉を失った。

「そういうことですので、お父様。聞いておられましたね?私の持ち物ですが、一度きり、メリルさんに貸すことにいたします。フィングレイの当主として、この約束を違えさせることがありませんよう」

メリルが何も言わなかったこともあり、父も勢いに押されたように頷いた。
父の大好きな"フィングレイの当主"が絡む約束事だ。とりあえず今回は、よっぽど違えることはないはずだ。

──いや。もしかしたら、貸してほしいなどという世迷言を、もう二度と口にしないかもしれない。

私は嫌味たらしいほど丁寧にカーテシーをすると、それ以上父もメリルも何も言わぬうちにと、さっさと退室した。



自室に置いていたとはいえ、管理を侍女に任せていたのは失態だった。次からは鍵の管理も自分でしようと固く誓う。
しかし、この調子だと母の持ち物に対しても粗相をしていそうだ。至急、家令にでも立ち合ってもらって確認した方がいいだろう。


自室に戻れば、首飾りを渡してしまった侍女が泣き腫らした目で伏して詫びてきた。
彼女の立場も立場だ。当主たる父に出て来られたら渡すしかないだろう。
そう言って肩を叩いて宥めると、ついでに家令を呼んでくるよう頼んだ。

家令を待つ間、また侍女たちに手伝ってもらい、着たままだったドレスを着替える。
そのときに、ふと、景色に溶けかけながらも窓辺に佇む鳥の姿に気づいた。


着替え終わるとすぐに侍女を下がらせ、窓辺の鳥を手に乗せる。
そうして、息を吹きかけ、歌うようにささやいた。

「《の人のことを解き放て》⋯⋯」

直線的で簡略化された鳥の姿が淡い光とともに解け、手には綺麗に畳まれた数枚の便箋が残る。
見慣れた筆跡のものであるそれにさっと目を走らせれば、知らず、口元に笑みが浮かんだ。


「いよいよなのね⋯⋯」
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