【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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第1章 誕生編

第18話 ケセド川攻略戦3・異変

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 涸れたケセド川で蛇巨獣サーペントとの攻防が続いていた。俺の考えた素晴らしい作戦一と二が破られたため次の段階へと移行するところだ。

 作戦その三。敵の体が硬いのは想定の範囲内だった。となると、やっぱり狙うは露出している部分でもっとも柔らかそうな“目”だろう。

「ターザン部隊、攻撃開始!」

 木の上に隠れていた兵達がターザンロープの要領で四方八方からサーペントの顔に向かって飛び掛かる。オラオラ、捕まえてみな!

「フシュウウ」

 敵は特に焦りも見せず、口をすぼめて酸を横なぎに放った。

 それズルくない?

「ぎゃああ!」
「ぬわぁぁ!」
「あーああー!」

 鎧兵達はロープか体を破壊されて次々に死んでいく。だが、一体だけは敵の目の前にたどり着いた。

「よし! 一体いれば充分だ!」

 その兵が火のついたボール状のものをぶん投げた。それはクローザから貰っていたスライムと神樹のオガクズを配合して作った爆弾“スライムボム”だった。

 見事サーペントの目に当たり破裂。

「フシャ!?」

 痛いだろー? 揚げ物を調理してる時に跳ねた油が肌に触れた時くらい痛いだろー?

 どれくらい痛かったのかは謎だが、ひるんだ敵は一度骨の住処へと退避した。

 バーカ、やっちまったな。そいつは悪手だ。

 ここまでの作戦は全て時間稼ぎ。俺は川の右側で蛇と鎧兵を交戦させている間、密かに左側から伏兵を骨の住処へ忍ばせていたのだ。

「行け!」

 ワニの背骨の上に潜ませていた皆さんご存知のあの方“ポテト”さんがタイミングよく敵の口——ではなく鼻へと飛び込んだ。口がダメなら鼻から入ればいいじゃない作戦だ。俺って音ゲーとかのタイミング命のゲーム得意なんだよね。だからここでもミスらない。

「フシュ!?」

 敵は虚を突かれた表情を浮かべているがもう遅い。無事潜入成功。鼻の奥へと進む。狙うのはもちろん脳みそ。胃の方へ行けば酸に溶かされるかも知れないから。

「ぎゃははは! 死ねっ死ねっ!」

 あ、間違えた。ポテトさんは殺しの時ハイテンションになる設定は捨てたんだったな。クールに行こう。

「……終わりだ(低音)」

 ポテトさんのオリジナル武器“回天聖槍ドリルスピア”の穂先を回転させる。人によってはトラウマであろう歯医者のドリルのような音を奏でて鼻の内部を上へえぐっていく。

「ギャオオオオ!」

 サーペントが怪獣のような悲痛の叫びを上げて暴れる。ムダムダ! ポテトさんは体中にトゲトゲドリルが付いているからひっつき虫みたいに簡単には剥がせないぜ。

 そして脳に到達したポテトさんは容赦なく穴を開けてかき混ぜた。

「グゲガゴッ……」

 敵は言語化できない叫びを上げて重力に従って巨獣ワニの骨にしなだれかかり、白目を剥いて死んだ。

「おっしゃあっ!」

 一人ガッツポーズをとる俺。ゲームの高難易度をクリアした時みたいに嬉しい。後はビーバーっぽい巨獣ウェアラットだけか。順調過ぎて怖いわ。

 勝利の余韻に浸りながらサーペントの死骸を観察していると、尻尾に“大きな杭”が打ち込まれているのが見えた。えっ? 何だこれ。それは逃げないよう誰かが意図的に刺したようにも見える。だからここから完全には出て来なかったのか。

 あれ、でもじゃあ前回、俺が寝てる間に調査兵はどうやって壊されたんだ? こんな近くにいた奴だけじゃなかったはず。

 思考の海に沈みかけていたその時だった。

「オオオオオオッッ!!」

 耳をつんざくような雄叫びが響く。

「な、なんだ!?」

 さらに轟音。ワニ巨獣の骨に“ウェアラットの死体”が落ちてきた。恐怖に歪んだネズミの顔、それと臓物、滴る血液に全身が総毛立つ。

 ゆっくりと鎧兵の首を上へ傾ける。俺が魔王城と呼称するその巣に巨大な影が見えた。

 ああ、何となく、そう、ただ何となくサーペントを倒せば終わりだと思い込んでいた。その後のウェアラットなんて自己犠牲アタックで簡単に倒せる。そう思っていた。

 今思えばどうしてもっと調べておかなかったのか。他に敵がいる可能性を考慮しなかったのか。後悔先に立たずだ。

 謎の巨獣に光が差し、輪郭が露わになる。

 簡単に言えば直立の牛。しかし、普通の牛のようにおっとりとした顔つきではなく、悪魔を憑依させたかのような残忍さを窺わせる。さらに頭部の両コメカミ辺りから生えている二本の角が、弧を描きながら神にあだなすように天を突いており見るものを萎縮させる。

 体色は宝石のエメラルドのように透き通った緑。エメラルド色といえば聞こえはいいが、見方を変えれば毒々しい沼の色。一舐めすれば地獄へ招待されそうな禍々しさを醸し出している。

 魔王城に立つ魔牛。牛魔王とでも言うべきソイツに俺の汗は止まらなかった。
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