【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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第2章 新天地編

第51話 旅立ち

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 二週間後。新天地カーナへ向けて出発の日になった。

 事前に向かわせておいた先行部隊が新天地に行けずに終わったが、他に出来ることは全てやった。あとはなんとかなれだ。

 旅には俺本体も当然同行する。五百体プラス乗り物五百体でも補給なしでは厳しいからだ。

 俺が死ねば王国には灰が降り続け、神樹が枯れ、巨獣が登ってきて滅びるだろう。新天地組も下手したら皆殺しにされる。

 ……バカ、考えすぎるな俺。いつも通り演じればいい。無敵の英雄をさ。

「ゼロ殿」

 王都の広場にいる団長ゼロに対して、女王の近衛兵で巨漢の男シトローンが話しかけてきた。

「シトローン殿、どうした?」

「やはり私も連れて行って貰えないだろうか?」

 またか。ここ二週間ずっとこんな感じでついて来たがるのだ。

「頼む! 私は握り飯を作れるぞ! 肩揉みも出来る!」

 留守番が嫌でダダをこねる子供かよ。

「いや、シトローン殿には我々が留守の間、国を守って欲しい」

 怒られた子犬のような表情をするシトローン。

「……ふむぅ、そうか、そうだな。我儘わがままを言ってすまない。忘れてくれ」

 シュンとして肩を落とし、トボトボと歩いて行った。かわいいオッサンだな。

 さて、めんどくさいオッサンは置いといて、出発の前にやるべきことがある。俺が留守の間に国民が変な行動をしないよう釘を刺しておくことだ。特に邪教と聖教とかいう同人サークルどもには厳しく言っておかないと何をしでかすか分からないからな。

 ゼロとポテトが壇上に立つ。一応、後ろに他の隊長九体を並べている。なぜかって? カッコいいじゃん。

「隊長が勢ぞろいしてるだと?」
「やはり他の兵とは面構えが違うな」
「暇なのか?」

 最後のやつチクチク言葉やめろ。

 ゼロにせき払いをさせて、場を静めた。そして口を開く。口ないけど。

「マルクト王国の民よ。忙しい中、集まってくれて感謝する。周知の事実だと思うが我々は降り注ぐ灰の原因を取り除くためゲブラー火山へと向かう。さらに、それと並行するように一部の国民を新天地へ送り届けるつもりだ」

 一度、息を整えて続ける。

「皆、不安だと思う。新天地へ向かう者達の家族や友人は特に辛いだろう。だが、かの巨獣ミノタウロスを倒した聖騎士団アインを信じて待っていて欲しい」

 俺の言葉に民衆は真剣に耳を傾けてくれている。

「我々はマルクト王国の守り手として、一国民として、この国に骨を埋める覚悟でいる。我々は決して逃げない。誰一人見捨てない。故に一人の犠牲も出さずに故郷であるここへ帰還すると約束しよう」

 このセリフは俺自身に対する覚悟の言葉でもある。俺は追い詰められないと本領を発揮できないタイプだから公衆の面前で表明しておくことは効果があるのだ。

 ひと息ついて、次にポテトさんに発言させるべく一歩前へ出した。その前に壇上の足元の板を踏んで、割れた音を響かせた。ミノタウロス討伐の前に演説をした時、民衆を黙らせるのに効果があったので今回も仕込んで置いたのだ。

「で、でたぁ! 板ドンだぁ!」
「あれが伝家の宝刀、板ドン……!」
「本気を出せば地割れを起こせるというあの板ドンかっ!?」

 板ドンってなんだよ! 壁ドンみたいに言うな! せめてカッコイイ名前つけろよ!

 逆にうるさくなった群衆を黙らせるためポテトさんに発言させる。

「黙れ、静かにしろ」

「はい!!」
「はい!!」
「はい!!」

 コイツらライブ会場の観客くらい聞き分けいいな!

「……全ては団長の言う通りだ。俺から特に言うことはなかったが、どうやら俺の存在が大きくなり過ぎているようだからな、一言だけ言わせてもらう。俺達が留守の間、仲良くしていろ。特に白と黒のやつらはな」

 白と黒はもちろん聖教と邪教のことである。

「いい言葉だ。心に染み渡るぜぇ!」
「深い、深過ぎる……! さすが俺達のポテトさんだぜ!」
「よく分からないけど、深い!」

 何が深いのか一人ずつ問いただしたいわ。

 まぁ何にせよ話が通りやすくて助かる。これでしばらくは民衆も大人しくするだろう。最悪、女王マルメロや近衛兵シトローン、貧民街のボスキャロブゥが何とかするだろう……多分。いやマジで頼むぞポンコツども。

 それから女王や教皇と、今まで会ったお馴染みのメンバーに挨拶を済ませて、いよいよ出発の時になった。

 門の前、俺本体も鎧兵にまぎれ、兜を正して前を向く。

「——聖騎士団アイン、出陣」

 そして運命の旅が始まる。
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