【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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第2章 新天地編

第56話 補給

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 俺本体がホド砂漠のオアシスで休憩していた一方その頃、マルクト王国に向かわせていた補給部隊が神樹の下に到着していた。

「クローザ殿ー、開けてくれでごわすー!」

 俺は今、No.4ドロダンゴにボイスを当てている。茶色鎧で恰幅かっぷくのいい鎧兵だ。

 巨獣加工屋と神樹北の門番をしているクローザがひょっこり顔を出した。日焼け肌に赤毛短髪のお姉さんだ。八重歯もキュート。一人称があーしなので俺の中でギャルっぽいイメージがある。

「もう逃げ帰ってきたのか?」

「まさか。補給でごわすよ」

「ホントかよ……まぁいいか開けるぞー」

 神樹の幹に擬態した門が開く。

 中に入るとクローザが八重歯をわずかに覗かせて鼻で笑っていた。ちょっと見下している感がかわいい。

「ただいまでごわす」

「お前、いっつも使いっ走りさせられてないか?」

「いやいや、これもおいどんにしか出来ない大事な役割でごわす」

「ふぅん。だらしない腹してるくせに言い訳だけはご立派だな」

「ガハハ、辛辣しんらつでごわすなぁ。それよりクローザ殿。スライムボム改は作って貰えているでごわすか?」

「そりゃ仕事はするさ。ちょっと愚痴るが、暴発や盗難の危険があって管理大変なんだぞ。死ぬほど感謝しろよ」

 確かに大変だよな。SB改はクローザと聖騎士団の秘密にしている。人間に知れ渡ればテロなどに悪用されかねないからだ。

「良ければ追加料金を払うでごわすよ」

「いらねぇよ。金の管理も大変になるだろ」

 まぁ確かに。

「それじゃあ他に何かやって欲しいことはないでごわすか? 何でも協力するでごわすよ」

「あーしが望むものは一つさ。無事に帰って来い。それだけだ」

 やだ、カッコいい。こういうツンデレ感がクローザの魅力だよな。

「頑張るでごわす。ところでクローザ殿」

「なんだよ」

「チューしていいでごわすか?」

「死ねよ」

 一向にラブコメに発展しそうもないのがちょっと残念である。

 それからSB改を出発前に貰うと約束し、一度別れを告げてその場を後にした。

 次に修道女ナナバさんの元へ向かう。

 教会の前に着くと、複数の孤児達が走り寄ってきた。

「あれー? ウホホイはー?」

 No.17ウホホイはゴリラっぽい鎧兵でほぼウホしか喋れない悲しき人間という設定のやつだ。

「今日はいないでごわすよ」

 正確には道中で崖から転落して死んだ。鎧兵を自動操縦にしているとよくある事で仕方ない。

「えー? ざんねーん」
「遊んで欲しかったのにー」
「死ね!」

 子供はわかりやすくてかわいいなぁ。最後のやつだけぶん殴りたいけど。

「代わりに用事が終わったらこのドロダンゴが一緒に遊ぶでごわすよ」

「ホントー!? やったー!」
「球蹴りしよう!」
「じゃあごわすはデカいからキーパーな!」

 誰がごわすやねん。つーかキーパーかよ。ぽっちゃりは壁にでもなってろってかぁ? そういう偏見は良くないぞ!

「いやいや、キーパーってのは一番上手い人がやるのがいいでごわす」

「じゃあ多分ごわすじゃん」

 ……それもそうか。チッ、ガキに論破された。

 俺が半べそをかいていると、ナナバさんが教会から出てきた。二十代後半の女性で、外跳ねの金髪ロング、優しさがにじみ出た垂れ目、そしてシスター服を着ている。

「あらぁ、ドロダンゴさん初めまして。よく無事に訪ねてくださいましたね」

 さすがナナバさん、こんなモブキャラの名前まで知っているなんて。

「初めましてでごわす。今日はまたドライフルーツをいただきたくて来たでごわす」

「どうぞどうぞ。沢山あるので遠慮せず持っていってくださいね」

「ありがとうでごわす」

「旅の方は順調ですか?」

「順調でごわすよ。砂漠はちょっと暑いでごわすがナナバ殿のドライフルーツで元気百倍でごわす」

「まぁお上手ですこと。きっと育ちがいいのでしょうね」

 ナナバさんが近寄ってきて、いい子いい子と言いながら頭を撫でてきた。クッ、さすがの母性力だぜ。ナナバさんと仲のいいゴリラ型鎧兵No.17ウホホイに続いてドロダンゴまで幼児退行してしまいそうだ。

 だが甘い。全鎧兵は俺なので既に懐柔かいじゅうされているからムダだぜ! ギャハハ! ということで心の中で言わせてもらおう。

 ママ~! バブバブ~!

 ……ハッ! それ以上はまずい。戻れなくなるぞ俺。

 その後、俺は何とか正気を取り戻してナナバさんと別れた。

 最後に予定していた踊り子トマティナの元へ向かう。

 今日は酒場にいなかったので香水を作っている工房へ向かった。オシャレな外観の建物の扉をノックすると、トマティナが出てきた。

 茶髪ロングをポニーテールにしていていつもと少し違う雰囲気で素敵だ。それと使い古したエプロンを着ている。仕事人の女って感じでカッコイイ。

「こんにちはでごわす。ドロダンゴと申すものでごわす」

「あら珍しい顔ね。おサボりさんかしら?」

「いやいや、トマティナ殿の巨獣避けの香水を補充に来たでごわすよ」

「ふふ、冗談よ。座って待ってて」

 彼女の視線の先にあった小洒落たイスに腰掛ける。トマティナが奥に引っ込んだ隙に工房を観察する。周囲の棚には用途不明な器具や色とりどりの液体が所狭しと並んでいる。香水の匂いが部屋に充満して……鼻ないから分かんねぇわ!

 バカなことを考えていると、トマティナが戻ってきた。

「お待たせ。こぼさないようにね」

「かたじけないでごわす」

「ねぇファイアは居ないの?」

 No.1ファイアは赤い鎧でトマティナと友達以上恋人未満な関係の鎧兵だ。

「あいにく連れてきていないでごわす」

 残念そうな顔をするトマティナ。

「そう……無事なのよね?」

「もちろんでごわすよ。聖騎士団も新天地に向かう人々も無事でごわす」

「よかった」

 トマティナはホッと胸を撫で下ろしていた。

 その姿を見て俺は少し意地悪な質問を投げてみることにした。

「もしかしてファイアのことが好きなんでごわすか?」

「好きよ。愛してる」

「えっ、そ、そうでごわすか……」

 何の躊躇ためらいもなく答える彼女に俺はドキッとした。そこまでハッキリ言われると何だか恥ずかしいな。でもファイアは俺であって俺ではない。

 いつか初めに真実を打ち明けるのはトマティナと考えているが正直怖い。受け入れられなかったら全てを失うことになるのだから。

 うーん、ネガティブなのは良くないな。それよりこうやって他の鎧兵を使って気持ちを聞くのはちょっと卑怯だったな。

「そういえばファイアが早くトマティナ殿に会いたいと言っていたでごわすよ」

「本当!?」

 いつもの冷静さと情熱を兼ね備えた彼女が見せない無邪気な笑顔をしていた。か、かわいい。

 今度は画面越しじゃなくて生で見たいな。早く新天地組を送り届けてトマティナの元へ帰ろう。

 俺はそう決意し、その他の補給と子供達との遊びを済ませて本体の元へと出発した。
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