【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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最終章 聖戦編

第127話 スケアクロウ戦2・近衛兵シトローン

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 神樹上部、王都の南側付近。女王マルメロに代わって近衛兵シトローンが鎧兵を操作し始めた。

「また戦場に立てるとは、シロ殿に感謝する」

 シトローンは俺がマルクト王国に来るずっと前に巨獣と戦う騎士団の団長をしていたのだ。この戦いに賭ける思いも一入ひとしおだろう。

 オールバックの茶髪を後ろへで付けながら、猛禽類もうきんるいのような鋭い目を敵に向ける。壮年そうねんの大男である彼がモニターをにらんでいるのはちょっとシュールな光景だ。

 しかし、その目は歴戦の戦士。油断も隙もない。味方となれば頼もしい限りだ。

「風鎧兵団、展開!」

 シトローンの力強い声の直後、鎧コウモリに乗った風鎧兵が、かまいたちのような斬撃で敵の手足を切り落としていく。女王マルメロと違い、兵を無駄にはしない。これは助かるな。

 その後もシトローンは順調に敵の数を減らしている。しかし、敵もやられっぱなしではない。スケアクロウの形が変化していく。

 木の人形型から、二足歩行の牛であるミノタウロス型になった。これはマズイな。シトローンは過去にミノタウロスによって仲間を殺されている。トラウマを刺激されて果たして戦えるだろうか。

 俺の杞憂きゆうをよそにシトローンは口端くちはを上げていた。

「私の過去を知っているか。ビーチ大司教の仕業だろう。だがむしろ有難ありがたい」

 よかった、余裕がありそうだな。

「はああああ!」

 気合いを入れるシトローン。すると体が発光し始めた。恐らく魔法だろう。彼も果実の一族の血を引くもので、“シトロン”という果物らしい。

 彼の高級そうな近衛兵の服が裂帛れっぱくの音を立てて破れていく。

 能力、筋肉増強。

 有識者の方々ならお気付きだろう。この能力、この場では何の意味もなさない。ただ服が破れただけ。

 そういえばシトローンも無能ぎみだったよな。仲良くなってからは鎧兵ダークにご執心しゅうしんだったし。

「第一大隊は東へ展開! 第八大隊は西へ! まとしぼらせるな!」

 さすがに指揮が上手い。筋肉は完全に無駄だが。

「ミノタウロスとの戦いは頭の中で散々考えてきた。夢にまで見るほどな」

 表情に影を落とすシトローンだったが、すぐに前を向き、土鎧兵を集めて壁を形成した。

 そこに牛型スケアクロウが突進してくる。頭の角と土壁が衝突。敵が角を伸ばして壁を破壊した。

「ふっ、それぐらいはやってもらはなくてはな」

 直後、氷鎧兵で敵の足元を凍らせて滑らせた。土壁は目隠しだったのだ。

 ミノタウロス群がドミノ倒しのように仲間同士を巻き込んで転倒する。

「天国の私の騎士団とダーク老師にささげる」

 おい、ダークを勝手に巻き込むなよ。確かに俺の正体がバレて実質消えたけどさ。

 俺がちょっぴり残念な気持ちでいると、シトローンの操作する鎧コウモリが爆弾兵を投下してミノタウロスを焼き払った。

 うん、さすがシトローンだな。王都真南は彼がいれば大丈夫だろう。

 あとこの辺りで心配なのは南東にいる“修道女ナナバ”さんくらいかな。
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