聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ

文字の大きさ
78 / 80

15-4 愛してる、誰よりも(4) 神の試練を超えて

しおりを挟む
大聖堂の鐘が三度、重々しく鳴り響いた。

「これより神の試練を執り行う!」

ガイウス団長の声が広場に轟き渡ると、数千の群衆が一斉に沈黙した。
空気そのものが張りつめ、冷たく凍りついたように感じられる。

広場中央に据えられた石の円壇。
そこにレオンハルトは鎖のまま立たされていた。
周囲では神官たちが魔法陣を描き、白い衣を翻しながら祈祷を唱えている。

「神の雷をこの身に下せ。真なる聖者ならば生き延びるだろう」

群衆の中から熱狂的な声が響く。

「異端を焼き尽くせ!」
「神よ、御心を示したまえ!」

ユリウスは必死に叫んだ。

「やめろ! こんなのはただの見せしめだ! 彼は……彼は都市を救った英雄なんだ!」

だが、群衆は彼の声に耳を貸さない。
むしろ嘲笑が巻き起こり、罵声が重なる。
ガイウスは冷たい眼差しでユリウスを見下ろした。

「王。口を慎め。ここは神の都、血筋も王位も関係ない。真偽を決めるのは神のみだ」

祈祷が最高潮に達した瞬間、空が裂けた。
眩い雷光が雲を引き裂き、轟音と共にレオンハルトの頭上へと落ちる。

「………!」

群衆から悲鳴があがる。
しかし、雷を受けたはずのレオンハルトは、ただ煙を上げながら立っていた。

「ふん……生ぬるいな」

口元には余裕の笑み。
衣服の一部は焦げていたが、その瞳は鋼のように揺らがない。

群衆はざわめき、一部は畏怖に息を呑む。

だが、その時だった。
魔法陣の光が狂ったように明滅し始め、黒い瘴気が噴き出した。
神官たちが青ざめる。

「な、何だ……? 儀式が……制御できない!」

瘴気からは、獣のような影が蠢き始めた。
人の形を模した怨霊が、呻き声をあげながら群衆へ襲いかかる。

「ひ、ひぃっ!」

逃げ惑う声が広場を埋め尽くす。

ユリウスの方にも、影の一体が迫っていた。
黒い手が伸び、その白い喉を掴まんとする。

「ユリウス!」

レオンハルトは両腕の鎖を力任せに引きちぎった。
鉄が弾け飛び、彼は稲妻のごとく駆けた。
影が爪を振り下ろす直前、その身を盾にしてユリウスを庇う。

「ぐっ……!」

黒い爪が彼の肩を深く抉り、鮮血が飛び散る。

「レオンハルト!」

ユリウスは悲鳴をあげ、震える手で彼の体を支える。

「な、なんで……どうして私を庇うんだ! お前が傷ついたら、私は……私は……!」

涙が頬を伝い落ちる。
レオンハルトは苦笑しながら、血に濡れた手でユリウスの頬を撫でた。

「泣くなよ、子猫ちゃん。お前の涙は、俺には眩しすぎる」
「……私には……王の資格なんてない! 民を守るどころか、お前ひとりすら守れないんだ……!」

嗚咽まじりの叫びに、レオンハルトは揺るがぬ声で答える。

「違う。お前が王だからこそ、俺は拳を振るえる。
お前が民を想う心があるから、俺は迷わず戦える。
だから自分を否定するな。俺がいる限り、お前はまごうことなく正真正銘の王なのだ」

その言葉は雷鳴よりも強く、ユリウスの胸に響いた。
涙を流しながら、彼はレオンハルトに縋りつく。

「……ずっと……私のそばにいてくれるか?」
「もちろん。何度だって答えるよ。お前を置いていくなんて有り得ない」

彼は力強く抱き寄せ、血の匂いさえ甘い約束の証のように感じさせた。

周囲ではまだ瘴気の影が暴れ回っていた。
しかし、レオンハルトが拳を振るうたびに光が生まれ、影は霧散していった。
群衆は言葉を失い、神官たちはただ呆然と見守るしかなかった。

こうして「神の試練」は暴走し、しかし同時に──レオンハルトの力とユリウスへの揺るぎない想いが、万人の前に示されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

次元を歪めるほど愛してる

モカ
BL
白い世界で、俺は一人だった。 そこに新しい色を与えてくれたあの人。感謝してるし、大好きだった。俺に優しさをくれた優しい人たち。 それに報いたいと思っていた。けど、俺には何もなかったから… 「さぁ、我が贄よ。選ぶがいい」 でも見つけた。あの人たちに報いる方法を。俺の、存在の意味を。

オメガバースの世界に転生!?アルファに生まれ変わってパパになります

みたらしのだんご
BL
オメガバースの世界に転生します。村でのびのびします。 ボーイズラブ要素はゆっくり出していきますのでしばしお待ちを

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

処理中です...