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第40話 そして、彼女もまた気づく。
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レオナルドが無数に発射した試験管のようなものは、五角形が無限に並ぶ蜂の巣のようなハニカム構造のドーム状の結界を作り、すぐに城下町全体を覆いはじめた。
そしてレオナルド・カタルシスは、城下町全体だけでなく、城さえもすべて覆っていた。
「行こっか、レンジ」
ピノアはレオナルドの頭を撫でながら言った。
「これでステラは本当にもう大丈夫。
カオスももう来ない。城下町にいるのは、町の人々のアンデッドだけ。
もしかしたら、アンデッドにされたカオスの死体もまだいるかもしれないけど。
城下町の人たちやその子たちのことはケツァルコアトルがなんとかしてくれるはずだから」
「あれは?」
巨大なドーム状のハニカム構造の結界を、ニーズヘッグは見上げていた。
「エーテルに取りついた別の魔素をダークマターから切り離し、その魔素だけを浄化する秘術よ」
ステラもそれを見上げていた。
そして、立ち上がると、そう答えた。
レオナルド・カタルシスが発動されると同時に、彼女の全身に走っていた激痛は消えていた。
「もう身体は大丈夫なのかい?」
「えぇ、もう平気。わたしの身体に入り込んでいたその魔素も浄化されたみたいだから」
彼女がダークマターを触媒とする魔法を放った瞬間、それを形成するエーテルとは別のもうひとつの魔素が、エーテルと分離するのを彼女は確かに感じた。
そして、その魔素の多くは魔法となることで消えたが、少量だけ彼女の身体の中に取り込まれ、それが彼女の身体を蝕み、全身に激痛を走らせていた。
それが、浄化されたために、彼女の身体から痛みは消えたのだ。
「驚いたな。ダークマターについてエウロペはそこまで研究を進めて、そんな秘術まで編み出していたのか」
「エウロペじゃないわ」
ステラはきっぱりと断言し、ニーズヘッグは小首をかしげた。
「エウロペは、いえ、大賢者や国王は、ダークマターを利用することしか考えていなかった。
これは、彼らを信じ、その命令に従った結果、ダークマターやゲートを生み出してしまっただけでなく、大切な友達を魔王にしてしまった人が、そのことを悔やみ続けてきた人が、たったひとりで100年かけて編み出したものなの」
レンジの父は、ステラがたった一度使っただけで、全身が引きちぎられるように感じた激痛を、何度も何度も数えきれないほど、この世界のために魔王になるまで繰り返してくれたのだ。
きっとレンジのような優しい人なのだと思った。
そんな優しい人を騙し、利用し続けた者を許すことはできないとステラは思った。
そして、ダークマターの魔法を使ったことによって、ステラはもうひとつだけ気づいたことがあった。
それは、ダークマターを触媒とする際、精霊は力を借りられていることすら気づかない、ということだった。
いくらでもその力を無断で借りることができるということだった。
火や水、風や土、それに雷や光の精霊は、比較的寛容だ。ザルとも言える。
大賢者のような者にですら、その力を貸していたのだから。
ダークマターの持つ力に見いられ、おそらくはネクロマンサーとしての力を最大限に発揮するため、自らの身体をもアンデッドにしていた男が、手のひらに埋め込んだ結晶化したエーテルを触媒とすれば、その力を借りることができていたくらいなのだ。
おそらく彼らは天変地異を引き起こすようなレベルの魔法を使おうとしない限りは、止めることはなく、どうぞどうぞどうぞと力を貸すのだ。
しかし、ピノアですら、許可なくその力を借りることができない精霊が一柱だけいる。
もし、その力を無断で使われていることに精霊が気づいていないとしたら。
ステラは、レンジがすでに考えていたが、皆に黙っていた「最悪のケース」と同じ考えにたどり着いていた。
そしてレオナルド・カタルシスは、城下町全体だけでなく、城さえもすべて覆っていた。
「行こっか、レンジ」
ピノアはレオナルドの頭を撫でながら言った。
「これでステラは本当にもう大丈夫。
カオスももう来ない。城下町にいるのは、町の人々のアンデッドだけ。
もしかしたら、アンデッドにされたカオスの死体もまだいるかもしれないけど。
城下町の人たちやその子たちのことはケツァルコアトルがなんとかしてくれるはずだから」
「あれは?」
巨大なドーム状のハニカム構造の結界を、ニーズヘッグは見上げていた。
「エーテルに取りついた別の魔素をダークマターから切り離し、その魔素だけを浄化する秘術よ」
ステラもそれを見上げていた。
そして、立ち上がると、そう答えた。
レオナルド・カタルシスが発動されると同時に、彼女の全身に走っていた激痛は消えていた。
「もう身体は大丈夫なのかい?」
「えぇ、もう平気。わたしの身体に入り込んでいたその魔素も浄化されたみたいだから」
彼女がダークマターを触媒とする魔法を放った瞬間、それを形成するエーテルとは別のもうひとつの魔素が、エーテルと分離するのを彼女は確かに感じた。
そして、その魔素の多くは魔法となることで消えたが、少量だけ彼女の身体の中に取り込まれ、それが彼女の身体を蝕み、全身に激痛を走らせていた。
それが、浄化されたために、彼女の身体から痛みは消えたのだ。
「驚いたな。ダークマターについてエウロペはそこまで研究を進めて、そんな秘術まで編み出していたのか」
「エウロペじゃないわ」
ステラはきっぱりと断言し、ニーズヘッグは小首をかしげた。
「エウロペは、いえ、大賢者や国王は、ダークマターを利用することしか考えていなかった。
これは、彼らを信じ、その命令に従った結果、ダークマターやゲートを生み出してしまっただけでなく、大切な友達を魔王にしてしまった人が、そのことを悔やみ続けてきた人が、たったひとりで100年かけて編み出したものなの」
レンジの父は、ステラがたった一度使っただけで、全身が引きちぎられるように感じた激痛を、何度も何度も数えきれないほど、この世界のために魔王になるまで繰り返してくれたのだ。
きっとレンジのような優しい人なのだと思った。
そんな優しい人を騙し、利用し続けた者を許すことはできないとステラは思った。
そして、ダークマターの魔法を使ったことによって、ステラはもうひとつだけ気づいたことがあった。
それは、ダークマターを触媒とする際、精霊は力を借りられていることすら気づかない、ということだった。
いくらでもその力を無断で借りることができるということだった。
火や水、風や土、それに雷や光の精霊は、比較的寛容だ。ザルとも言える。
大賢者のような者にですら、その力を貸していたのだから。
ダークマターの持つ力に見いられ、おそらくはネクロマンサーとしての力を最大限に発揮するため、自らの身体をもアンデッドにしていた男が、手のひらに埋め込んだ結晶化したエーテルを触媒とすれば、その力を借りることができていたくらいなのだ。
おそらく彼らは天変地異を引き起こすようなレベルの魔法を使おうとしない限りは、止めることはなく、どうぞどうぞどうぞと力を貸すのだ。
しかし、ピノアですら、許可なくその力を借りることができない精霊が一柱だけいる。
もし、その力を無断で使われていることに精霊が気づいていないとしたら。
ステラは、レンジがすでに考えていたが、皆に黙っていた「最悪のケース」と同じ考えにたどり着いていた。
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