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第67話 ピノアとアンフィス ①
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昨日ステラとピノアは、エウロペと陸続きに隣接するゲルマーニやアルトリア、ランスの三国に対して、風の精霊の魔法で産み出した伝書鳩を送ってくれていた。
その魔法の伝書鳩は、ステラとピノアに加え、ニーズヘッグの三人が署名をしており、三国の国王の元に届くと署名した者の姿をホログラムのように映し出すように光の精霊の魔法を掛け合わせたものだった。
魔王や大賢者の目に止まり、撃墜されてしまうおそれがあったため、ピノアがレオナルド・カタルシスを完全にとまではいかないものの再現し、小さな結界を張ることで伝書鳩の魔法自体を強化していた。
三国に伝書鳩は無事届き、三国の王からは魔王と大賢者の襲撃に備え同盟を結ぶ、他の国々にも知らせる、と回答があったという。
レンジはステラと並んで町を歩いていた。
その後ろを、レンジの甲冑・レオナルドメイルが、狼の形状になった状態・レオナルドを、ピノアが魔法で首輪と紐をつけて散歩させていた。
いつの間に仲良くなったのか、ピノアはレオナルドをレオナルドちゃんと呼んでいた。レオナルドもピノアによく懐いていた。
「不思議でしょう? あの子。
人や精霊だけじゃなくて、動物や植物も、誰とでもあんな風にいつの間にか仲良くなってるの」
「ぼくらにはわからないような、言葉?か何かがわかるのかな?」
「通じ合えるみたい。心がある相手なら」
すごいな、とレンジは素直に感心した。
「本当にすごい子なのよ。
わたしはあの子に大切に思われていることを誇りに思うわ」
もちろんあなたに想ってもらえてることも、とステラは続けた。
町は活気にあふれ、エウロペにとっては陸続きにある三国との貿易の拠点の町となるらしく、城下町にはなかったようなものがあふれていた。
ステラは、レンジのために服を何着か選んでくれた。
着ていた服は、学生服はともかく、ロンTは妹が選んでくれたものだと話すと、ステラは「あとで魔法でお洗濯してあげる」と言った。
こんな風にのんびりしていていいのか不安だった。
今自分たちがこうしているうちに、魔王や大賢者に罪もない誰かの命が理不尽に踏みにじられているかもしれない。そう思うと心がざわざわした。
「ランスには竜騎士団が、ゲルマーニには医療魔法が、それからアストリアには……アストリアには何かあったかしら?
でも、三国が協力すれば、魔王や大賢者が相手でも数日は持ちこたえられるわ。
今はゆっくり体を休めましょう。
わたしたちが死んでしまってはもとも子もないもの」
そうだね、とレンジは言った。
「父さんが遺してくれた動画、覚えてる?」
「あなたが恋をしたら、というくだりのことかしら?」
「うん。父さんは、ぼくにこの世界で好きになる女の子がいて、その子もまたぼくを好きになってくれるなら、その子に絶対につらい思いをさせるな、って言ってた。
ふたりが、ふたつの世界を繋ぐ架け橋になれって」
「そうおっしゃっていたわね」
「ステラ、ぼくといっしょに橋を架けてくれる?」
「あの言葉を聞いたときからそのつもりよ」
レンジはありがとうと言って、ステラの手を握ろうとした。
「だめ、ピノアが見てるから」
彼女はそう言ったが、ふたりが振り返るとピノアもレオナルドもいつの間にかふたりのそばにはいなかった。
レンジとステラが町中のどこを探しても、ピノアとレオナルドは見つからなかった。
日が暮れ始めた頃、もしかしたら宿に戻っているかもしれない、ふたりはそう考えたが、戻ってはいなかった。
ピノアだけでなく、アンフィスもいなかった。
嫌な予感がした。
その日の夜、ピノアやアンフィスは戻らなかった。
そして、翌朝もふたりは戻らず、ゲルマーニの城と周辺の学術都市には大きな結界が張られた。
それはレオナルド・カタルシスだった。
その魔法の伝書鳩は、ステラとピノアに加え、ニーズヘッグの三人が署名をしており、三国の国王の元に届くと署名した者の姿をホログラムのように映し出すように光の精霊の魔法を掛け合わせたものだった。
魔王や大賢者の目に止まり、撃墜されてしまうおそれがあったため、ピノアがレオナルド・カタルシスを完全にとまではいかないものの再現し、小さな結界を張ることで伝書鳩の魔法自体を強化していた。
三国に伝書鳩は無事届き、三国の王からは魔王と大賢者の襲撃に備え同盟を結ぶ、他の国々にも知らせる、と回答があったという。
レンジはステラと並んで町を歩いていた。
その後ろを、レンジの甲冑・レオナルドメイルが、狼の形状になった状態・レオナルドを、ピノアが魔法で首輪と紐をつけて散歩させていた。
いつの間に仲良くなったのか、ピノアはレオナルドをレオナルドちゃんと呼んでいた。レオナルドもピノアによく懐いていた。
「不思議でしょう? あの子。
人や精霊だけじゃなくて、動物や植物も、誰とでもあんな風にいつの間にか仲良くなってるの」
「ぼくらにはわからないような、言葉?か何かがわかるのかな?」
「通じ合えるみたい。心がある相手なら」
すごいな、とレンジは素直に感心した。
「本当にすごい子なのよ。
わたしはあの子に大切に思われていることを誇りに思うわ」
もちろんあなたに想ってもらえてることも、とステラは続けた。
町は活気にあふれ、エウロペにとっては陸続きにある三国との貿易の拠点の町となるらしく、城下町にはなかったようなものがあふれていた。
ステラは、レンジのために服を何着か選んでくれた。
着ていた服は、学生服はともかく、ロンTは妹が選んでくれたものだと話すと、ステラは「あとで魔法でお洗濯してあげる」と言った。
こんな風にのんびりしていていいのか不安だった。
今自分たちがこうしているうちに、魔王や大賢者に罪もない誰かの命が理不尽に踏みにじられているかもしれない。そう思うと心がざわざわした。
「ランスには竜騎士団が、ゲルマーニには医療魔法が、それからアストリアには……アストリアには何かあったかしら?
でも、三国が協力すれば、魔王や大賢者が相手でも数日は持ちこたえられるわ。
今はゆっくり体を休めましょう。
わたしたちが死んでしまってはもとも子もないもの」
そうだね、とレンジは言った。
「父さんが遺してくれた動画、覚えてる?」
「あなたが恋をしたら、というくだりのことかしら?」
「うん。父さんは、ぼくにこの世界で好きになる女の子がいて、その子もまたぼくを好きになってくれるなら、その子に絶対につらい思いをさせるな、って言ってた。
ふたりが、ふたつの世界を繋ぐ架け橋になれって」
「そうおっしゃっていたわね」
「ステラ、ぼくといっしょに橋を架けてくれる?」
「あの言葉を聞いたときからそのつもりよ」
レンジはありがとうと言って、ステラの手を握ろうとした。
「だめ、ピノアが見てるから」
彼女はそう言ったが、ふたりが振り返るとピノアもレオナルドもいつの間にかふたりのそばにはいなかった。
レンジとステラが町中のどこを探しても、ピノアとレオナルドは見つからなかった。
日が暮れ始めた頃、もしかしたら宿に戻っているかもしれない、ふたりはそう考えたが、戻ってはいなかった。
ピノアだけでなく、アンフィスもいなかった。
嫌な予感がした。
その日の夜、ピノアやアンフィスは戻らなかった。
そして、翌朝もふたりは戻らず、ゲルマーニの城と周辺の学術都市には大きな結界が張られた。
それはレオナルド・カタルシスだった。
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