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第79話 ステラが次にすべきこととは
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レンジには今、レオナルドメイルがない。
レオナルドメイルは、ピノアやアンフィスの元に甲冑の狼の姿のレオナルドとして存在する。
たとえ彼がそれを身にまとったとしても、魔王や大賢者が使うのはダークマターを触媒とする魔法であり、レオナルドメイルはそれを無効化することはできない。
レオナルド・カタルシスによって、ダークマターを浄化することができれば、魔王や大賢者はエーテルの魔法しか使うことができなくなる。
だが、大賢者はともかく魔王にはもしかしたら効かないかもしれない。
レンジはまだ、火と雷の精霊の初歩の魔法しか使えない。
それを、結晶化したエーテルから作られた魔装具の剣にまとわせることで、魔法剣を編み出した。
ヒト型のカオスならばそれで倒せた。
ダークマターさえ浄化できれば大賢者も倒せるかもしれない。
だが、レンジが魔法剣で攻撃をしかけるよりも先に、敵にダークマターの魔法を使われてしまったら、その瞬間彼は確実に死んでしまう。
敵は、彼を守りながら戦って勝てる相手ではなかった。
ステラやニーズヘッグでさえ、自分の身を守ることで精一杯だろう。
それはおそらく、ピノアやアンフィスも同じだった。
だからステラは、レンジと共にケツァルコアトルの背に乗ってコムーネの町から飛び立った瞬間から、飛空艇に着いたら彼を魔法で眠らせようと決めていた。
自分が今回の戦いにおいて、ニーズヘッグたちと合流した後、最初に何をしなければいけないのか。
ステラが考えていたのはそのことだった。
そして、次にしなければいけないことは、飛空艇がもし間に合わないとわかったとき、必ず間に合わせることだ。
その方法をステラは持っていた。
だが、それをすれば自分がどうなってしまうのか想像もつかなかった。
だから、レンジにはどうしても眠っていてもらわなければいけなかった。
ステラは、エーテルと一体化して産まれた魔人としての身体のすべてを風の精霊の魔法に変えるつもりでいた。
それによって、飛空艇の推進力は何倍にも高められるはずだ。
だが、それにより、彼女の体からエーテルが消え、ただの人になるのか、それとも彼女の体が消滅してしまうことになるのかまではわからなかった。
だが、レンジは大きなヒントをくれた。
「やっぱり、わたしたちがあなたを導くのではなく、あなたがわたしたちを導いてくれる存在だったみたいね」
ステラは、眠っているレンジに向かって言った。
「ねぇ、ソラシド?
レンジが剣を納めようとした、魔装具を納める……確か『匣(はこ)』と言ったかしら? もしそれに、エーテルと一体となって産まれてきた魔人が入った場合、どうなるのかしら?」
「ステラ様が消滅されてしまいます」
「そう……
でも、レンジの魔装具を使うよりはきっと早くピノアたちの元に着けるのよね?」
「可能です。おそらくは5分もかからないでしょう」
ステラは、数日前にピノアの別人格が、彼女やレンジに話したことを思い出していた。
あの別人格が現れたのはレンジの前では一度きりだったが、ステラは幼い頃から何度か彼女が現れるのを見たことがあった。
彼女は明らかにピノアとは別人だ。
だから、ピノアと区別するために「ノベラ」という名前を勝手につけてもいた。
どうやら、ノベラの思い違いだったみたいね、とステラは思った。
一万人目の巫女はわたしではなかった。わたしであるはずがない、とステラは思った。
ただの魔人でしかない自分は9999人目の巫女に過ぎず、ピノア・カーバンクルか、あるいはノベラ・カーバンクルこそが一万人目の巫女なのだ。
自分は、テラの歴史に、アンフィス・バエナ・イポトリルと共にその名を遺すであろう、未来の大賢者にしてアルビノの魔人のための礎に過ぎないのだ。
未来のステラがアンフィスの時代を訪れたとき、彼女は大賢者だったという。
そのとき、ステラのそばにはピノアがいたという。
つまり、アンフィスを救った未来のステラやピノアは、あくまでステラ・リヴァイアサンやピノア・カーバンクルの未来の可能性のひとつに過ぎないのだ。
ピノアやアンフィスが今対峙している魔王や大賢者に敗れるとは限らない。
だが、その可能性は非常に高い。
だから、ふたりの命を守るために、自分は出来ることを今しなければならない。
たとえそれによって命を落としたとしても、自分はアカシックレコードに行くことはなく、ピノアの一部となる。
ピノアが悲しむことは理解していた。
できれば、彼女を悲しませたくなかった。
だが、もはやそれしか方法がなかった。
幼い頃からずっとピノアがそばにいてくれた。
ピノアのことが大好きだった。
ふたりで、リバーステラからの一万人目の来訪者の巫女になることができた。
そして、レンジに出会えた。
うまれてはじめて恋をした。
はじめて好きになった男の子と体を重ねることもできた。
悔いがないと言えば嘘になる。
けれど、ピノアとレンジのためなら、自分は何だって出来る。
「じゃあ、それでお願いできるかしら?」
しかし、ステラの死を覚悟した決断に対し、
「できません」
ソラシドはそう答えた。
レオナルドメイルは、ピノアやアンフィスの元に甲冑の狼の姿のレオナルドとして存在する。
たとえ彼がそれを身にまとったとしても、魔王や大賢者が使うのはダークマターを触媒とする魔法であり、レオナルドメイルはそれを無効化することはできない。
レオナルド・カタルシスによって、ダークマターを浄化することができれば、魔王や大賢者はエーテルの魔法しか使うことができなくなる。
だが、大賢者はともかく魔王にはもしかしたら効かないかもしれない。
レンジはまだ、火と雷の精霊の初歩の魔法しか使えない。
それを、結晶化したエーテルから作られた魔装具の剣にまとわせることで、魔法剣を編み出した。
ヒト型のカオスならばそれで倒せた。
ダークマターさえ浄化できれば大賢者も倒せるかもしれない。
だが、レンジが魔法剣で攻撃をしかけるよりも先に、敵にダークマターの魔法を使われてしまったら、その瞬間彼は確実に死んでしまう。
敵は、彼を守りながら戦って勝てる相手ではなかった。
ステラやニーズヘッグでさえ、自分の身を守ることで精一杯だろう。
それはおそらく、ピノアやアンフィスも同じだった。
だからステラは、レンジと共にケツァルコアトルの背に乗ってコムーネの町から飛び立った瞬間から、飛空艇に着いたら彼を魔法で眠らせようと決めていた。
自分が今回の戦いにおいて、ニーズヘッグたちと合流した後、最初に何をしなければいけないのか。
ステラが考えていたのはそのことだった。
そして、次にしなければいけないことは、飛空艇がもし間に合わないとわかったとき、必ず間に合わせることだ。
その方法をステラは持っていた。
だが、それをすれば自分がどうなってしまうのか想像もつかなかった。
だから、レンジにはどうしても眠っていてもらわなければいけなかった。
ステラは、エーテルと一体化して産まれた魔人としての身体のすべてを風の精霊の魔法に変えるつもりでいた。
それによって、飛空艇の推進力は何倍にも高められるはずだ。
だが、それにより、彼女の体からエーテルが消え、ただの人になるのか、それとも彼女の体が消滅してしまうことになるのかまではわからなかった。
だが、レンジは大きなヒントをくれた。
「やっぱり、わたしたちがあなたを導くのではなく、あなたがわたしたちを導いてくれる存在だったみたいね」
ステラは、眠っているレンジに向かって言った。
「ねぇ、ソラシド?
レンジが剣を納めようとした、魔装具を納める……確か『匣(はこ)』と言ったかしら? もしそれに、エーテルと一体となって産まれてきた魔人が入った場合、どうなるのかしら?」
「ステラ様が消滅されてしまいます」
「そう……
でも、レンジの魔装具を使うよりはきっと早くピノアたちの元に着けるのよね?」
「可能です。おそらくは5分もかからないでしょう」
ステラは、数日前にピノアの別人格が、彼女やレンジに話したことを思い出していた。
あの別人格が現れたのはレンジの前では一度きりだったが、ステラは幼い頃から何度か彼女が現れるのを見たことがあった。
彼女は明らかにピノアとは別人だ。
だから、ピノアと区別するために「ノベラ」という名前を勝手につけてもいた。
どうやら、ノベラの思い違いだったみたいね、とステラは思った。
一万人目の巫女はわたしではなかった。わたしであるはずがない、とステラは思った。
ただの魔人でしかない自分は9999人目の巫女に過ぎず、ピノア・カーバンクルか、あるいはノベラ・カーバンクルこそが一万人目の巫女なのだ。
自分は、テラの歴史に、アンフィス・バエナ・イポトリルと共にその名を遺すであろう、未来の大賢者にしてアルビノの魔人のための礎に過ぎないのだ。
未来のステラがアンフィスの時代を訪れたとき、彼女は大賢者だったという。
そのとき、ステラのそばにはピノアがいたという。
つまり、アンフィスを救った未来のステラやピノアは、あくまでステラ・リヴァイアサンやピノア・カーバンクルの未来の可能性のひとつに過ぎないのだ。
ピノアやアンフィスが今対峙している魔王や大賢者に敗れるとは限らない。
だが、その可能性は非常に高い。
だから、ふたりの命を守るために、自分は出来ることを今しなければならない。
たとえそれによって命を落としたとしても、自分はアカシックレコードに行くことはなく、ピノアの一部となる。
ピノアが悲しむことは理解していた。
できれば、彼女を悲しませたくなかった。
だが、もはやそれしか方法がなかった。
幼い頃からずっとピノアがそばにいてくれた。
ピノアのことが大好きだった。
ふたりで、リバーステラからの一万人目の来訪者の巫女になることができた。
そして、レンジに出会えた。
うまれてはじめて恋をした。
はじめて好きになった男の子と体を重ねることもできた。
悔いがないと言えば嘘になる。
けれど、ピノアとレンジのためなら、自分は何だって出来る。
「じゃあ、それでお願いできるかしら?」
しかし、ステラの死を覚悟した決断に対し、
「できません」
ソラシドはそう答えた。
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