「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第98話 10000という数字の意味

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 大艦隊や戦闘機がゲートの向こう側、リバーステラに押し戻されはじめていた。
 アルビノの魔人として覚醒したステラの力だった。

 ステラの覚醒と同時に、レンジの身体にもまた覚醒と呼べる異変が起きていた。
 ステラと同様に使えなかった魔法が使えるようになっていたのだ。

 だから彼が使う魔法剣は、初歩の魔法ではなく、最上級攻撃魔法をまとわせたものだった。
 アルマを狙っていたミサイルをすべて撃墜できたのは、魔法剣の威力が城下町でヒト型のカオスを倒したときとは桁違いだったからだ。

 レンジの父・富嶽サトシも、彼らが知るブライ・アジ・ダハーカも、おそらくはまだ見ぬオリジナル・ブライも、10000という数字にこだわっていた。

 レンジが10000人目の来訪者であり、彼を導く巫女もまた10000人目とするために、ステラとピノアのふたりがつけられた。
 来訪者が巫女に導かれ、エウロペの国王に謁見する際に渡される支度金は、10000ρ(ロー)だ。

 オリジナル・ブライは9999人のコピー・ブライを作り、ブライは10000人存在した。

 ステラの覚醒によって、レンジもまた覚醒するように仕組まれていた。
 だからこそ、ふたりは互いに10000人目でなければならなかったのだ。

 オリジナル・ブライもまた、本来は1人目であったが、順番を入れ替えて10000人目になっているのだろう。
 そして、ステラの覚醒によって、レンジと同様にブライもまた覚醒しているに違いなかった。

 では、父は?

 父もまたどこかで生きているということは、ブライと同じようにコピーが9999人いるということだろうか?
 父もまた、覚醒しているということだろうか?


 飛空艇にはアルマとヨルムンガンドが戻っていた。
 アンフィスとレオナルドもまた、ニーズヘッグとケツァルコアトルを連れて戻っていた。
 ピノアとアンフィスがふたりを治療していた。

 あとは、目の前にあるゲートの先にいるオリジナル・ブライを倒すだけだ。

 そう思っていた。

 だが、つい先ほどまで感じていたブライらしき気配は、もう感じなかった。

 父の気配を感じた。
 優しく温かい目で父がこの先から自分を見つめている。
 そして、レンジを呼んでいた。


 だからレンジは、

「ごめんね、みんな。
 ちょっと行ってくるよ」

 遠くにいる皆に聞こえるはずもない小さな声でそう言うと、

「すぐ戻るから。心配いらないよ」

 ゲートをくぐった。


 やはりそこは、レンジがゲートを産み出したときに真っ先に想像した、リバーステラのホワイトハウスと呼ばれる場所ではなかった。

 ダークマターに満ち満ちた別次元だった。
 やはり、レオナルドの考えていた通り、そのような場所が存在したのだ。

 そして、そこには、やはりブライではなく、父がいた。

「悪いな、レンジ。ブライじゃなくて。
 お前が父さんの剣を使って、ゲートを開いたのがわかったから、次元の精霊の魔法で行き先を、ここに変えさせてもらった」

 父の体は、ピノアが倒したコピー・ブライと同様に、全身の細胞が混沌化し、カオス細胞となっていた。
 魔王になっていた。

「時の精霊の魔法で、死ぬ直前にこの世界に来た瞬間に戻ることを、9999回繰り返してきた。
 だが、10000回目もこの様だ。

 前回までの記憶や力を持ったまま、『強くてニューゲーム』を繰り返し続けてきた。
 その度にこの世界で100年を生きた。

 百万年生きてきたが、どうしても父さんは100年目に必ず魔王になり、必ず死ぬ運命にあるらしい」

 父は、コピーを作っていたわけではなかった。
 この100年を10000回も繰り返してきたのだ。


「お前にここに来てもらったのは、この世界における時間の概念を説明したかったからだ」

 父はそう言った。

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