「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
112 / 271
【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第112話 2周目の一万人目と10001人目の転移者

しおりを挟む
 秋月レンジと大和ショウゴは、ゲートをくぐった。

 ゲートは、リバーステラの日本、彼らが住む町に繋がっていたはずだった。

 しかし、ふたりは、エウロペの城下町の商店街のはずれにいた。
 かつて転移してきたときと同じように。
 ふたりとも高校指定の制服姿だった。

「どういうことだ? ここは、エウロペの城下町だろ?」

 ショウゴに尋ねられたレンジは、制服のポケットからスマホを取り出した。
 画面に表示されていた日付は2020年11月11日だった。
 午後4時32分。

 レンジはショウゴに、スマホの画面を見せた。

「ぼくがこの世界に転移してきた日付と時間だよ。
 ゲートをくぐれば、リバーステラに辿り着くのは一瞬のはずだ。
 その一瞬の間に、時が巻き戻されたとしか考えられない」

 レンガが敷き詰められたその通りの先には広場があり、大きな噴水が見えていた。
 その噴水に、明日の朝、魔装具鍛冶のレオナルドの死体が浮かぶことをレンジは知っている。

 そのさらに向こうに、中世ヨーロッパの城のようなものが見えた。古代の神殿や宮殿のようにも見えるそれは、エウロペ城だ。
 だが、その城はジパングの城のように結晶化したエーテルによって作られていた。

「ただ時を巻き戻されただけじゃないみたいだな」

 ショウゴは城を見て言った。

「エウロペの城は、あんな色をしていなかった」


 空には大航海時代のような船が浮かんでいた。飛空艇だ。
 だがオルフェウスではない。民間用のものだ。
 オルフェウスは、城のまわりに魔法研究所や魔術学院同様浮かんでいた。

 鳥ではない、もっと大きな、翼竜とでも呼ぶべきものが空を飛んでいた。
 ドラゴンだ。
 その背に何者かが股がっていたことになぜあのとき気づかなかったのだろう。
 気づいたとしても、そういう存在がいるんだろうなと思っただけであっただろうが。

「ぼくがあのとき見たのはランスの竜騎士だったのか」

 まずいな、とレンジは思った。

「ぼくたちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「今この世界には、エウロペの大賢者ブライ・アジ・ダハーカだけではなく、9999人のコピー・ブライが存在している。
 ランスにもゲルマーニにもアストリアにも、もしかしたらペインやギリス、ジパングにも、世界中の国家や大都市の中枢にコピー・ブライはいるんだ。
 あの竜騎士はおそらくランスにいるコピー・ブライの部下だ」


 秋月レンジと大和ショウゴは気づいたら、再び異世界にいた。
 転移したわけではない。転生したわけでもない。時を巻き戻されたのだ。


 ふたりともこの世界に以前転移してきたときと同様、学校指定のボストンバッグを持っていた。
 顔には、スポンジ製の洗って何度も使い回せるマスクをしたままだった。

「やっとマスクなしで生活できる日常を取り戻したと思ったのにな」

 ショウゴはマスクをはずした。
 レンジもまたそのマスクをはずしながら、

「ぼくたちがリバーステラからカーズウィルスを死滅させた事実は変わってないと思う」

 そう言った。

「ふたつの世界が切り離されたからか?」

 レンジはうなづいた。

 だがそれは願望だった。
 すべてが巻き戻されたわけではないと信じたかっただけだった。

 レンジはスマホにインストールした覚えのないアプリが入っているかどうかを確かめた。
 そこには魔法使いが持つ魔道書のようなものの絵が書かれたアイコンがあり、「異世界転移アプリ」と書かれているはずだった。
 だが、アプリは入っていなかった。
 ショウゴのスマホにも異世界転移アプリはなかった。

 もっとやっかいなことがあった。

 ふたりの目の前にあるはずのATMがなかったのだ。

 レンジはそのATMに、財布の中にあったゆうちょ銀行のカードを試しに入れてみることによって、大金を手にし、魔装具を手に入れることができた。
 だが、今回はそれができないのだ。


 商店街では、エプロンをした若い女性が道行く人々に声をかけていた。
 あのときは言葉がわからなかったが、今はわかった。
 やはり店の呼び込みだった。

 あのときは城下町には、見慣れない文字ばかりが並び、聞こえてくるのは聞き覚えのない言葉ばかりだったが、今はちゃんとわかる。
 それはショウゴも同じだった。

 ふたりとも、大気中のエーテルによるこの世界の順応化は既に済んでいたからだ。

 だから、商店街を抜ける瞬間に、目眩を覚えることはなかった。

 だが、それは、あのときよりも奇妙な感覚だった。


 そして、クラッカーのようなものが彼らの左右から放たれた。パンという渇いた音ではなく、ポンという手品のような音だった。

『コングラッチュレ~ショ~ン!!』

 ふたりの左右からそんな声がした。

 左から聞こえる声は、レンジが苦手とするクラスカーストの上位にいる女子たちと同じテンションのもののはずだった。
 右から聞こえる声は、それとは真逆の、彼と同じようにひとりで休み時間を読書をして過ごすような女子のもののはずだった。


「異世界「リバーステラ」とのゲート開通から今年で100年!」

「通算一万人目と10001人目のお客さんがただいまご到着だ!!」


 だが、そこにいたのは、エブリスタ兄弟だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

処理中です...