「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第114話 超えるべき目標がいない世界

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「1周目」の世界では、確かリバーステラからテラへの一方通行のゲートは、一万人目の転移者であるレンジの来訪をもって閉じられたはずであり、ショウゴはイレギュラーな10001人目の転移者だった。

 そこはもはやショウゴやレンジたちが知るエウロペでもテラでもなかった。
 だが、ステラやピノア、ブライがいないとしても、エブリスタ兄弟がいる以上、完全に別物ではないはずだ。

 ステラとピノアは、転移者を導く巫女であり、本来なら転移者につけられる巫女はひとりであったという。
 一万人目のレンジにだけは特別に巫女がふたりつけられたと聞いていた。

 だが、エブリスタ兄弟は男だ。
 巫女ではないというだけではなく、ブライに代わる二大賢者だという。
 ステラやピノアはどこかに存在するのかもしれない。
 巫女制度自体がないだけなのかもしれない。

 ふたりが一万人目だけでなく10001人目の転移者の存在を知っていたということは、「2周目」のこの世界ではショウゴはイレギュラーな存在ではないということだった。
 大賢者であるふたりは、レンジとショウゴをそれぞれ導くためにつけられた、あるいは自らついた、ということだろうか。

「わからないことだらけのところ申し訳ないが、それはこっちも同じでね、うまく説明できないんだ」

 だが、ショウゴにはわかっていたこともあった。

「たぶん、これから俺たちはお前たちといっしょに国王へ謁見に向かわなければいけないんだと思う。
 だけど、その前にどうしても寄らなければいけないところがあるんだ。付き合ってくれないか」

 わかっていたのは、背中で寝息を立てているレンジをどうにかしなければいけないということ、ただそれだけだった。

「こいつは今、ひどいストレスを抱えていて、ダークマターのせいで好戦的な性格になってる。
 治せるのは魔装具鍛冶のレオナルドという魔人だけだ」

 しかし、ショウゴが出した名前に対するエブリスタ兄弟の反応は、先ほどと同じだった。

「まさかとは思うが、いないのか? レオナルドも」

「いない。三日前に死んでる」

 ライトから返ってきたのは絶望的な答えだった。

 レオナルドがいなければ、レンジを治せないだけではなかった。
 明後日にはこの城下町は四体のヒト型のカオスと100体近いカオスの襲撃を受ける。
 ブライが17年前に死んでいる以上、それは起きないかもしれない。
 だが、もし起きてしまったとき、1周目同様それを止めることもできないのだ。

「もしかして、あんたが言ってる治療法は、ダークマターを浄化する方法のことか?」

 エブリスタ兄弟は、試験管のようなものを取り出した。

 ショウゴは、エウロペやゲルマーニに張られた結界以外は、ピノアやステラらの放つゴールデン・バタフライ・エフェクトしか見たことがなかった。
 だから、試験管のようなものを見せられても、ピンとはこなかった。

「レオナルドが死ぬ前の夜に、俺たちに預けにきた」

「これの中にダークマターを浄化する生き物がいるらしい」

「魔人の目には見えるらしいが、俺たちはただの人間だから見えないけどな」

「何本か預かってるから、一本くらいはそいつに使ってもいいだろ」

 ライトは試験管のようなものに栓をしていたコルクを抜くと、レンジの頭に近づけた。

「すまないな。助かった。たぶん、これで大丈夫なはずだ」

 ショウゴは安心した。

 だが、それが数本しか存在せず、ピノアのような天才がゴールデン・バタフライ・エフェクトを産み出せないとしたら、それは絶望的なことに思えた。

「お前もそいつも、未来から来たって言ってたな?
 こいつが何なのかはわかるか?」

「その前に、お前たちの名前をまだ聞いていない。教えろ」

「俺は大和ショウゴ。こいつは秋月レンジだ。
 俺はよく知らないが、『すべてを喰らう者』ってやつを『ダークマターだけを喰らう者』に人工的に進化させたものだって聞いてる」

「そうか。なら俺たちには無理でも、城の研究所にいる四人の魔人ならどうにかできるかもしれないな」


 ふたりの言葉に、ショウゴは違和感を覚えた。
 彼が知るふたりならピノアのように独自の秘術を生み出すはずだったからだ。

 ピノアがいないからか、とショウゴは思った。
 ライバル、というよりは超えるべき目標が、この2周目の世界の彼らにはいないのだ。

 二大賢者の肩書きを与えられているからには、おそらくはふたりともエウロペの魔法はすべて習得しているだろう。
 だが、それだけで満足してしまっているのだ。


 エブリスタ兄弟が、ショウゴとレンジを出迎えた噴水のある広場は彼らが知る通り円形で城下町の中心にあるようだった。
 放射線状に十二のレンガの通りが伸び、先ほどの商店街や、町人たちの居住区などがあるようだ。
 それは時計の文字盤のようでもあり、東西南北をわかりやすくもしているようだった。

 ふたりが最初にいた商店街のはずれが城下町の一番南だ。
 城は広場をはさんだ反対側、つまりは北へ向かう通りの先にある。


「俺たちの役割は、お前らを国王陛下に謁見させるところまでだ。面倒だがそれも大賢者の仕事のひとつでな」

「この城下町には、リバーステラからの来訪者が結構住んでる。あとは適当にやってくれ」

 エブリスタ兄弟は面倒そうにそう言った。

「俺たちと旅をするんじゃないのか?」

 ショウゴの問いに、

「するわけがないだろ」

「これでも俺たちは忙しいんだよ」

 ふたりはそう答えた。

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