「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第0部「RINNE -友だち削除-」&第0.5部「RINNE 2 "TENSEI" -いじめロールプレイ-」

第21話 ロストナンバーズ・草詰アリス ①

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 篠原蓮生から渡された携帯電話には、いじめロールプレイのアプリの他に「秋月へ」と書かれたテキストファイルがあった。 
 ぼくはそれを開いた。 

「秋月へ 

 君がこのテキストファイルを読んでいるということは、ぼくは君に何の説明もできないまま死んでしまったということだと思う。勝手に死んでしまってすまない」 

 何を謝る必要があるんだ。お前は立派だった。立派な最後だった。 

「電子ドラッグのハッキングは成功した。 
 酩酊・多幸感・幻覚などをもたらすような作用や、視聴覚を麻痺・混乱させるような効果は排除し、身体能力を高めることに特化したものにプログラムを書き換えた。もはや電子ドラッグというより電子ドーピングとでも言うべき代物だ。けれど、名称を変えると君が混乱するといけないから、変わらず電子ドラッグと呼ぶことにする」 

 それは皮肉屋の篠原らしい言い回しだった。 

「君がいじめロールプレイのアプリを立ち上げると、強化された電子ドラッグの影響で君は数時間意識を失うことになると思う。 
 テストをする時間がなくて申し訳ないが、たぶんその間君の意識はいじめロールプレイのアプリの中に入ることになるだろう」 

 ぼくは意識を失い、ぼくの意識はアプリの中に入る? よく意味がわからなかった。それに、数時間意識を失う、それはこのゲームにおいて、致命的なことのように思えた。現にドラッグでトリップ中だった山口は篠原の体を貫通した銃弾の跳弾にあたって死んでいる。 

「このゲームにおいて、数時間意識を失うことは致命的だ」 

 やはり篠原もそのことは気づいていたようだ。 

「けれど、君には信頼できる友達がいる。榊と市川、君が意識を失っている間は、ふたりに守ってもらうといい。もっとも、ふたりとも自分の身を守るので精一杯かもしれないけれど、でもぼくが知る限り、君たちの友情は本物だ。きっとふたりが君を守ってくれるだろう」 

 確かにそれしか方法はなさそうだ。 

「ぼくたちはこのゲームの最初にいじめロールプレイのアプリでガチャを引いた。 
 先生が口にしていたガチャやパッケージガチャという言葉は、携帯電話を持っていない君には馴染みのない言葉だったろうけれど、ガチャゲーやFREEといった携帯電話サイトで遊べるソーシャルゲームでよく使われる言葉だ。 
 たぶん、いじめロールプレイはそのソーシャルゲームを元に作られている。 
 いじめロールプレイのアプリの中に、おそらくこの世界とは別のデジタルな世界が存在すると思われる。その世界はこの世界に限りなくよく似ていて、この学校や君やぼく、他のクラスメイトたちが存在すると思う。 
 電子ドラッグの影響で、そのゲームが現実世界に影響を及ぼし、そのゲームをぼくたちに行わせているのだと思う。 たぶん無駄だと思うが、ぼくが突き止めたいじめの首謀者の名前をここに記しておく。 
 このゲームと、そしていじめの首謀者は、縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶?・だ」 

 肝心の主催者の名前が文字化けしていた。そして篠原はそれを予見していたようだった。それにしても篠原の言っていることの意味がぼくには半分もわからなかった。篠原はもちろんそれも予見していたようだ。 

「と、ここまで書いたが、きっと君はぼくの言っていることの半分も理解できないだろう。 
 百聞は一見に如かずという言葉がある。ぼくの嫌いなことわざだ。 
 いじめロールプレイのアプリを起動すれば、ぼくの言っていることの意味はわかるだろう。 
 君はその世界で、このゲームに勝つ方法を見つけてくれ。 
 ゲームに勝つ方法を見つけ、必ずこの世界に帰ってきてくれ。でなければ、このクラスは全滅する。いまや君の存在だけがこのゲームの鍵だ。 
 そして、意識を取り戻したとき、君は君であって、君でなくなっていると思う。 
 軽い興奮状態になり、好戦的になると予測される。 
 筋肉が大きく膨れ上がり、身体能力は通常の50倍ほどになるだろう。しかしその分、体への負担も大きくなる。 
 どれくらいの時間、その状態を維持できるかはわからない。1分かもしれないし、一時間かもしれない。 
 しかし君はそのとき、神に等しき力を手に入れている。1分もあれば、おそらく十分だろう。 
 君がこのくそったれなゲームを終わらせてくれると信じている。 
                                                                  篠原」 

 ありがとよ、篠原。ぼくは篠原の死体をしばらく見つめ、そして、祐葵と鮎香に言った。 
「今から何時間か、ぼく、意識を失うみたいだからさ、あとのこと頼んでもいいか?」 
 何も知らないふたりは驚いた顔をしていたが、 
「だいじょうぶ、必ず帰ってくるし、このゲームも必ず終わらせるから」 
 とぼくは言った。 
「ぼくが意識を失っている間、ふたりでなんとかして犠牲者をひとりでも少なくしてくれ」 
 戸惑うふたりに詳しく説明している暇はなかった。ぼくは一刻も早く、電子ドラッグの力を手にし、いじめの首謀者の正体を突き止めなければいけない。 
「詳しいことはぼくの携帯に篠原からメッセージが残ってる」 
 ぼくはそう言い、でもぼくの携帯のいじめロールプレイのアプリは見るな、と釘をさした。 
 ぼくはいじめロールプレイのアプリを起動した。 
 その瞬間、ぼくは走馬灯のようなものを見た。 
 それは、宇宙の始まりとされるビッグバンから、地球が、生命が誕生し、現在に至るまでの歴史を早送りにしたような映像だった。 
 ぼくは意識を失った。 



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