「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第三部 異世界転移奇譚 RENJI 3 - PINOA - 】「やったね!魔法少女ピノアちゃん大活躍!!編」

第193話 山汐メイ≠夏目凛

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 山汐メイは、タカミの妹ではない。
 だが、タカミのことをお兄ちゃんと呼ぶ。

 彼女は横浜に暮らしていた頃のミカナの高校一年のときの元クラスメイトで、夏休み前まではちゃんと学校に行っていた。
 しかし、夏休みが明けてから一度も学校に行くことができなくなってしまった。

 両親が他界し、住む家も頼れる親戚もなく、家出少女のような日々を送っていた。
 冬のある日、そんな彼女を偶然見かけたミカナが家に連れ帰ってくれた。

 そのときのメイのことがきっかけで、タカミは引きこもりをやめることができた。

 だが、彼女をなんとかこの家で暮らせるようにしたいと思ったタカミとミカナは、元々彼がひきこもる原因を作った両親と対立し、ますます関係が悪化してしまった。

 だから、ふたりはメイを連れて家を出てくれた。

 それ以来、絶縁状態が今でも続いており、タカミは真依との結婚を報告もしていない。

 真依はふたりの両親に会ったことも電話で話したりメールや手紙のやりとりもしたことがなかった。

 タカミもミカナもそれについては一切後悔していなかった。
 メイのことを、血の繋がりはなくても本当の兄妹や家族だと思ってくれていた。
それは真依も同じだった。


 メイは今、彼女の兄弟のような人達と幸せに暮らしているが、その人達は真依の幼馴染みの寝入のように、本来はすでに存在しないはずの人達であり、タカミがメイのために肉体を作り、魂を定着させた人達であった。


 メイの本名は、山汐メイではなく、夏目凛(なつめ りん)という。
山汐は母親の旧姓だった。

 両親は別居していたが、離婚はしておらず、12年前にふたりとも他界してしまっていたから、戸籍上は夏目凛のままだった。

 メイは、凛が産み出したいくつかの別人格のひとつだった。

 だから、ミカナのクラスメイトだったのは、メイではなく凛だった。


 夏目凛が生まれた家は、夏目組という暴力団の家で、凛には5つ年上の兄・紡(つむぎ)がいた。

 凛の五歳の誕生日を迎えた日、紡はまるで自分のことのように喜び、はしゃぎ、誕生日パーティーの途中、組長である祖父が大切にしていた数千万円もする花瓶を割ってしまった。

 普段は凛にも紡にも優しかった祖父であったが、突然激昂し壁に飾っていた日本刀で、凛の目の前で紡を惨殺した。

 幼い凛は、祖父と兄の行きすぎた余興だと考えた。
 祖父が切ったのは兄によく似た人形か何かで、兄はどこかに隠れているのだと。

 だが、そうではなかった。

 しかし、祖父は孫の死体の遺棄を組員に命じ、その殺人は事件にすらならず、無論葬式も行われなかったし、五歳の凛は死というものがまだ理解できてはいなかった。

 大好きな兄は、いくら呼んでも隠れたまま何日も出てきてくれなかった。
 きっと出てきたくても出てこられない場所に行ってしまったのだと思った。

 ある日、気づいたら頭の中に兄がいた。

 凛はそうやって、死んだ兄を別人格として産み出した。


 母は凛の妹を妊娠しており、芽衣(めい)という名前も決まっていたが、紡を目の前で殺されてしまったショックから流産してしまっていた。

 凛は、母に連れられて夏目の家を出た。

 母から毎日のように、もうすぐ凛もお姉ちゃんになるのよ、と聞かされていた。

 けれど、どれだけ待っても、妹は生まれてこなかった。

 一度だけ母に訊くと怒鳴り散らされたから、訊くのはやめた。

 妹も兄のように、どこかに隠れてしまって、出てきたくても出てこれなくなってしまったのだと思った。


 そうして、凛の中にメイが生まれた。


 凛はその後も様々な人格を産み出し続けた。


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