ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

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第5章 第2話

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「あのよくわからない映像がどうかしたの?」

 アナスタシアの言葉に、

「やはり、よく理解してらっしゃらなかったのですね」

 アンナは呆れた様子だった。

 彼女からあの映像や4年前の出来事についての説明を簡単に受けたアナスタシアは、

「まぁ!まぁ!!まぁ!!!まぁ!!!!」

 と、感嘆の声を漏らした。

 どうやらふたりは本当に良い家柄の人達のようだ。
 テレビやスマホなどを電力なしで一斉に起動させたエーテルの存在を知り、同じ県内の神喰村にある実家が所有するヘリコプターの迎えを近くの公園で待つつもりだということだった。
 空に逃げ、空に留まり続けることで、アリステラが起こす災厄から逃れようと考えているようだった。


 エレベーターが1階に着いたとき、

「世界を敵にまわしてでも愛する女性を守ろうとしただなんて、なんて素敵なお話ですの!!」

 開くドアを前にアナスタシアは大きな瞳に涙をためて、ショウゴの手を取った。

「あの、着きました、よ? アナ……アナスタシア……さん?」

「アンナ! わたくし、こんな殿方とお付き合いしたいですわ!!」

「アナスタシア様、エレベーターが到着しましたよ」

「あ、あら、そう……残念ね」

 アンナは一度開いたドアが閉じてしまわないように、開こうとするドアにもたれかかり、腕を組んでいた。怒っているように見えた。

「そ、それじゃあ、アナスタシアさん、アンナさん、失礼しますね」

 ショウゴはいそいそとその場をあとにしようとした。同じマンションの階下の住人とはいえ、あまり関わってはいけない気がした。一言で言えば、変な人だった。
 だが彼はその腕を、

「大和ショウゴさん」

 再びアンナに名前を呼ばれ捕まれてしまった。

「どちらに行かれるおつもりか存じませんが、あなたを行かせるつもりは私はありません」

 彼女は彼の腕に爪が食い込むほど強く掴んでいた。

「どうして? アンナ? どうして?
 ショウゴさんはそのユワさんという方に瓜二つの女性の元へ向かうに違いありませんわ!
 急いでらっしゃるのよ!! その手を離しなさい!!!」

 アンナはアナスタシアに「できません」ときっぱりと断った。

「わたしの言うことが聞けないの!?」

「聞けません」

 そして、「大和ショウゴさん」と三度、彼の名を呼んだ。

「あなたは、千のコスモの会をご存知ですね?」

 それは、13年前に首相暗殺を企て、一条とタカミがそれを阻止したカルト教団の名前だったはずだ。
 つい先ほど、その当時の首相が一体どんな人物であったのか、ショウゴとタカミは一条から聞かされたばかりだった。
 随分タイムリーな話題だなと思った。

「ちょっと! アンナ!!
 せっかくこんな素敵な殿方とお知り合いになれたのに、あなた一体何を言うつもり!?」

「こちらのお方は、戸籍上のご本名は朝倉麗音様。麗しい音と書いてレイン様とお読みします」

 麗しい音、レイン、一年中雨が降り続けるこの街に、なんて相応しい名前だろうか。
 だが、その苗字と名前にショウゴは聞き覚えがあった。つい先ほど聞いたばかりのような気さえした。

「アナスタシア様というお名前は、この世界を創造した劣悪で傲慢な神とは異なり、正しき千の宇宙(コスモ)を創造された善なる至高神(アイコーン)の化身であるレイン様のお父上、朝倉現人(あさくら あらひと)様から頂かれたコスモネーム」

 やはりそうか、とショウゴは思った。

「あぁ、なんてこと! ひどいわ、アンナ!! ひどい! ひどい! ひどいひどい!!」

 悲痛な声を上げて泣くアナスタシア=朝倉レインは、千のコスモの会の教祖にして、当時の首相暗殺を指示した死刑囚、朝倉現人の四女だった。

「それが、俺と何か関係があるんですか?」

 ショウゴが平静を装おい答えると、レインの顔がぱぁっと開けた。

 彼がそうしたのは、千のコスモの会についてもまた、小久保ハルミや千年細胞についてと同じで、首相暗殺テロ未遂事件が起きた当時、彼はまだ幼く、よくは知らなかったからだ。
 それに、彼と共に暮らすタカミが、一条と共に千のコスモの会による首相暗殺テロを未然に防いだことを知っているのは警察でもごく一部の人間だけだと聞いていたからだった。

 だが、レインの表情を見る限り、彼女は何か勘違いをしてい……

「わたくしが、あの父の娘と知っても尚、変わらずわたくしに接してくださるなんて……」

 やはり勘違いしていた。
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