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第10章 第8話
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小久保ハルミの体中の穴という穴から、血液や体液が噴水のように噴き出すのタカミを見た。
それは、4年以上前から新生アリステラが世界中に蔓延させ、パンデミックを引き起こしていた疫病と同じ症状だった。
「カーズ」という、呪いを意味する言葉を冠したウィルスを、ハルミは自らの体に注射したのだ。
だが、カーズウィルスの潜伏期間は1~2週間あるはずだ。
こんな一瞬とも言えるような時間で発症する疫病ではなかった。
「千年細胞さえも破壊する、わたし特製のウィルスよ……
遣田くん……あなたはここで……わたしとソウジといっしょに死ぬの……」
血しぶきを撒き散らしながら、
「タカミくん、アナスタシアさん、あなたたちまで巻き込んでしまうことをどうか許して……
タカミくん……最期にあなたに会えて嬉しかったわ……」
ハルミは最期にそう言い、
「わたしは結局、人類や世界を救うどころか、ソウジにも一条くんにもタカミくんにも何にもしてあげられなかったわね……」
その場で絶命した。
目の前で妹を失い、義弟だと思っていたショウゴを失い、初恋の相手もまたそんな風に人の死に方とは到底思えない死に方をするのを、タカミは呆然と見ていることしか出来なかった。
ハルミの最期の言葉に返事をしてやることさえも。
その隣でレインはいつの間にか片手でドーム状のバリアのようなものをタカミと彼女のまわりに張ってくれていた。
ハルミの体中の穴という穴から噴き出した血液や体液はすべて、そのバリアの表面でジュッという音を立てて燃え尽きていた。
彼女がバリアを張ってくれるのがコンマ数秒遅かったなら、ふたりともカーズウィルスに感染し、その直後にハルミと同じ死に方をしていただろう。
だが、レインのバリアの外にいた、ソウジという少年の体を乗っ取った遣田は、感染から逃れることはできなかった。
よく見れば一条とハルミの面影のある、少年にも少女にも見える中性的なきれいな顔から、遣田は鼻血を噴き出しながら、
「新生アリステラが世界中に蔓延させた『カーズウィルス』を、千年細胞と掛け合わせることによって、潜伏期間ゼロで発症に至るまで進化させたわけですか……
あなたの研究が闇に葬られた14年前、自らその体に投与し、この少年の身体に先天的に受け継がれていた千年細胞ですら、再生が追い付かないほどのウィルスをいつの間にか作り出していたんですね……
やはり、あなたはレオナルド・ダ・ヴィンチやアルベルト・アインシュタイン、スティーヴン・ホーキングさえも超えるホモサピエンスの歴史上最も優れた頭脳の持ち主だ……
私の妃となる女性は、あなたこそふさわしい……」
待っているのは死だけだというのに、遣田はまだ王や神になる夢を見ていた。
精神が錯乱してしまったのか、それとも何か打つ手があるのか、その表情からは窺い知ることはできなかった。
鼻に続き、目、耳といった順番に少年の体から血が噴き出す。
「とうとう私は、千里眼であなたがそんなものを準備していることを見ることも、自分の死さえ予知できなくなっていたというわけですね……
オリジナルの私、英雄アンフィスの弟子であり13賢者のひとりであったヤルダバオトなら、こんなことにはならなかったというのに……」
ヤルダバオト、それが彼の本名だったのだろう。
遣田ハオトという名は、濁音を取り漢字を当てただけの単純なものだったのだ。
最後には身体中の汗腺すべてから血液と体液を噴き出した。
「10万年もの間、他者に憑依を繰り返し、常にコピーを作り続けてきた結果がこれというわけですか……
私の能力や人格、知識や記憶、経験が細胞分裂のように劣化していくことを、私には止められなかった……
それが私の、ヤルダバオトではなく遣田ハオトというコピーの限界……敗因ですね……
あなた方に愚者と呼ばれても仕方がありません……」
それでもまだ、遣田は凄まじい生命力で、いや精神力だろうか、生きようとしていた。死を拒み続けていた。
「最期に聞かせてくれ。あんたが王や神になろうとしたのはいつからだ? アトランティスやムーやレムリアを滅ぼした頃か?」
「いえ、それよりもはるかずっと前……
アリステラの英雄アンフィスと13賢者のうちの9人を、同志であった3人の賢者と共に暗殺したときから……
まだ私が遣田ハオトなどという模造品ではなく、オリジナルであったヤルダバオトの頃から……」
「あんたは10万年前のそのヤルダバオトさんって人だった頃にはもう、こういう最期を迎えることになることがわかっていたんじゃないのか?」
「そうかもしれません……
だからこそ、私のオリジナルや数えきれないほどのコピーたちは、こんな最期を迎えることを変えたかったのかもしれませんね……」
私のオリジナルであるヤルダバオトが何を考えていたのかすら、私にはとうにわからなくなっていたのです、最期にそう言い残すと遣田はソウジという少年の体と共に今度こそ完全な死を迎えた。
それは、4年以上前から新生アリステラが世界中に蔓延させ、パンデミックを引き起こしていた疫病と同じ症状だった。
「カーズ」という、呪いを意味する言葉を冠したウィルスを、ハルミは自らの体に注射したのだ。
だが、カーズウィルスの潜伏期間は1~2週間あるはずだ。
こんな一瞬とも言えるような時間で発症する疫病ではなかった。
「千年細胞さえも破壊する、わたし特製のウィルスよ……
遣田くん……あなたはここで……わたしとソウジといっしょに死ぬの……」
血しぶきを撒き散らしながら、
「タカミくん、アナスタシアさん、あなたたちまで巻き込んでしまうことをどうか許して……
タカミくん……最期にあなたに会えて嬉しかったわ……」
ハルミは最期にそう言い、
「わたしは結局、人類や世界を救うどころか、ソウジにも一条くんにもタカミくんにも何にもしてあげられなかったわね……」
その場で絶命した。
目の前で妹を失い、義弟だと思っていたショウゴを失い、初恋の相手もまたそんな風に人の死に方とは到底思えない死に方をするのを、タカミは呆然と見ていることしか出来なかった。
ハルミの最期の言葉に返事をしてやることさえも。
その隣でレインはいつの間にか片手でドーム状のバリアのようなものをタカミと彼女のまわりに張ってくれていた。
ハルミの体中の穴という穴から噴き出した血液や体液はすべて、そのバリアの表面でジュッという音を立てて燃え尽きていた。
彼女がバリアを張ってくれるのがコンマ数秒遅かったなら、ふたりともカーズウィルスに感染し、その直後にハルミと同じ死に方をしていただろう。
だが、レインのバリアの外にいた、ソウジという少年の体を乗っ取った遣田は、感染から逃れることはできなかった。
よく見れば一条とハルミの面影のある、少年にも少女にも見える中性的なきれいな顔から、遣田は鼻血を噴き出しながら、
「新生アリステラが世界中に蔓延させた『カーズウィルス』を、千年細胞と掛け合わせることによって、潜伏期間ゼロで発症に至るまで進化させたわけですか……
あなたの研究が闇に葬られた14年前、自らその体に投与し、この少年の身体に先天的に受け継がれていた千年細胞ですら、再生が追い付かないほどのウィルスをいつの間にか作り出していたんですね……
やはり、あなたはレオナルド・ダ・ヴィンチやアルベルト・アインシュタイン、スティーヴン・ホーキングさえも超えるホモサピエンスの歴史上最も優れた頭脳の持ち主だ……
私の妃となる女性は、あなたこそふさわしい……」
待っているのは死だけだというのに、遣田はまだ王や神になる夢を見ていた。
精神が錯乱してしまったのか、それとも何か打つ手があるのか、その表情からは窺い知ることはできなかった。
鼻に続き、目、耳といった順番に少年の体から血が噴き出す。
「とうとう私は、千里眼であなたがそんなものを準備していることを見ることも、自分の死さえ予知できなくなっていたというわけですね……
オリジナルの私、英雄アンフィスの弟子であり13賢者のひとりであったヤルダバオトなら、こんなことにはならなかったというのに……」
ヤルダバオト、それが彼の本名だったのだろう。
遣田ハオトという名は、濁音を取り漢字を当てただけの単純なものだったのだ。
最後には身体中の汗腺すべてから血液と体液を噴き出した。
「10万年もの間、他者に憑依を繰り返し、常にコピーを作り続けてきた結果がこれというわけですか……
私の能力や人格、知識や記憶、経験が細胞分裂のように劣化していくことを、私には止められなかった……
それが私の、ヤルダバオトではなく遣田ハオトというコピーの限界……敗因ですね……
あなた方に愚者と呼ばれても仕方がありません……」
それでもまだ、遣田は凄まじい生命力で、いや精神力だろうか、生きようとしていた。死を拒み続けていた。
「最期に聞かせてくれ。あんたが王や神になろうとしたのはいつからだ? アトランティスやムーやレムリアを滅ぼした頃か?」
「いえ、それよりもはるかずっと前……
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まだ私が遣田ハオトなどという模造品ではなく、オリジナルであったヤルダバオトの頃から……」
「あんたは10万年前のそのヤルダバオトさんって人だった頃にはもう、こういう最期を迎えることになることがわかっていたんじゃないのか?」
「そうかもしれません……
だからこそ、私のオリジナルや数えきれないほどのコピーたちは、こんな最期を迎えることを変えたかったのかもしれませんね……」
私のオリジナルであるヤルダバオトが何を考えていたのかすら、私にはとうにわからなくなっていたのです、最期にそう言い残すと遣田はソウジという少年の体と共に今度こそ完全な死を迎えた。
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