恋の闇路の向こう側

七賀ごふん

文字の大きさ
17 / 28
だんらん

#7

しおりを挟む


月仁の両の頬を手ではさみ、上向かせる。
彼はきょとんとしていたけど、すぐに吹き出した。

「サンキュー。……お前って時々男らしいっていうか、……熱いよな」
「え? ……あ、いや……」

指摘されて、慌てて手を引っ込める。
確かに、今の宣言はやばかったかも。

気持ち悪がられたらどうしよう……。
ビクビクしながら座り直すと、月仁は自身の目元を擦り、俺の口にクッキーを差し出した。

「そういうところも大好きだ」
「……っ!!」

見惚れそうな、優しい笑顔。
思わず口を開いたら、クッキーを詰め込まれてしまった。

ひとまず食べたけど、尋常じゃなく喉が渇く。

これ、俺がおかしい……わけじゃない、よな?

俺も大概だけど、月仁の台詞も中々際どい気がする。
実際どんなに好きな幼馴染でも、男に対して「好き」とか言わないような。

でも彼はどこまでも純粋で良い奴だから、彼にとっては普通なのかもしれないし。はああ。

幼馴染という繋がりは心強いけど、時々もどかしくもなる。
俺が何を言っても、彼が何を言っても、深い意味はないとされてしまいそうで。

「……俺も、月仁の強いところが好きだよ」
「そう?」
「うん。あ、でも無理はしないでほしい。……俺の前では弱いところも見せてほしい……みたいな」

しどろもどろになってしまったが、言いたいことは伝わったみたいだ。月仁は頷き、俺に笑いかけた。

「わかった。じゃあそれも、互いに約束しよう。絶対無理はしない、って」
「……うん」

小指に触れる。くすぐったて、でも胸の中がじんわりする。

俺も月仁も、クラスメイトの前では見せない姿がある。それがまさに“今”なんだ。

いつか、誰かの前でも素の自分に戻れるだろうか。

気を抜いたら抱き締めそうなほど大切な彼を一瞥し、想像した。すると突然扉が開き、ひとりの青年が現れた。

「ただいま。……って、あれ。友達?」
「兄貴。早いじゃん。おかえり」
「兄……っ!?」

心の準備ができてないせいで、声が裏返ってしまった。

月仁のお兄さん……! 
久しぶり過ぎて動揺したけど、すぐに立ち上がってお辞儀する。
「川音です。お邪魔してすみません!」
「いえいえ、どうぞごゆっくり。ん……川音さん?」
「兄貴、島根にいた時の俺の幼馴染。昔家の隣にあった小料理屋の子だよ」
覚えてない? と月仁が言うと、彼は驚いた顔で手を叩いた。

「あぁ! 梢さんところの……じゃあ深白君か。久しぶり! 大きくなったね」
「お、お久しぶりです。覚えてくださってたんですか?」
「当然。昔はよくご飯食べに行ってたし、月仁と仲良くしてくれてたからね」

月仁の兄、時晴さんはスーツのジャケットを脱ぎ、懐かしそうに笑った。
梢は島根で開いていた時のお店の名前だ。そこまで覚えてくれていたことに嬉しくなる。

「父親の赴任で月仁は急に俺の所に来ることになったんだけど……深白君に会えて良かったな」

時晴さんがにこやかに話し掛けると、月仁は黙って頷いた。
「それより、今日の夜飯どうする」
「ん? あぁ、どうしよっか。俺も何も買ってないし……深白君がいるからデリバリーでも頼むか」
「え!? いやいや、俺は帰るから大丈夫ですよ!」
兄弟水入らずのところに居座ったら申し訳ない。
鞄を取って玄関へ向かおうとしたが、月仁に阻まれてしまった。腕を引かれ、さらに奥のソファに座らされてしまう。

「深白君、ピザ好き?」
「あ……好きですけど、ほんに大丈」
「おっけ! じゃあ頼んじゃうね~」

時晴さんはぱっぱとネットで注文し、俺はその間月仁に口を塞がれていた。何が何でも帰さないという気迫を感じて若干怖かった。

一時間後。

「お待たせ~。さっ食べよ!」
「わぁ……美味しそう……」

無事に届いたピザをテーブルに広げ、時晴さんは俺を椅子に誘導した。
「たまにこういうの食べたくなるんだよな~。深白君もほら、サラダもあるから食べて」
「あの、本当に良いんですか?」
「遠慮しないで! それに聞いたけど、前に月仁にご飯作ってくれたんだって? ありがとね」
時晴さんはお茶を入れ、手渡してくれた。
「とんでもない。こちらこそありがとうございます……!」
月仁はお兄さんと普段から色々話してるみたいだ。それが分かって安心した。

「俺は料理上手くないから、本当に適当なものですよ。なので良かったら、今度はお店に食べに来てください。親も喜びます」
「え、ほんと? 絶対行くよ!」

時晴さんは月仁と歳が離れていて、今は二十五歳。兄というより保護者のような安心感があった。
久しぶりに会えただけで嬉しかったのに、夜ご飯までご馳走になった。美味しいのはもちろん、とても心地良い時間と空間だった。

「でも深白君、本当に大人になったね~。まぁ月仁もだけど……何かそれだけ自分が歳とったんだなって思って悲しいよ」
「兄貴だってまだ若いだろ」
「若いったって十代の輝きは取り戻せないんだよ。だから二人とも、後悔しないように言いたいことややりたいことはちゃんとやるんだぞ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

恋は、遠い背中から始まった

葉空
BL
中学1年の体育祭。清水結斗は、走高跳で宙を舞う紫川斗葵の跳躍に心を奪われ、その美しさを忘れられずにいた。 高校で再び同じ学校に通うことになっても、陸上部のエースとして輝く斗葵と、帰宅部で学年も違う結斗に接点はない。 だが、陸上部である幼馴染の光希と友人の春利の縁で言葉を交わしたことで、2人の距離は静かに近づいていく。 他サイトでも公開しています

夜が明けなければいいのに(和風)

万里
BL
時は泰平の世。華やかな御所の奥で、第三皇子・透月は政の渦に巻き込まれていた。隣国――かつて刃を交えた国との和睦の証として、姫のもとへ婿入りすることが決まったのだ。 表向きは「良縁」と囁かれ、朝廷は祝賀の空気に包まれる。しかし、透月の胸中は穏やかではない。鋭い眼差しと冷ややかな物腰で「冷徹の皇子」と噂される彼だが、その実、心は誰よりも臆病で、幼い頃から傍に仕えてきた従者・玄にだけは甘えたいという弱さを抱えていた。 だが、その弱さを悟られるのが怖い。 透月は苛立ちを隠すように、玄へ無茶な命を次々と下す。 「お前の顔など見たくない」 突き放すような言葉を投げつけても、玄はただ静かに頭を垂れ、淡々と従うだけ。 その背が遠ざかっていく瞬間、透月は思わず目を伏せる。 婿入りが迫る中、二人の距離は近いようでいて、決して触れられない。 なんか昔こんなのあったよなあと思いつつ、私が読みたいから書く…! そして、和風と洋風も書いてみます。どっちバージョンもいいなあと思いまして。

処理中です...