拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ

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13.伝説の端の端にて

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台座はここから5歩ほど先、高さは身長分くらいある。

そろそろ精霊たちが動き出して辺りに光が舞い始めたので、兵士たちが俺を引き下げようと腕を掴んできた。何か言っているようだが無視する。
ここを動くつもりはないのだ。

「ハル!俺、謝らなきゃいけない、あのときのこと!」

ハルはハッとして俺を見つめた。
そういえば忘れて、とか言われてたっけ。
いや忘れられるか。

「俺は、…!お前を振りたかったわけじゃない!あれ、嫌じゃなかったんだ…その、だからさ…!!」


兵士たちに必死に抵抗しながら、魔法に掻き消されぬようこれでもかと大声を出す。

目頭が熱い。心臓が煩い。
こんな別れ際になって、俺はようやく、見て見ぬふりしてた気持ちを口にする。



「…俺も、…俺も好き…!!」


兵士たちは俺の言葉に呆気に取られて、手を離した。

台座は既に舞台のように眩しく輝いていて、目を開けるのもやっとだった。

けどしっかり、ハルの口が俺の名前を呼んだのを見た。


呼ばれるだけでこんなに嬉しい日が来るとは思わなかった。
ちゃんと届いてる。
そう思うと、涙と、考えていなかった続きの言葉がポロポロと溢れてきた。

「なんでっ、…なんで何も言わないで行っちゃうんだよ…!っ、…行くなよ…、行かないでくれよ…
お前が居なきゃ、生きてけない…!!」


祈りの魔法はもう終わっていた。
森はあのとき――召喚したときのような眩しさに包まれて、後ろの人々は息を呑んだ。



国を救った英雄は、人々に見守られながら、元の世界へと旅立った。

この話はきっとこれから何百年と語り継がれ、伝説となるのだろう。
その伝説の端の端、誰も語り継ぐはずのない所で俺たちは出会って、一緒に暮らして、恋をした。


そう、感嘆していたのだが。




ぎゅうう、と強めに体を抱き締められるような感覚に目を開いた。
オレンジ色の空が見える。どうやら仰向けに倒れているようだ。

視線を落とす。
俺よりも一回りほど大きい長身の男が、俺に覆いかぶさるように俺を抱き締めている。

俺の気が狂っていて、幻覚を見ているのではないのなら、コイツはここに居るはずのない男だ。

「ハ、ル…?」
「…ソラさん」

名前を呼んで、俺の肩に乗った頭を触ってみる。
黒い髪がサラサラと指の間を通った。

めちゃくちゃ都合のいい夢かもしれない。にしては重みも匂いもあって痛いほどにリアルだ。

幻覚男はより力を強めた。そして顔を上げ、俺の目を見て言う。


「…遅いんですよ、もう」

その黒い目から涙が落ちて、見慣れたあの笑顔を見せた。
それがあまりにも綺麗で、見惚れると同時に、とうとうおかしくなってしまったと実感した。
こんなのこの世の物じゃないだろ。

「…なんで幽霊見るみたいな目してるんですか」
「え、と…」
「僕が居なきゃ生きてけないんですよね」
「あ…」

幻覚男は俺の顔に手を添え、その美しい顔を近づけた。

そして次の瞬間、あろうことか唇を重ねてきた。
未だに手のひらに残るあの熱と同じか、それ以上の感覚が直に伝わる。



………これ幻覚じゃないな!?!?!?!?

そう気づいた瞬間、周りの人々のざわめきや兵士たちの困惑する声が聞こえてきて、キスどころではなくなった。
長い。しつこい。耐えられない。

「っは、ぁ、しつこい…!」
「ふふ」

多分顔から火ぃ出てる。意味が分からん。
離れようと肩を押したが、力負けして余計にきつく抱き締められるだけだった。

「お前、どういうつもりで…!」
「あなたが呼んだから」
「そりゃ…呼んだけど…」

「僕ホントは止めて欲しかったんだと思います。自分じゃもう止まれそうになかったから。嬉しかった」

コイツ俺が行くなって言ったから、あの状況で台座から飛び降りてきたのか…!? 

混乱の間に、今度はちゅ、と指先にキスされる。小っ恥ずかしい。



「あの、お取り込み中申し訳ないのですが」

「あ」「あ」

完全に二人の世界だったが、うんざりとした口調で声をかけてきたその人に、そろって視線を向ける。

「~~~じれっっっっったいんですよ貴方たち!!!!!」

アダムの杖を本当の杖代わりにして、肩で息をするシェネリ様。
無事召喚を終えお疲れのご様子だが、俺たちを指差して震えている。

「あ~~スッキリした。長い長い。回りくどいったらありゃしない。見守る身にもなってください」
「す、すみません…?」

「まぁお話は今度聞くとして。お幸せに。邪魔者は退散致しますわ。さぁ行きますよ、皆様」

その一言で周りの兵士たちは一斉に退散した。
お陰で光の樹は急にシンと静まり返って、俺とハルの二人だけになった。

「僕シェネリ様に何度かアドバイスもらってたんですよね」
「え、俺も」

「…」
「…」

「今度謝りに行きましょうか」
「そうしよう」

「あと、」

ハルは俺から降りて、姿勢を正した。俺も上体を起こす。

「改めて、ソラさんにも謝らせてください。
本当に、酷いことをしました。ごめんなさい」

「いや、あのときは俺が悪かったし…俺の方こそごめん。
もっと余裕あったらちゃんと返事できたんだけどな」

「段階を踏んで告白してたら即OK貰えてたってことですか」

「う、うん、多分」

「…はぁ、ほんとにやらかした…」

「まぁ、もう過ぎたことだし。必要な時間だったと思うよ俺は」

「…そういうところが好きです」

「…ん」

そう率直に言われると、何も言えなくなる。
言葉に詰まる俺を見ると、ハルは嬉しそうにそこに付け入った。

「じゃああの、もっかい言ってください。さっきのやつ。好き!の後」

「い、言わねぇからな!」

「お前が居なきゃ、なんでしたっけ?」

「あーあー聞こえない」

「えー」

恥ずかしくなり、途中で立ち上がって小屋へと歩き始めた。
後ろから付いてくる不満そうな返事は、どこか満足そうだ。
かくいう俺も、またハルとこうしていられることに、自然と心が沸き立っていた。



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(お読み頂きありがとうございます!
次回本編最終回の予定です!)

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