断罪されるはずの推し(悪役令息)を、俺が全力で幸せにしてみせます

月乃

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特訓の日々

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教会での適性属性検査から数日が経った。
俺、キート・ルベルは、魔術学園への入学を控えたこの時期、母と父からそれぞれの特訓を受ける日々を過ごしている。



「キート、いいわね。魔力は、体の奥底にある生命の力そのものよ。それをイメージして、指先から放出するの」



母のスパルタ特訓は、予想を遥かに超えるものだった。ルベル家代々の剣士である俺は、これまで力と速度こそが全てだと教わってきた。しかし、母は魔術を使う前に、まず瞑想しろと言った。


「ダメよ、もっと静かに。雑念を捨てて、あなたの中の魔力の流れを感じなさい」

 

母の声は厳しいが、その瞳はいつも優しかった。
 氷属性の魔術師である母は、水の入ったコップを凍らせたり、空中に氷の刃を出現させたりと、自分にとって空想でしかなかったいかにも魔法使いのような技を見せてくれた。
 俺は言われた通り、目を閉じ、自分の内側に意識を集中させる。最初は、何も感じなかった。ただ、体が痺れるような感覚と、眠気に襲われるだけだった。
 それでも、母は諦めず、毎日毎日、俺に付き合ってくれた。
そして、一週間が経った頃、ようやく俺の指先から、ほんの小さな火花が散った。



「やったわ!キート!」



母が、まるで自分のことのように喜んでくれた。
そこからは早かった。小さな火の玉を掌に灯し、それを大きくする練習。火の玉を空中に飛ばし、的を射る練習。そして、氷の刃を操る母と、火の玉を操る俺で、模擬戦をするまでになった。



「ふふ、キート。あなたの火の魔術、なかなかやるじゃない」

「母さんの氷の魔術にはまだまだ及びませんよ」



母との特訓は厳しかったが、同時に、とっても楽しかった。
母の特訓を終えると、次は父の出番だ。



「ハハッ!キート、よくやったな!母上から魔術の基礎を学んだなら、次はルベル家伝来の剣技と組み合わせる方法を教えてやろう」



父は、鍛冶場で鍛えられた頑強な体に、火属性の魔力を纏わせる。剣が真っ赤に燃え上がり、その威力は俺の想像を遥かに超えていた。   



「キート、剣術と魔術の組み合わせの習得は大変かもしれん。これができるのはこの国でも僅かではある。なぜなら技自体の難しさもあるがそれほどの魔力を備えるものが少ないからだ。だが、お前ならできる。その炎を剣に宿せば、最強の剣士になれる」

「はい、頑張ります!よろしくお願いします!」

 父に教わったのは、剣を振るう瞬間に、体中の魔力を剣先に集中させ、炎を噴出させる技術だった。
 最初は、魔力の制御が難しく、剣先から炎が飛び出すタイミングがずれたり、火力が安定しなかったりした。 



「キート、大丈夫だ。お前ならできる。お前はルベル家の誇りだ」



 父の言葉に励まされ、俺は来る日も来る日も、炎を纏う剣の練習を続けた。
そして、魔術学園への入学式が間近に迫った頃、俺は剣を振るうと同時に、剣身全体を燃え上がらせることができるようになった。
 母と父の特訓は、俺が持つ火属性の力を最大限に引き出してくれた。だが、もう一つの属性──光属性は、誰からも教わることができない。



 神官から受け取った光属性の魔術文献を広げ、俺は深く息を吐いた。

(ゲームで見た、光属性の魔術の習得方法……)

 前世の記憶を頼りに、文献に書かれた呪文を頭の中でなぞる。ゲームでは、選択肢を選んでミニゲームをクリアしていくだけで簡単に習得できた魔術だ。
 しかし、現実はそう甘くなかった。



「光よ、我に力を……」



 俺は呪文を唱え、魔力を意識した。だが、何も起こらなかった。
 何日も何日も、俺は呪文を唱え、魔力を意識した。文献に書かれた内容も、ゲームで見た情報も、頭の中には完璧に入っている。それなのに、掌には何も生まれない。
 焦りが募る…このままでは、推しを救うどころか、光の力を使うことすらできない。



「くそっ……!」



思わず声を上げて、書物を床に叩きつけた。

(ゲームの世界と、現実は違うんだ…!)

その瞬間、俺の脳裏に、ゲームで見た推しの絶望に満ちた瞳が蘇った。闇属性のせいで誰からも理解されず、孤独に耐える彼の姿。



「……いや、ダメだ。こんなところで、諦めている場合じゃない」



俺は床に落ちた書物を拾い上げ、埃を払い、もう一度広げた。
俺は、この力を得るために、必死に魔術の勉強をした。そして、この力は、推しを救うために授かったもののはずだ。
ーーそうだ、俺は推しを救うために、この光の力を手に入れるんだ。
そう強く心に誓うと、俺は再び目を閉じ、呪文を唱えた。すると、何かが弾けるような感覚とともに、俺の掌から、暖かな光が溢れ出した。
その光は、徐々に形を変え、小さな光の玉となった。成功だ。俺は、光の魔術を、自力で習得したのだ。
その後も、俺は文献を読み込み、光の癒やしの魔術や、光の壁を生み出す魔術など、様々な魔術を習得していった。




 ある日、父の剣術特訓に付き添っていると、ルベル家騎士団の騎士の一人が、訓練中に剣先を掠め、腕から血を流していた。

「どうした、大丈夫か?」

「くそっ……!申し訳ありません、ルベル様」



騎士が血を拭いながら、悔しそうに頭を下げる。



「おい、大丈夫か?医務室へ行ってこい」

「はい、申し訳ございません!」

騎士が医務室へ向かおうとしているのを留める。
まだ、不完全かもだが試させて欲しかった。自分の身体では光魔術を試したが、他の人間には使ったことはなかったからだ。


「父上、よろしければ、俺に任せていただけませんか?」



俺の言葉に、父と騎士が驚いた顔で俺を見た。
俺は騎士の前にひざまずくと、光の癒やしの魔術を唱えた。



「光よ、この傷を癒やし、癒しの恩恵を……」



俺の掌から、柔らかな金色の光が溢れ出す。その光が、騎士の傷口を優しく包み込んだ。
すると、どうだろう。深い傷だったはずなのに、みるみるうちに傷口が塞がり、血が止まっていく。そして、跡形もなく、傷が消えてしまった。



「なっ……!治っている……!?」



騎士が自分の腕を見て、信じられないといった表情をしていた。



「キート様……これは、光属性の魔術……ですか?光属性の魔術は、適正者も滅多に現れず習得も大変だと聞いていたのですが……」



騎士の言葉に、周囲の騎士たちもざわつき始める。



「ああ。流石だ、キート。キートはこの前の適正属性検査で光と火が適正であると明らかになった。まさか、もう習得しているとは思わなかったがな」



父が、誇らしげに胸を張って言った。



「それにしても、見事な魔術だ。まだ魔術学園にも入学していないというのに、もうここまで使いこなしているとはな!」



父の言葉に、騎士たちが感嘆の声を上げた。



「さすがはルベル様のご子息だ……!」

「光属性の魔術を、この目で見ることができるとは……!」



 俺は、騎士たちの驚きと尊敬の入り混じった視線を受けながら、静かに立ち上がった。
この力が、推しを救うための力だと、改めて実感した。

「おい、お前ら!光属性を使って貰いたいからとわざと怪我するなよ!」

「「「はい、勿論です!」」」



父上からの言葉で騎士たちが特訓を再開した。


「父上そろそろ明日の入学式に備えて準備をしておきます」

「ああ、分かった。今日の晩は入学式前のご馳走だからな、それに間に合うように準備しとけよ」

「はい、楽しみにしてます!」



いよいよ、魔術学園への入学式の日がやってくる。
鏡に映る俺の瞳は、燃えるようなルベル家の赤色と、光を宿した金色に輝いていた。
俺は、剣と火、そして光の力を手に、推しを救うため、魔術学園へと向かう。
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