断罪されるはずの推し(悪役令息)を、俺が全力で幸せにしてみせます

月乃

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蠢く陰謀と、決戦の布陣

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 俺たちは、部屋のテーブルを囲み、今回の魔術試合で得た情報を整理し始めた。殿下は王城に報告に行っているため、まだ帰ってきていない。

 喉元にはまだ勝利の余韻が残っていて、笑い声が絶えない。



「三回戦のフィル、本当にやばかったよな」



俺がからかうと、フィルは顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。



「だって…炎が全部来て、僕…」



「炎を丸ごと飲み込んだときの表情、忘れられないぞ」


ウィルが大げさに目を見開いて言うと、皆が笑った。ヘドワートはのんびりとお茶をすすりながら、わざとらしく息を吐いた。



「僕なんか、相手の火で髪先がちょっと焦げただけだよ。香ばしい匂いがしてね」



「ヘドワート、それ自慢するところか?」


俺が突っ込みを入れる。笑いは部屋を温め、緊張はまだ遠くにあった。



「でもさ、あの幻術のやつら、真っ当に厄介だったな」ウィルが続ける。

「分身が何十体も出たとき、フィルがはぐれて、本気で心配したんだよ」

フィルは照れ笑いをしながら首を振った。



「ウィルが光で見せてくれたから、僕も闇で反撃できた。あのとき、ちゃんと僕らは噛み合ったんだって思った」



その言葉に、誰かがそっと頷く。
あの日の――お互いに声を掛け合った瞬間が、今の俺たちを作っているのだと改めて感じた。
笑いの余韻がまだ残る中、扉の外で足音がした。

殿下が帰ってきた。扉が開き、光が差す。皆の笑い声が一瞬途切れる。

「報告は済ませてきた」
ライオネル殿下は短く切り出した。
 息を整えるように一度だけ肩を落とし、テーブルの上の資料に視線を落とす。



「国王は警備の増員を決めた。騎士団と王城の魔術師を数隊、会場周辺に配置する。だが──」



その「だが」で、部屋の空気が凍りついた。笑顔は消え、冗談はもう通じないと誰もが悟る。



「シャドウ・オーダーは、単純に決勝で勝利を得るためだけに動くわけではない。狙いは二つだ。第一に、闇属性を持つ者を狙い、奪い、組織の力に取り込むこと。第二に、会場で大きな騒ぎを起こし、国中に動揺と混乱を波及させることだ」

殿下は一語一語を噛み締めるように言った。


「フィル──お前が標的になりうる」「観客を人質にされれば、警備は手が出せない。結界の何らかの隙を狙われる可能性も高い」


フィルの顔に血の気が引くのがわかった。俺はすぐに立ち上がり、彼の手を握った。温度が伝わる。



「フィル、ここにいる。お前は一人じゃない」

俺の声は普段より低く、フィルを安心させるように力強く言った。フィルは小さく息を吐き、震える声で答える。



「僕、怖いけど逃げてばかりじゃ駄目だって思ってる。みんなで頑張って奴らを絶対やっつけたい……」


その言葉にみんなが力強く頷いた。
殿下が静かに続ける。
「我々は、奴らを絶対に倒さなければならない。作戦を考えておいた――囮を使い、奴らが動いた瞬間に一斉反撃をかける。狙いは奪取ではなく、暴露と捕縛だ。奴らが連れ去るつもりなら、連れ去らせはしない」


作戦の輪郭が出ると、俺たちの表情は即座に切り替わった。笑いの余韻が決意へと変わる。それは自然な流れだった。ここまで共に戦ってきた絆が、行動を生む。


「具体的にはこうするのはどう?」

俺は案を口にした。皆の視線が集まる。


「フィルは“囮”をする。ただし本気で囮にさせるわけではない。目立つ位置に立つことで敵の注意を引く。殿下と王城の増援は外周を固め、観客の退避経路を抑える。ウィル、お前は光で幻術や視界操作を剥がし、敵の位置を固定してくれ。ヘドワートは雷で範囲制圧──ただし観客位置を常に把握して、安全な射線だけを狙う。俺は指揮、最後の判断権は俺が持つ。フィル、役割は“盾”であってもいい。闇で観客の周縁を覆って保護することもできる。だが無理はさせない。お前を守るのが最優先だ」



フィルは目を潤ませ、でも頷いた。
ウィルが彼に近づき、軽く拳を合わせる。ヘドワートはのんびりと頷くだけだが、その目には戦いの光が灯っている。殿下は資料の端に小さな封印符を描き、厳かな声で言った。



「私が試合開始前に結界の弱点を一時的に強化する。だが完全封鎖はできない。奴らは別働隊で結界外からの侵入を試みる可能性がある。だから外周は騎士団に任せる。内通者の可能性も考慮し、役割は分散して伝える。言葉ではなく合図で動くのだ」



合図の取り決めも決めた。
赤い煙が一つ目の合図。殿下の側近が携える小さな焚符が、指定された位置で赤い煙を上げたら「避難指示」。二つ目の合図は三打の鐘。直ちに試合を放棄し、観客を優先して避難させる。三つ目はフィルが制御を失う兆候――彼の瞳が黒く濁り、闇の波紋が収まらない時は、即座にウィルが接触して視界で繋ぎ、俺が撤退を指示する。



「囮が成功するかは、奴らがどれだけ確信しているかにかかっている。奴らが“闇を奪える”と確信すれば、躊躇なく動くはずだ」


殿下が低く言う。


「その瞬間を逃さない。ヘドワートの雷で動きを断ち切り、ウィルとフィルで拘束する。私は呪符で指揮系統の隠蔽を剥ぎ、騎士が包囲して捕縛する。できれば指揮者の顔を晒す。裏組織の核を一つでも潰せれば、国全体の動揺を抑えられる」



細かい動線も詰めた。

観客退避のルートは三本。中央通路は殿下側の騎士が担当、左右の通路は俺とヘドワートが誘導する。隠れた魔術トラップはウィルの光で浮かび上がらせ、解除は殿下の短い封印術で行う。フィルは中央に立ち、あえて“目立つ”格好をする。だがその背後には俺とウィル、殿下が必ず控える。誰かが奪いに来るなら、その手はすぐに掴む。



「危険は承知だ。観客が巻き込まれる可能性はゼロではない。だから最優先は人の命だ。だが、奴らを野放しにすれば同じことが国中で起きる。俺たちはここで一発、賭けに出る」


 俺の声は震えず、確信を帯びていた。仲間たちがそれを受け止める。
フィルは小さく息を吸い込み、静かに言った。



「僕が…囮になる。みんなで一緒に終わらせよう」



ウィルが無言で頷き、ヘドワートが不器用に拳を突き出す。殿下はそれを見て、わずかに微笑んだ。





夜は深い。窓の外に決戦の朝が近づく気配が、静かに、確実に迫っていた。俺たちはテーブルの上に印と合図を並べ、最終確認をした。冗談はもう言わない。だが、その沈黙の中にあるのは恐れだけではない。信頼と覚悟だ。互いの手が自然に重なり合う。





「よし」


俺は皆を見渡して短く言った。



「やるしかない。明日は俺たちの力で、奴らの計画を潰す。フィル、頼む」




フィルは小さな笑みを返した。震えているけれど、その瞳はもう恐れだけではなかった。決意が宿っている。

窓の外、東の空がわずかに白んできた。決戦の朝は、もうすぐだ。俺たちの心臓も、そっとそれに合わせて鼓動を刻み始めている。
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