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2話、出会い(1)
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リリは堂々と手を合わせると、勢いに任せて薄茶色の破片を口に入れる。
「いただきます!」
そんなリリにつられて、ラーナは一際大きな塊を持ち上げると、ものすごい勢いでかぶりつく、途端に少女の可愛らしい顔がキラキラした笑顔に変わった。
「すっごーい! 美味しいーー! これ美味しいよ! 革鎧を食べられるようにするなんて、リリはほんとーに凄いね! 錬金術師みたーい! ボクってば、感動しちゃった!!」
目の前でとびっきりの笑顔で、とびっきりの賛辞を送ってくれる少女こそ。
ムカつく魔道士によって、右も左も分からないまま、異世界にぶっ飛ばされたリリを結果として救ってくれた鬼族の女の子、ラーナ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
砂漠の道なき道を進む少女が一人。
全身を覆うほどのマントを被り、革でできた水入れを逆さにする。
「み、ず……ない……か」
何も出て来ない袋を、そのまま落とすように放り投げた。
(……街に入る前に鬼族だってバレたのは痛かったなぁ、おかげでもう何日も水を飲んでないや)
ここは《ドラコニス大陸》西北西に位置する《カプト地方》
《ドラーテム王国》領の中でも西の辺境、《サエウム荒原》と呼ばれる荒野のど真ん中。
砂漠の大地、雲一つもない空、どちらを向いても同じ風景。
少女は空を見上げ、静かに目を閉じる。
(せめて売ってくれたら、何とかなったのに)
少女は乾いた砂の上に力なく倒れた、その拍子に肩にかけていた鞄の中身が砂上に散らばる。
そしてずれ上がったマントから鬼族の象徴である角も見える。
「ここまで、なのかなぁ……」
《カプト地方》は鬼族に対して、特に当たりが強い傾向にある、彼女が入れる街はほぼないのだ。
結果、水と食料を求めて砂漠を一人で渡る、と言う絶望的な選択をすることになってしまった。
(あの日もこんな暑い日だったなぁ……)
倒れた少女はぼやける視線の先、灼熱の太陽が映し出す蜃気楼に自分の過去を見た。
【今から十五年ほど前】
彼女の故郷は小さな集落だったが、無慈悲にも跡形も無く蹂躙された。
[我らの王こそが正義だ! 遵奉か死か選べ! 中立を謳い、どちらにも属さぬまつろわぬ民共が!]
[焼け、潰せ、殺し尽くせ! 1匹残さず皆殺しだ! 味方せぬものは全て敵、内乱の種は欠片も残すな!]
朦朧とする意識の中、記憶に深く刻まれた恐怖と憎悪が鮮明に蘇る。
(集落を焼け出されたあの日から、ボクは〝あの国〟で苦労して、苦労して、ここまで生き抜いてきたってのに、こんなことになるなんて……)
[近づくんじゃねぇよ、お前のチビが伝染るだろ? ハハハッ]
[アイツを見ろよ、なんで生きてるんだろうな]
【忌まわしい記憶の多い〝あの国〟】
幼子だった彼女は実に14年もの時をかけ、国を抜け出す力をその手に掴んだ。
しかし国を出た彼女を待っていたのは別の地獄、いやっ、もはや地獄と呼ぶのすら生易しい日々だった。
(もうちょっとだったのになぁ……)
倒れる少女の前には、荷物が散らばっている、目線の先には一際古びた本。
本を見つめた少女は、ギュッと唇を噛むと、古びた本を手繰り寄せようと、思い通りに動かない体を伸ばす。
(行ってみたかったなぁ《カルラ・オアシス》……亜人にも優しい街って、〝書いて〟あったから)
ようやく本に手が掛かる、しかし少女の体は起き上がる力どころか、掴む力すら無い。
(ママ……島の中も外も、なにも変わらなかったよ……ボクの旅はここまでだね)
[お前なんかに売るもんは無い、出ていきな!]
[二度とこの門を通るな、鬼が! 化け物が! 人殺しが!]
相変わらず頭の中で響く走馬灯は、自分を蔑む言葉ばかり。
(どの街も散々だったし、期待はしてはいなかったけど)
必死に抗う心も、絶え間なく響く過去の幻覚に今にもすり潰れされてしまう寸前だ。
更に彼女は鬼族の風習で、戦えなくなったら自死を選ぶものだと言われて育ってきた。
[我らは戦闘民族、闘うことのできなくなった身体は捨て、地母神ブーミのもと新たな力を手に入れるのだ]
[まぁだ倒れとるのか、小童よ闘えぬお主に価値などない、さっさと自死せぃ、のぅ?]
「うるさい、うるさい、うるさい! うるさい!!」
数々の幻聴に少女は立ち上がることを諦めた。
そしてゴロリと仰向けになると、空に向かって力なく叫んだ。
「ボクは自分で決めてここにいる、神も人もクソみたいな考え方も、絶対に信じる、もんか」
いま少女の心を支えるのは、ここまで生き抜いたという結果。
その小さな小さな誇りのみ。
グゥ~!!
最後の最後、頭を上げたのは『食欲』という生物の純粋な欲求だった。
「あーお腹すいたぁー、のど渇いたー」
呟く少女に砂の混じった風が吹き抜ける。
彼女のマントがはだけ、フードの中から顔が顕になった。
青みがかった黒い髪、切れ長ながらもクリクリとした目、口にはライオンのような鋭い犬歯がキラリと光っている。
「マントも動き辛いし、なんでボクが隠れなきゃいけないんだ」
はだけたマントの裾から見て取れる身体は、薄い赤褐色の肌、細いながらとても筋肉質な四肢。
正に鬼という見た目だ。
相当に鍛え上げたであろう肉体は、少女の過酷な過去を物語っていた。
「自由に生きて何が悪いんだぁー!」
天を仰いだ少女の視線の先、雲一つもない晴れ渡った青空は、見た目通りに清々しく見えているのだろうか?
もしかしたら少女には地獄に見えているのかも、しれない。
「……はぁ、お腹すいたなぁ」
っと、もう一言だけ呟くと、意識を捨てるかのように、のしかかる暗闇に身を沈めた。
「いただきます!」
そんなリリにつられて、ラーナは一際大きな塊を持ち上げると、ものすごい勢いでかぶりつく、途端に少女の可愛らしい顔がキラキラした笑顔に変わった。
「すっごーい! 美味しいーー! これ美味しいよ! 革鎧を食べられるようにするなんて、リリはほんとーに凄いね! 錬金術師みたーい! ボクってば、感動しちゃった!!」
目の前でとびっきりの笑顔で、とびっきりの賛辞を送ってくれる少女こそ。
ムカつく魔道士によって、右も左も分からないまま、異世界にぶっ飛ばされたリリを結果として救ってくれた鬼族の女の子、ラーナ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
砂漠の道なき道を進む少女が一人。
全身を覆うほどのマントを被り、革でできた水入れを逆さにする。
「み、ず……ない……か」
何も出て来ない袋を、そのまま落とすように放り投げた。
(……街に入る前に鬼族だってバレたのは痛かったなぁ、おかげでもう何日も水を飲んでないや)
ここは《ドラコニス大陸》西北西に位置する《カプト地方》
《ドラーテム王国》領の中でも西の辺境、《サエウム荒原》と呼ばれる荒野のど真ん中。
砂漠の大地、雲一つもない空、どちらを向いても同じ風景。
少女は空を見上げ、静かに目を閉じる。
(せめて売ってくれたら、何とかなったのに)
少女は乾いた砂の上に力なく倒れた、その拍子に肩にかけていた鞄の中身が砂上に散らばる。
そしてずれ上がったマントから鬼族の象徴である角も見える。
「ここまで、なのかなぁ……」
《カプト地方》は鬼族に対して、特に当たりが強い傾向にある、彼女が入れる街はほぼないのだ。
結果、水と食料を求めて砂漠を一人で渡る、と言う絶望的な選択をすることになってしまった。
(あの日もこんな暑い日だったなぁ……)
倒れた少女はぼやける視線の先、灼熱の太陽が映し出す蜃気楼に自分の過去を見た。
【今から十五年ほど前】
彼女の故郷は小さな集落だったが、無慈悲にも跡形も無く蹂躙された。
[我らの王こそが正義だ! 遵奉か死か選べ! 中立を謳い、どちらにも属さぬまつろわぬ民共が!]
[焼け、潰せ、殺し尽くせ! 1匹残さず皆殺しだ! 味方せぬものは全て敵、内乱の種は欠片も残すな!]
朦朧とする意識の中、記憶に深く刻まれた恐怖と憎悪が鮮明に蘇る。
(集落を焼け出されたあの日から、ボクは〝あの国〟で苦労して、苦労して、ここまで生き抜いてきたってのに、こんなことになるなんて……)
[近づくんじゃねぇよ、お前のチビが伝染るだろ? ハハハッ]
[アイツを見ろよ、なんで生きてるんだろうな]
【忌まわしい記憶の多い〝あの国〟】
幼子だった彼女は実に14年もの時をかけ、国を抜け出す力をその手に掴んだ。
しかし国を出た彼女を待っていたのは別の地獄、いやっ、もはや地獄と呼ぶのすら生易しい日々だった。
(もうちょっとだったのになぁ……)
倒れる少女の前には、荷物が散らばっている、目線の先には一際古びた本。
本を見つめた少女は、ギュッと唇を噛むと、古びた本を手繰り寄せようと、思い通りに動かない体を伸ばす。
(行ってみたかったなぁ《カルラ・オアシス》……亜人にも優しい街って、〝書いて〟あったから)
ようやく本に手が掛かる、しかし少女の体は起き上がる力どころか、掴む力すら無い。
(ママ……島の中も外も、なにも変わらなかったよ……ボクの旅はここまでだね)
[お前なんかに売るもんは無い、出ていきな!]
[二度とこの門を通るな、鬼が! 化け物が! 人殺しが!]
相変わらず頭の中で響く走馬灯は、自分を蔑む言葉ばかり。
(どの街も散々だったし、期待はしてはいなかったけど)
必死に抗う心も、絶え間なく響く過去の幻覚に今にもすり潰れされてしまう寸前だ。
更に彼女は鬼族の風習で、戦えなくなったら自死を選ぶものだと言われて育ってきた。
[我らは戦闘民族、闘うことのできなくなった身体は捨て、地母神ブーミのもと新たな力を手に入れるのだ]
[まぁだ倒れとるのか、小童よ闘えぬお主に価値などない、さっさと自死せぃ、のぅ?]
「うるさい、うるさい、うるさい! うるさい!!」
数々の幻聴に少女は立ち上がることを諦めた。
そしてゴロリと仰向けになると、空に向かって力なく叫んだ。
「ボクは自分で決めてここにいる、神も人もクソみたいな考え方も、絶対に信じる、もんか」
いま少女の心を支えるのは、ここまで生き抜いたという結果。
その小さな小さな誇りのみ。
グゥ~!!
最後の最後、頭を上げたのは『食欲』という生物の純粋な欲求だった。
「あーお腹すいたぁー、のど渇いたー」
呟く少女に砂の混じった風が吹き抜ける。
彼女のマントがはだけ、フードの中から顔が顕になった。
青みがかった黒い髪、切れ長ながらもクリクリとした目、口にはライオンのような鋭い犬歯がキラリと光っている。
「マントも動き辛いし、なんでボクが隠れなきゃいけないんだ」
はだけたマントの裾から見て取れる身体は、薄い赤褐色の肌、細いながらとても筋肉質な四肢。
正に鬼という見た目だ。
相当に鍛え上げたであろう肉体は、少女の過酷な過去を物語っていた。
「自由に生きて何が悪いんだぁー!」
天を仰いだ少女の視線の先、雲一つもない晴れ渡った青空は、見た目通りに清々しく見えているのだろうか?
もしかしたら少女には地獄に見えているのかも、しれない。
「……はぁ、お腹すいたなぁ」
っと、もう一言だけ呟くと、意識を捨てるかのように、のしかかる暗闇に身を沈めた。
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