異世界キャンプ チートどころか低スペックのまま転移させられた妖精は楽しい旅にする為にモンスターを美味しく料理してやろうと思います~

綾川鈴鹿

文字の大きさ
9 / 115

2話、出会い(5)

しおりを挟む
 決意した百合は立ち上がりドレスの砂を払うと、倒れた女の子に近づく。

「大丈夫ですか? えーっと、お名前は?」
「スヴェトラーナ……スヴェトラーナ・ヴォルコヴァ……」
「ス、スヴェト……?」
「ラーナで良い……」
「ではラーナさんと呼ぶわ。ラーナさんは、なぜこんなところでお昼寝を?」

 もちろん昼寝ではないことは分かっている。
 しかし百合はあえてそう聞いた、ラーナは少しだけ考えるように黙ると、身動ぎ一つせずに答えた。

「もう、3日は水を飲んでないから……」
「3日!? 大変じゃない!」
「だいぶ前に街を追い出されちゃってさ……次の街に向かってたんだけど……」
「だ、大丈夫なの!?」

(大丈夫ってなによ、そんなわけ無いじゃない! こんな時に気の利いたことを言えてれば……)

 百合は自分を心の中で叱咤する。

「うん、大丈夫、だから……休んでた……」
「ちょ……ちょっと! しっかりしてラーナさんっ!」
「おや、す……み……」
「ちょっ、ちょっとまって!」

 百合は焦ってラーナの頬をペチペチとはたき、声をかけ続ける。

(せっかく出会ったのに、いきなり「はい、さようなら」はあんまりじゃない? ラーナさんはあっけらかんと言ってるけど、緊急事態すぎるでしょ)

「どうしたら、ええっと、み、水があればいいのよね……」

 今にも事切れそうな、異世界の知り合い第一号である少女のピンチに、百合はただただオロオロとするだけだった。

(わたしこの世界に転移してきてまだ三十分も経ってないのよ? チュートリアルも説明も無いのに、餓死する人を救えって、無茶苦茶よ)

「君……ピクシーなんだよね……」
「……あ、起きたー! よかったー!」
「水の魔法……つかえないの?」
「水の、魔法?」

(ほぅ、魔法……さすが異世界! ここは魔法が当たり前にある世界なのね、でも問題が……あるわ)

「あのー……魔法って、どうやって使えば……?」
「へ?」

 もじもじと恥ずかしそうに聞く百合に、ラーナは変な声を発して、目だけを向けた。

「ピクシーなのに、魔法が使えないの?」

(そりゃそうよね、わたしもそう思うけど、なんか良い言い訳は……)

「わ、わたし生まれてまだ、間もないから」

 苦し紛れので口をついて出てきたのは言い訳にもならないような真実。
 ラーナはギョッと目を見開き百合を見る。
 そしてハァーと大きなため息をついた。

「生まれたて? ……木も草もないこんな土地で? 土妖精とか?」

 恥ずかしさからか、ラーナの言葉を遮って百合が話を進める。

「まぁいいじゃない、だから魔法の使い方を教えてくれない?」
「水魔法の詠唱……ね」
「使えたら水ぐらい、いくらでも出すわ」

 何故か自信満々なリリ、しかしラーナは渋る。

「でもなぁ、うーん……ボクもわからないや」
「そんなぁぁ」
「そもそもボク、他の種族のこと……噂話で聞いた程度、だし」
「ダメで元々、やってみましょうよ!」
「……じゃあマグカップを持ってきて、そこらへんにあるから」

 散らばった荷物の中、百合は砂に埋もれたボロボロの木で出来たマグカップを見つけた。

「これね、あったわよ」
「それに両手を向けて」
「こ、こう?」
「じゃあ、続けて唱えて」

 ラーナがゆっくりと、か細い声で呪文を口に出す。

「“生命の祖にして、たゆたう水の神ジャラよ”」

(ついに魔法を使う時が来たわ、ワクワクしてきたー! 不謹慎だけど……)

「ううんっ!」

 息を大きく吸って喉の調子を整え、百合はラーナの言葉の通りに呪文を唱える。

「“生命の祖にして、たゆたう水の神ジャラよ”」

 百合の言葉を聞いて、ラーナは続きを唱え出す

「“その力を借り受けて我が身に神秘を恵み給えウォーターボール”」

 知らないと言うのが嘘であるかのように、よどみなく呪文を唱えるラーナ、復唱する百合の身体は変化を起こす

(手のひらがポカポカしてきたわ、ピクシーは魔法が得意みたいだし、チートとまでも行かなくても期待大よね)

 百合は嬉しくなって、詠唱する声をさらに張り上げた。

「“その力を借り受けて我が身に神秘を恵み給え、ウォーターボール!!”」

 唱え終えた瞬間、手の前で渦巻くように光が集束し一筋の水流となって、ラーナの巨大なマグカップに流れ落ちた。

「おお! ……お?」

(凄い! 本当に出た! ……ただ、これって……)

 魔法によって湧き出た水は、チョロチョロと微妙な音をマグカップの底に落とす。

「……ショッボ!! ショボ過ぎない?」

(勢いが、安マンションの水圧の弱いシャワーじゃない……魔法って、もっと華やかでかっこよくて、こう……バーンっていくものじゃない?)

 明らかにチートではない。
 百合は膝から崩れ落ちそうなほど落胆したが、横にいるラーナは目を輝かせている。

「まさか! 本当に出た! ありがとう!!」

 そう言い、勢いよくマグカップに飛びつく。

「水の出は酷いけど……」

 ラーナの勢いと動いた風圧だけで、百合は簡単に尻もちをつき、そのまま呟く。

「ラーナさん……」

 夢のような理想を打ち砕くしょっぱい現実。
 打ちひしがれた百合はガックシと落ち込んでいた。

(チートはなかったかぁ……でも)

 先程までの淀んでいた目ではなく、キラキラと目を輝かせているラーナを見る。
 彼女は声を上擦らせながら、水を飲んでいる。

(まぁいっか、使えたには使えたし)

 ホッとしたら、全てがどうでも良くなった百合、彼女から自然と笑みがこぼれた。

「ぷはーっ! 助かった!」

 ラーナは中途半端にたまったマグカップの水を大切そうに飲み干すと、キラキラした目で百合を見る。

「ありがとう!! えーっと……君の名前は?」
「あ、あぁ名前、名前ですね? そういえばちゃんと挨拶をしていませんでしたね!」

(わたしとしたことが、挨拶は社会人の基本なのに、失念してたわ!)

「わたしは……」

 口を開こうとした百合はそこでふと気づく

(あれっ? 転移って伝えていいの? そもそも「転移しきた百合でーす!」なんて言って通じるもの?)

「かわ……ゅ……り……り……り」

(せっかく可愛い妖精になったんだし、それらしい名前を名乗ったほうがいいの? それとも本名? 何かいい名前が……)

 何かいい名前は無いかと頭を悩ませる。

「……ゆ、り……り……」
「リリ?」
「っえ?」

 ラーナは百合から零れる言葉を聞いて、テンション高く言葉を続けた。

「リリっていうのかー、可愛い名前だねっ!」
「えーっと、それは……」

(んー……いっか、確かに可愛い響きだし)

 名前という重要なことを、さらっと決めた百合は覚悟を固めた。

「えぇ、リリと言います」

 ドレスに少しだけ残った砂を丁寧に払い、お姫様のように右足を後ろに引くと、ドレスをつまみ上げお辞儀をした。

(アニメとかで見て、やってみたかったのよねー! ドレスなんて着る機会無かったし、ご令嬢みたいでカッコいい!)

「ラーナさん、焦らずにゆっくりと飲んでくださいね」
「うん、ありがとう! 気をつけるねリリ!」

 元気でとってもいい笑顔を見せるラーナを見て、リリはやっと胸のつかえがとれたのか、肩の荷をおろした。

(ふぅ、一波乱超えたー、よかったー)

 その瞬間、リリは重要な事に気づく!

「あっ!」
「っえ? なに?」
「ラーナさん! 魔法で出したお水って飲んでも大丈夫なのですか?」
「ん? 知らないよ?」
「えーっ!?」

 あっけらかんと答えるラーナにリリは見本の様な反応をした。

「わからないけど、背に腹は代えられないよ」
「確かにそれは……そうね」
「それにリリが頑張って出してくれた水でしょ?」
「まぁ……」
「それならきっと大丈夫だよ!」
「ラーナさん」

(頑張ったから大丈夫なんて謎理論……それでも、出会って間もないわたしを信じてくれるなんていい子ね)
 ラーナの素直さと優しさに胸が熱くなったリリ。
 チートやら、無双やら、逆ハーレムやらを夢見ていた自分を少し恥じたのか罪悪感を隠すように聞く。

「……もう一杯飲みますか?」
「うんっ!! 本当に、ありがとうリリ」
「き、気にしなくていいわよ」

 ラーナの屈託のない笑顔に、リリの心は更に罪悪感を募らせていく。

(ここまで良い子だと、わたしが欲望まみれなのが浮き彫りになるわね)

 それを察してなのか、ラーナは地面の大きな革袋を拾うと満面の笑みを浮かべて差し出す。

「あと、この革の水入れも満杯にしてもらっていーい?」

 罪悪感を隠し、取り敢えず笑みを作ったリリは、明るく答えた。

「えぇ、もちろん! いくらでもどうぞ!」

 チョボチョボと革袋に水がたまる音だけが、対照的な笑顔を浮かべた二人の間に響く。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...