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SS、ラーナの過去《ボクがボクと呼んだ日》
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ラーナが4歳、ある日の昼
「いっくぞー、ゴー!!」
ラーナの掛け声と共に、跨った獣が猛スピードで火山を駆け上がる。
「パパー、先に行くねー!」
声をかけられたのは、ラーナの父[ボリス]
彼は生まれながらの戦闘民族と呼ばれるハイオークで、恵まれた身体を持っている。
引き締まった筋肉、大きく太い角、骨格から人の2倍はあるだろう。
「今日の『ヴァング当番』はラーナだったのか」
[ヴァング]とは《ルベルンダ氏族同盟》で騎乗用に使われる猟犬、狼とハイエナを混ぜたような見た目をした騎獣である。
馬程の馬力は無く、長距離走行にも向かないが、悪路を物ともしない俊敏さと、鬼族の戦闘に耐えうる強さを持った獣である。
ラーナの集落では4頭育てており、子供たちが持ち回りで相手をし、今では当番と称した遊び相手となっている。
「山頂まで走るのか……」
集落の戦士長であるボリスは訓練を欠かしたことなどない。
しかも今日はいつもの戦士姿ではなく、上裸に腰布と軽装なのだが、ヴァングに追いつくのは骨が折れる。
ラーナを追いかけ始めて直ぐに、ボリスは火山に誘ったことを後悔した。
「流石に、ヴァングにはついて行くのは厳しいな」
ポニーテールブレイスの髪は激しく揺れ、大きく降った腕の上部では肩の狼の入れ墨が走るように前後する。
物凄い速さで走ってはいるが、どんどんとラーナとの距離が離れていく。
「せっかく、訓練が休みの日だってのに……」
娘との楽しいハイキングが、一転して山間長距離行軍の訓練となる。
既に、体重の軽いラーナを乗せたヴァングに追いつくことは不可能なのだがボリスは速度を緩めない。
戦時中である今、娘との他愛もない時間は金銀財宝よりも貴重なのだ。
「一刻も早く、山頂までいかないと」
フゥーと大きく息を吐いたボリスは、見えなくなった娘を全力で追いかける。
* * *
「とうちゃーーく! ヴォルもおつかれさまー」
一足どころか二足も三足も早く山頂へとたどり着いたラーナ。
[ヴォル]と名付けられたヴァングの首元を、ラーナが撫でると、目をつむりグルグルと喉を鳴らす。
「すごーい、オレンジ色の湖なんてはじめてー、ドロドロしてるー!」
ラーナたちが登っていたのは、集落近くの活火山、ボリスが「冒険に良い所がある」と言って教えてくれた秘密の場所だ。
「あの湖にも魚が泳いでるのかなぁ?」
興味津々でヴァングから身を乗り出し、マグマ溜まりを覗き込むラーナ。
残念なことに、ラーナの見る限りでは生き物は見当たらない。
しかしボコボコと波打つオレンジ色の湖を見て、ラーナはふと良いことを思いついた。
「っあ、今日はあれにしよー、ヴォルあそこ行って! あ、そ、こ!」
ラーナが勢いよく指差す先は、少しだけヘリの角度が緩やかになっていた。
あそこなら自分でも湖に手が届くかもしれない、そう思ったラーナはヴォルに指示を出す。
「ヴォル、ゴー!」
掛け声を上げお腹を足で何度も叩くが、ヴォルは一向に進む気配がない。
ただただその場でクルクルと回っていた。
「はーやーくー、ママにプレゼントするんだからー」
背上で暴れるラーナに、ヴォルは諦めたのかトボトボと指差された所へと歩き出した。
「きれーだねー、この湖燃えてるよー」
ヘリに辿り着いたラーナは、マグマをキラキラした目で、ニコニコと眺めていた。
暫く眺めていたが、いきなり鞄から大きな土瓶を取り出し、ヴォルから降りる。
そしてズカズカとマグマへと近づいていく、ヴォルが後ろで吠えているのもお構いなしだ。
「いたいた、ラーニャちゃん、なにしてるのー?」
ラーナはよく知る優しい声に振り返る。
ヴォルの後ろに背丈は高く、しなやかな筋肉、整った目鼻立ちをした美しい鬼が立っていた。
彼女はラーナの母[ダリア]
「ママ!!」
ダリアの見た目は人族に近い、角はかなり短く、肌も白色に近い。
ハイ・オークにしては細身の身体も相まって、しっかりと見ないと、彼女が鬼族だとは気づかない物もいることだろう。
胸当てと腰布は、自分の髪の色に合わせ黒を基調としており、彼女がオシャレにも気を使っているのが良く分かる。
「なんでここにいるのー?」
駆け寄り、飛びつくように抱きついたラーナ。
ダリアを見上げるとムフフと笑い、返事も聞かず、まくし立てるように喋りだした。
「ねぇママ見て見て! オレンジ色の海があってね、燃えてるの、きれいだからラーニャね、ママにプレゼントしようと思ったの!」
「あらあら、そうだったの?」
「うん!」
純粋な眼差しに、ダリアは少しだけうーんと悩むと、ラーナの頭を撫でながら語りかける。
「ありがとう、ママ嬉しいわ、ただ熱すぎてラーニャの土瓶じゃ掬えそうにないわ」
「そうなのー?」
ウルウルと見つめるラーナに、ダリアは少し悩むと優しく語りかける。
「んーじゃあ、今回は一緒に眺めるだけにしましょ? ママはそれだけで充分!」
「うーん……わかった!」
ラーナがマグマを掬うことを諦めてくれたようで、ダリアはホッと胸をなでおろす。
そのまま、暫くラーナの取り留めのない話しを聞いていると、ボリスが肩を大きく上下させやってきた。
「はぁ、はぁ……やっと、追いついた」
「あらっ、ボリス! ラーニャ、パパが来たわよ?」
「パパおそーい!」
二人が声を上げる、ラーナは頬を膨らませお冠だ。
ボリスはラーナを抱えあげると、肩に乗せ謝った。
「ご、ごめん……よ。ラーニャ、ハァ、ハァ……ダリアは、なぜここに?」
吹き出る汗と整う気配のない呼吸が、ボリスがここまでしてきた無理を物語っている。
「昨日の夜、二人が話しているの聞いちゃったの」
「そ、それで?」
「私に内緒でハイキングなんてずるーい、って思ったから先回りしたのよ」
「なるほどね、ごめんごめん、埋め合わせはまた今度するよ」
「ふーん、まぁいいわ! ラーニャちゃんがヴァング当番で災難だったわね」
怒ったような素振りを見せるダリアだが、口元は笑っているので、からかっているだけで実際はそこまで怒ってはいないのだろう。
「僕はもう、ヴァングと追いかけっこはしたくないね」
「フフッ、戦士長様がそんなこと言っていいのかしら?」
「そうだそうだー、パパは強いんだからー、ヴォルなんかに負けちゃだめー!」
「ハハッ、二人には敵わないなー」
ボリスは肩に乗せたラーナの頭を撫でながら答えた。
空の雲は緩やかに流れ、火山の河口とは思えない穏やかな時が過ぎる。
飽きたのか、急にラーナがボリスに質問を投げかけた。
「パパは、みんなのパパと違うよね」
ボリスとダリアは顔を見合わせ確認するが、二人とも心当たりが無いらしい。
「ラーニャ、どういうことだい?」
「だってさー、ママに謝ってばっかだし、喋り方も他のパパと違う……」
ラーナの疑問に、ボリスはそういう事かと納得した、子供は核心を突くのが上手い。
確かに鬼族は男女ともに言葉遣いが荒い者は多い、その中でボリスは腰が低く、言葉遣いも丁寧なのだから、疑問に思うのも無理はない。
「ラーニャそれはね、僕はそれが大事だと思っているからさ」
「どういうことー?」
「他種族と関わりを持ってみて分かった、大きくて強いことは、尊敬されない、怖いんだ」
「……?」
鬼族では大きな体を持っているだけで尊敬される、それが当たり前で決して珍しくはない。
しかしまだ幼いラーナには、ボリスが言おうとしている意味は理解できなかった。
「僕はね、力に従う部下や、恐怖に怯える人と一緒にいたい訳じゃあない」
「じゃあ、パパはどういう人と仲良くなりたいの?」
「一緒に笑えて、一緒に戦える人だよ、ママみたいなね」
「ラーニャもママ好きー」
「あらあら、ラーニャちゃん私もよ!」
明るく弾けるような笑顔で見つめ合う二人、ボリスは言葉を続けた。
「それにね、剣闘をすれば、僕はママに負けない」
「そんなことを言っていいの? 私も強いわよ?」
「ダリアも茶化さないで、大事な話なんだ!」
「はーい!」
ハイ・オークらしく対抗心を燃やしたダリアを、ボリスは軽く諫めると真剣に話しを続ける。
ラーナはその光景を見て、ボリスを一直線に見据えた。
「それでもママは、僕よりも頭がいいし勇気もある」
「……」
「僕は臆病だからね! そんなママを尊敬しているのさ!」
自信満々に臆病だというボリス、真剣に聞いていたラーナは何も答えなかった。
二人の間に気まずい雰囲気が流れるかと思ったその時、ダリアが改めて口を開く。
「臆病で良いじゃない! 私はボリスのそういうところ好きよ? 勇者の蛮勇より、怯者の気概のが格好いいわ!」
「言葉が難しいよー」
ダリアの言葉に、黙っていたラーナもようやく口を開いた。
「ごめんねラーニャちゃん、私はね頑張って死ぬぐらいなら、逃げてでも生きて欲しいなぁって思ってるの」
生きて欲しいといったダリアだが、瞳はどこか悲しげにラーナとボリスを見ていた。
「でも集落のみんなは、戦って死ぬのがオークに生まれた決まりだって、誇りなんだっていっつも言ってるよ?」
ラーナは純粋に疑問に思ったのであろう、澄んだ瞳で今度はダリアに目を向けた。
向けられた視線から、意外と子供は大人の言うことをしっかり聞いているのねと、ダリアはラーナを真っ直ぐ見つめ、ハキハキと答える。
「そういう考え方もあるわ。だからね、逃げてもいいし、戦ってもいい、ラーニャちゃんの好きな方を信じればいいわ! パパとママが言ったからって信じる必要はないの、ラーニャちゃんの人生だもの!」
ボリスもラーナの頭に手を乗せると、ダリアに続いて答える。
「色々なものを見て、その時までにゆっくり決めればいいさ」
話しを聞いても、ラーナは強いパパの口調が違うこと、ママを強いと言ったこと、臆病だと言ったこと、全てが不思議でならなかった。
それでも、ボリスの話している時の顔や態度が無性に気に入ったらしい。
以来、ラーナは自分のことを『ボク』と呼ぶようになった。
「いっくぞー、ゴー!!」
ラーナの掛け声と共に、跨った獣が猛スピードで火山を駆け上がる。
「パパー、先に行くねー!」
声をかけられたのは、ラーナの父[ボリス]
彼は生まれながらの戦闘民族と呼ばれるハイオークで、恵まれた身体を持っている。
引き締まった筋肉、大きく太い角、骨格から人の2倍はあるだろう。
「今日の『ヴァング当番』はラーナだったのか」
[ヴァング]とは《ルベルンダ氏族同盟》で騎乗用に使われる猟犬、狼とハイエナを混ぜたような見た目をした騎獣である。
馬程の馬力は無く、長距離走行にも向かないが、悪路を物ともしない俊敏さと、鬼族の戦闘に耐えうる強さを持った獣である。
ラーナの集落では4頭育てており、子供たちが持ち回りで相手をし、今では当番と称した遊び相手となっている。
「山頂まで走るのか……」
集落の戦士長であるボリスは訓練を欠かしたことなどない。
しかも今日はいつもの戦士姿ではなく、上裸に腰布と軽装なのだが、ヴァングに追いつくのは骨が折れる。
ラーナを追いかけ始めて直ぐに、ボリスは火山に誘ったことを後悔した。
「流石に、ヴァングにはついて行くのは厳しいな」
ポニーテールブレイスの髪は激しく揺れ、大きく降った腕の上部では肩の狼の入れ墨が走るように前後する。
物凄い速さで走ってはいるが、どんどんとラーナとの距離が離れていく。
「せっかく、訓練が休みの日だってのに……」
娘との楽しいハイキングが、一転して山間長距離行軍の訓練となる。
既に、体重の軽いラーナを乗せたヴァングに追いつくことは不可能なのだがボリスは速度を緩めない。
戦時中である今、娘との他愛もない時間は金銀財宝よりも貴重なのだ。
「一刻も早く、山頂までいかないと」
フゥーと大きく息を吐いたボリスは、見えなくなった娘を全力で追いかける。
* * *
「とうちゃーーく! ヴォルもおつかれさまー」
一足どころか二足も三足も早く山頂へとたどり着いたラーナ。
[ヴォル]と名付けられたヴァングの首元を、ラーナが撫でると、目をつむりグルグルと喉を鳴らす。
「すごーい、オレンジ色の湖なんてはじめてー、ドロドロしてるー!」
ラーナたちが登っていたのは、集落近くの活火山、ボリスが「冒険に良い所がある」と言って教えてくれた秘密の場所だ。
「あの湖にも魚が泳いでるのかなぁ?」
興味津々でヴァングから身を乗り出し、マグマ溜まりを覗き込むラーナ。
残念なことに、ラーナの見る限りでは生き物は見当たらない。
しかしボコボコと波打つオレンジ色の湖を見て、ラーナはふと良いことを思いついた。
「っあ、今日はあれにしよー、ヴォルあそこ行って! あ、そ、こ!」
ラーナが勢いよく指差す先は、少しだけヘリの角度が緩やかになっていた。
あそこなら自分でも湖に手が届くかもしれない、そう思ったラーナはヴォルに指示を出す。
「ヴォル、ゴー!」
掛け声を上げお腹を足で何度も叩くが、ヴォルは一向に進む気配がない。
ただただその場でクルクルと回っていた。
「はーやーくー、ママにプレゼントするんだからー」
背上で暴れるラーナに、ヴォルは諦めたのかトボトボと指差された所へと歩き出した。
「きれーだねー、この湖燃えてるよー」
ヘリに辿り着いたラーナは、マグマをキラキラした目で、ニコニコと眺めていた。
暫く眺めていたが、いきなり鞄から大きな土瓶を取り出し、ヴォルから降りる。
そしてズカズカとマグマへと近づいていく、ヴォルが後ろで吠えているのもお構いなしだ。
「いたいた、ラーニャちゃん、なにしてるのー?」
ラーナはよく知る優しい声に振り返る。
ヴォルの後ろに背丈は高く、しなやかな筋肉、整った目鼻立ちをした美しい鬼が立っていた。
彼女はラーナの母[ダリア]
「ママ!!」
ダリアの見た目は人族に近い、角はかなり短く、肌も白色に近い。
ハイ・オークにしては細身の身体も相まって、しっかりと見ないと、彼女が鬼族だとは気づかない物もいることだろう。
胸当てと腰布は、自分の髪の色に合わせ黒を基調としており、彼女がオシャレにも気を使っているのが良く分かる。
「なんでここにいるのー?」
駆け寄り、飛びつくように抱きついたラーナ。
ダリアを見上げるとムフフと笑い、返事も聞かず、まくし立てるように喋りだした。
「ねぇママ見て見て! オレンジ色の海があってね、燃えてるの、きれいだからラーニャね、ママにプレゼントしようと思ったの!」
「あらあら、そうだったの?」
「うん!」
純粋な眼差しに、ダリアは少しだけうーんと悩むと、ラーナの頭を撫でながら語りかける。
「ありがとう、ママ嬉しいわ、ただ熱すぎてラーニャの土瓶じゃ掬えそうにないわ」
「そうなのー?」
ウルウルと見つめるラーナに、ダリアは少し悩むと優しく語りかける。
「んーじゃあ、今回は一緒に眺めるだけにしましょ? ママはそれだけで充分!」
「うーん……わかった!」
ラーナがマグマを掬うことを諦めてくれたようで、ダリアはホッと胸をなでおろす。
そのまま、暫くラーナの取り留めのない話しを聞いていると、ボリスが肩を大きく上下させやってきた。
「はぁ、はぁ……やっと、追いついた」
「あらっ、ボリス! ラーニャ、パパが来たわよ?」
「パパおそーい!」
二人が声を上げる、ラーナは頬を膨らませお冠だ。
ボリスはラーナを抱えあげると、肩に乗せ謝った。
「ご、ごめん……よ。ラーニャ、ハァ、ハァ……ダリアは、なぜここに?」
吹き出る汗と整う気配のない呼吸が、ボリスがここまでしてきた無理を物語っている。
「昨日の夜、二人が話しているの聞いちゃったの」
「そ、それで?」
「私に内緒でハイキングなんてずるーい、って思ったから先回りしたのよ」
「なるほどね、ごめんごめん、埋め合わせはまた今度するよ」
「ふーん、まぁいいわ! ラーニャちゃんがヴァング当番で災難だったわね」
怒ったような素振りを見せるダリアだが、口元は笑っているので、からかっているだけで実際はそこまで怒ってはいないのだろう。
「僕はもう、ヴァングと追いかけっこはしたくないね」
「フフッ、戦士長様がそんなこと言っていいのかしら?」
「そうだそうだー、パパは強いんだからー、ヴォルなんかに負けちゃだめー!」
「ハハッ、二人には敵わないなー」
ボリスは肩に乗せたラーナの頭を撫でながら答えた。
空の雲は緩やかに流れ、火山の河口とは思えない穏やかな時が過ぎる。
飽きたのか、急にラーナがボリスに質問を投げかけた。
「パパは、みんなのパパと違うよね」
ボリスとダリアは顔を見合わせ確認するが、二人とも心当たりが無いらしい。
「ラーニャ、どういうことだい?」
「だってさー、ママに謝ってばっかだし、喋り方も他のパパと違う……」
ラーナの疑問に、ボリスはそういう事かと納得した、子供は核心を突くのが上手い。
確かに鬼族は男女ともに言葉遣いが荒い者は多い、その中でボリスは腰が低く、言葉遣いも丁寧なのだから、疑問に思うのも無理はない。
「ラーニャそれはね、僕はそれが大事だと思っているからさ」
「どういうことー?」
「他種族と関わりを持ってみて分かった、大きくて強いことは、尊敬されない、怖いんだ」
「……?」
鬼族では大きな体を持っているだけで尊敬される、それが当たり前で決して珍しくはない。
しかしまだ幼いラーナには、ボリスが言おうとしている意味は理解できなかった。
「僕はね、力に従う部下や、恐怖に怯える人と一緒にいたい訳じゃあない」
「じゃあ、パパはどういう人と仲良くなりたいの?」
「一緒に笑えて、一緒に戦える人だよ、ママみたいなね」
「ラーニャもママ好きー」
「あらあら、ラーニャちゃん私もよ!」
明るく弾けるような笑顔で見つめ合う二人、ボリスは言葉を続けた。
「それにね、剣闘をすれば、僕はママに負けない」
「そんなことを言っていいの? 私も強いわよ?」
「ダリアも茶化さないで、大事な話なんだ!」
「はーい!」
ハイ・オークらしく対抗心を燃やしたダリアを、ボリスは軽く諫めると真剣に話しを続ける。
ラーナはその光景を見て、ボリスを一直線に見据えた。
「それでもママは、僕よりも頭がいいし勇気もある」
「……」
「僕は臆病だからね! そんなママを尊敬しているのさ!」
自信満々に臆病だというボリス、真剣に聞いていたラーナは何も答えなかった。
二人の間に気まずい雰囲気が流れるかと思ったその時、ダリアが改めて口を開く。
「臆病で良いじゃない! 私はボリスのそういうところ好きよ? 勇者の蛮勇より、怯者の気概のが格好いいわ!」
「言葉が難しいよー」
ダリアの言葉に、黙っていたラーナもようやく口を開いた。
「ごめんねラーニャちゃん、私はね頑張って死ぬぐらいなら、逃げてでも生きて欲しいなぁって思ってるの」
生きて欲しいといったダリアだが、瞳はどこか悲しげにラーナとボリスを見ていた。
「でも集落のみんなは、戦って死ぬのがオークに生まれた決まりだって、誇りなんだっていっつも言ってるよ?」
ラーナは純粋に疑問に思ったのであろう、澄んだ瞳で今度はダリアに目を向けた。
向けられた視線から、意外と子供は大人の言うことをしっかり聞いているのねと、ダリアはラーナを真っ直ぐ見つめ、ハキハキと答える。
「そういう考え方もあるわ。だからね、逃げてもいいし、戦ってもいい、ラーニャちゃんの好きな方を信じればいいわ! パパとママが言ったからって信じる必要はないの、ラーニャちゃんの人生だもの!」
ボリスもラーナの頭に手を乗せると、ダリアに続いて答える。
「色々なものを見て、その時までにゆっくり決めればいいさ」
話しを聞いても、ラーナは強いパパの口調が違うこと、ママを強いと言ったこと、臆病だと言ったこと、全てが不思議でならなかった。
それでも、ボリスの話している時の顔や態度が無性に気に入ったらしい。
以来、ラーナは自分のことを『ボク』と呼ぶようになった。
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