異世界キャンプ チートどころか低スペックのまま転移させられた妖精は楽しい旅にする為にモンスターを美味しく料理してやろうと思います~

綾川鈴鹿

文字の大きさ
27 / 115

SS、砂漠の夜空

しおりを挟む
 ある日の深夜、リリはふと目を覚ました

「……さむっ!」

 寒さにブルブルッと身震いしたリリは文句を零す。

「昼は熱いくせに、夜は寒いって劣悪!」

 乾燥した空気自体は、とても澄んでいて気持ちが良いのだが、この寒さの前では意味などない。

(砂漠の夜は冷えるって知ってはいたけど……)

 リリは両手で腕をこすりながらも、寝ぼけた眼であたりを見渡す。

(真っ暗だわ、あの時ほどじゃないけど)

 光の存在しない砂漠の夜だが、薄ぼんやりと足元は見えた。

「火は残って……ないか」

 眠りについてからは大分経ったらしい、焚き火の炭からは煙の残り香すら残っていない。
 再度、眠ろうにも薄着のリリにはこの寒さは厳しい。

「ラーナー、起きてるー?」

 可能ならラーナを起こし火をつけて貰いたいと思ったリリは声をかけた。

「……流石に寝てるかぁ」

 開いていない喉で声を出したので、起きていたとしてもラーナの耳には届いていないであろう。
 再度声をかけるのは気が引けたリリは、どうしたものかと上を見上げた。

「っあ!」

 思わず声が漏れ出る。
 視線を上げたその先には、現実離れした世界が広がっていたのだ。

「すっごーい!」

 透き通る空気の中、丸く控えめに照らす月、我こそはと輝く無数の星達。
 全てが、幻想的で魅惑的だ。

「星が掴めそう!」

 リリは思わず飛び上がり、キャッキャとはしゃぎ宙を舞う、もう寒さのことなど頭から抜けていた。

「リリ、帰るの?」

 掛けられた声に気づき、文字通り舞い上がるリリはクルッと振り返り聞いた。

「帰るってどういうこと?」

 横になっていたラーナは、そのままゴロッと、仰向けになると、丸まった膝を伸ばす。

「リリが月の精に見えたから」

(っえ!? 冗談? 本気? どっち?)

 少しドキッとしたリリは「ありがとう」とだけ言い、また空を見る。
 キザ過ぎる気もするが、素直なラーナに言われると不思議と悪い気はしないので、思わずにやけてしまった。
 
「きれいだなぁ」

 胡乱げな目のまま、夜空とリリを眺め、ラーナは呟いた。
 気持ちを整え、表情を戻したリリは、空中散歩を終えるとラーナの胸のあたりに座る。
 するとあることに気づく。

(ラーナ意外にも……)

 リリは自分の無い胸を両手で触り、少し落ち込む。
 口には出さなかったが、いろいろと思うところがあったのだ。

「それで、リリはどうしたの? 寝坊助さんの朝はまだ先だよ?」

 まだ覚醒してない声色、眠たそうな目を向け、ラーナは聞いた。
 その姿がリリの目には少しだけ物憂げに映った。
 ラーナは早寝早起きなので、リリが寝起きを見るのは初めてだった。

(普段とのギャップがすごいわねっ!)

「寝坊助さんとは失礼な!」
「フフッ、事実だからねー」
「んもぅ、わたしだってたまには早く起きるわよ!」

 まだまだラーナは眠たそうだ。
 普段よりも数段静かに喋っているラーナに、なんだかまた照れてしまいそうなリリは、敢えて明るく答える。

「……で、ほんとうは?」
「寒くって起きちゃった!」
「あーなるほど、入る?」

 ラーナがマントの首元を広げてリリに聞く。

「っえ!? えぇーっと……は、入る、わ」

 ドギマギと答えたリリは、這うようにラーナの首元に向かうと、やはり気になった。

(やっぱり意外とある……着やせするタイプ? ずるいわ!)

 何がずるいのかはリリにしか分からないが、心の中で文句を言いながらも首元に辿り着いた。

(急に恥ずかしくなってきたんだけどー)

 人の服に入る経験などあるわけも無い。
 いざ目の前に来ると、恥ずかしさが込み上げてきて、怖気付いたリリだったが

「お、お邪魔しま~す」

 小さくたどたどしい声で挨拶をして、そのままゆっくりと頭から潜るように入った。

「どう? あったかい?」
「うん、暖かくて安心する」
「それは、よかった」
「ラーナは体温が高いのね」
「そう?」

 オークだからなのか、筋肉質だからなのか、ラーナは他人よりも体温が高いらしい。

「そうよ、それにラーナって柔らかくて気持ちいいわ、高級ベットみたい」
「ちょっと、どこ触ってんのさ!」
「たまたまよ! ラーナはおっきいわね!」

 ついに言うことにしたリリ。
 例えラーナの胸がそこまで大きくなくても、殆どの人はリリよりも大きい。
 それは人であったときからそうだった、だからこそ憧れる。

(良いなぁー)

「ボクも大人だからね!」

 ラーナが胸を張ると、リリの身体が持ち上がる。

「20歳の小娘が何を言ってるのよ!」
「リリなんて0歳じゃん?」
「ホントは26歳なのよ?」

 リリは顔も出さずに、流れでカミングアウトした。
 おちゃらけていたのは、このためだったのだが、言ってみるとラーナの顔を見るのが怖くなった。

「ふぅーん」
「っえ!? それだけ?」
「まぁ……リリは意外と物知りだし、振る舞いも、ね」
「意外は余計よ!」

 ラーナはクスクスッと笑うと、そのまま黙ってしまった、リリの返事を待っているのだろう。

「……き、気づかれてたかぁ」
「バレバレだったよ? 聞くつもりは無かったけどねー」
「えぇ? 上手く隠してたと思うんだけどなぁ」
「うそだー、隠すつもりなかったでしょ?」

 ラーナの洞察力が高いのか、リリの隠し事が下手なのか、どちらもどちらといった所であろう。
 しかし、気付かれていたと分かると、俄然リリの気持ちも前向きになる。

「っま、いっか! わたしこの世界の住人じゃないのよ」

 明るく切り出したリリは、そのままポツリ、ポツリとラーナに出会うまでを話しだした。
 間違えないようにゆっくりと、それでいて明るく。

『異世界人で、元々は人だったこと』
『リリの世界では魔法も錬金術も無く、科学が発展した平和な世界であったこと』
『料理の知識も異世界のもので、この世界のものではなかったこと』

 そして最後に

『転移をしたらなぜかピクシーになっていたこと』

 ラーナは一つ一つ、軽く頷きながら聞いていた。

「っま、そんなところ!」
「へぇー、面白そうな世界だね」
「ラーナには物足りないかもしれないけどねー」
「確かに! 戦いが無いのは窮屈かも」

 冗談っぽく笑ったラーナ。 

「わたし、元異世界人だけどいいの?」
「リリはリリだから、今さらだよねー」
「それってどういうこと?」
「ナイショ!」

 リリにはラーナの顔は見えないが、恐らく笑っているであろう事は分かった。

「ナイショなんてずるいわー」

 そう言うとリリはラーナの胸を改めて揉む。

「ちょっとー、なにするのさ」
「からかったたお仕置きよ!」
「そんなこと言ってー、揉みたいだけでしょ?」
「まぁまぁ、もうちょっとだけ」
「リリ、怒るよ?」
「はぁーい」

 リリはくるりと態勢を変えると、マントから顔を出し、ラーナと同じように空を見上げた。
 
「リリ、くすぐったい」
「あらっ失礼、何か当たった?」

 身体を反転させた時に、リリの長い髪と羽根がラーナの肌を撫でたらしい。

「まぁ……いい、あんまり動かないでね」
「それは無理な注文ね」
「リリはもうちょっと落ち着きを持とうよ」
「それも無理な相談ね」
「それでも、ボクより大人なの?」
「それはそうよ? 敬ってね!」

 何一つ悪びれる事もなく答えるリリに、ラーナはハァーッと大きな溜息をついた。
 リリは言いたい事を言って満足したのか、また空を眺めると感想を溢した。

「こっちの夜空は星がキレイねぇ」

(地球の星はこんなに綺麗じゃなかったもんなぁ)

「っね、ボクも初めて見た」
「初めてなの?」
「ゆっくり空を眺めたことはない、かな?」

 過去を思い出しながら話すラーナ、思い出そうとする時点でほとんど見ていないことがわかる。

「わたしは好きよ、時間を無駄にしてる感じが好き」
「リリは独特だね」
「非凡って言うのよ!」
「まぁ余裕はあるよね」
「余裕?」

 ラーナの言葉に疑問を覚えるリリ、時間や暇ならともかく余裕という言葉はしっくりこない。

「ゆっくりと時間を過ごすって、余裕がある人しかしないと思うんだぁ、ボク」
「なるほどねぇ」

 夜空を見上げ他愛もない話しをする。
 意味合いは違うが、そんな時間を二人は何よりも幸せに感じていた。

(この中のどれかは地球なのかもしれないなぁ)

 ラーナと話しつつそんな事を考えていたら、リリはラーナの胸元で眠りについていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...