異世界キャンプ チートどころか低スペックのまま転移させられた妖精は楽しい旅にする為にモンスターを美味しく料理してやろうと思います~

綾川鈴鹿

文字の大きさ
103 / 115

16話、デザートプレデター(4)

しおりを挟む

「嬢ちゃん達、投げナイフは残ってるか?」

 アンがラーナとクリスタに大声で問いかけた

「ボクはあと3本!」
「私は2本です」

 二人の切迫した声色から、先程よりもジリジリと追い詰められてるのを感じる。
 散々攻撃をしているにも関わらず、デザートプレデターの頭数が減っていないからだ。

「そろそろ手詰まりか……」
「投げナイフだけじゃ厳しそう、上手いこと入れ替わって突撃してくるし」

 アンの呟きにラーナが答えた。

「ラーナの嬢ちゃんがいるし、一体ぐらいはやれるかと思ってたんだが、見通しが甘かったか」
「馬車止める? ボクは降りて戦っても構わないけど」

 その時、ただでさえ猛スピードで走り抜けていた馬車の車輪が、デザートプレデターの体当たりでついに壊れ、そのまま横転してしまった。
 馬車から飛び出したラーナはデザートプレデターを威圧しながら大声を張り上げる。

「急いで降りて!」
「すまん嬢ちゃん!」
「クリスタとアンで左右を警戒!」
「はい、ラーナありがとうございます」

 ラーナの指示通りに、クリスタとアンが左右を見張る。

「イヴァとクラウディアは馬車を背にして後ろに下がって」
「ラーナはどうするのじゃ?」
「ボクは前に出て、何体かを引き付ける」
「貴女、一人で大丈夫ですの?」
「気を引くだけなら、なんとか……する……」

 前方に三体、左右に一体ずつ囲むようにデザートプレデターは立ちはだかっている。
 しかし、警戒しているのか品定めをするようにウロウロと周りを歩き、少しづつ距離を詰めてくる。
 四人はデザートプレデターと睨み合うが、イヴァだけは頭を抱えていた。

「無理じゃ、無理じゃ、無理じゃ、無理じゃ!」
「イヴァ、落ち着いて!」

 絶望的な状況に発狂するイヴァ、ラーナが声をかけるが、落ち着く気配がない。

「妾、死ぬのは良いが、食い殺されるのは嫌じゃ! 痛いのは、嫌……じゃ」
「イヴァ! 前を見て!」

 叱咤したラーナは大きく深呼吸をすると、静かに落ち着いた声色で話しだす。

「こっちを向かずに聞いて」

 皆が集中しながらもラーナの声に耳を傾ける。

「リリが助けを呼んでくれるまで粘る、それしかボク達が生き残る道はない」
「それはそうだな」
「とりあえず、ボクが突っ込めば前の3体は気を引けるはず」

 ラーナの口調がいつもよりも張り詰めている、それが更に皆の緊張を高めた。

「無理矢理にでも削る、だから左右の2体はみんなで少しでも時間を稼いで、まだボク等を警戒してるみたいだからなんとかなる」

 作戦とも言えない作戦だ、ラーナも倒すとは言い切れなかった。
 ラーナが一番しんどいことを率先して受け持っている、その事実を前に、皆の顔に活力が芽生える。

「わかりました」
「おぅ、任せとけ」
「……わかり、ました」

 しかしクラウディアの答えは心なしか弱々しかった。

「クラウディア様? もしかして、もう魔力が……」

 クリスタは心配そうに声をかける、しかしクラウディアは聞く気がないようだった。

「それでも、ここで私が倒れたら……この均衡も崩れてしまいますわ」

 疲労で返事すら厳しいのだが、クラウディアが言っていることは事実だ。
 なので、クリスタもそれ以上の言及はせず、皆は黙って前を向いた。

「それじゃあ……いくよ?」

 ラーナは前方に向かって勢いよく走り出す、それを見計らっていたかのようにデザートプレデター三体が同時にラーナに襲いかかった、クリスタとアンも身構える。

「ラーナ嬢ちゃんの言った通りになったな……」

 アンは自分の前にいるデザートプレデターに目を向けながら、静かに語りかける。

「それでも……ラーナは……」

 三体のデザートプレデターと大立ち回りをするラーナだが、防戦一方だった。
 取り囲むように立ち回るデザートプレデターは、偶に飛び掛かってきては噛み付いたり蹴りを入れたりしては引く。
 その連携はラーナを着実に死に向かわせていた、ラーナも直感的にそれを感じていた。

「モンスター如きが!! 楽しくなってきたー!!」

 追い詰められれば追い詰められるほど、ラーナは高揚していく。

「さぁここからだぞ、ボクはまだ、ピンピンしてるじゃないか!」

 そう叫ぶ口元は嗤っている、死の近づく感覚に興奮を覚えていた。

「大分動きも掴めてきた、一体、いやっ二体は道連れにしてやる、死にたいやつからかかってこい!」

 ナイフを持った右手を前に突き出して叫んだラーナ。
 だが、既に身体中傷だらけ、自慢のナイフもロック鳥からの連戦で左手の一本は折れてしまっていた。

「ラーナよ、もう無理じゃ! 戻ってこい!」

 ボロボロのラーナを見かねて、イヴァが悲痛に叫ぶが一切届いていなかった。
 その時!

「……んなー!」

 リリの声が遠くから小さく聞こえた、ラーナにしか聞こえないような微かな叫び声。
 イヴァが声のする方角を見ると、鳥人族の足にぶら下がる熊人族。
 腕を組み、いかにも強者といった佇まいだ。

「間に合った……のかや?」

 膝から崩れ落ちるイヴァ、その目の前にリリが降り立った。

「この人達が助けてくれるって」
「本当かや?」
「わたし、あの人の戦いを見たけど、本当に強かったの! もう大丈夫よ!」

 そう言った、アンをチラリと見ると安堵の表情が零れていた。

「じじぃ! それにノーラ司教まで……ふぅー」

 大きな溜息を漏らすと、力んでいた力が抜けていく。
 ベルンがみんなの横に飛び降りると、優しくアンに語りかけた。

「アンよ、無事だったようじゃの、ようやったなぁ」
「あぁ、ラーナ嬢ちゃんのおかげでな」

 視線の先には、デザートプレデターと剣を交えるラーナ。
 恐らくベルン達に気づいてはいるが、戦いへの高揚感と、余裕のなさから、反応する素振りすら見せなかった。

「空から見とったが、ありゃ強いのぉ、流石はハイ・オークといったところか」

 ベルンは飄々とした態度で感想を言った。

「そんな悠長に……わたくしは……もう……限界」

 魔力切れでへたり込むクラウディア、ベルンは拳をゴツゴツと合わせると

「うむ、それもそうじゃの、儂等は4体を引き受けよう」

 そう余裕な表情で言い放った、それを聞いたリリは少しだけ心配になる。

「4体も大丈夫なの?」
「なぁに問題はない」
「助けを頼んだ手前、怪我とかしたら心苦しいんだけど」
「地上から来る二人もこっちへ向かっとる、引き付けながら合流するでの」

 無茶苦茶なことを当たり前のように言うベルン。

(ラーナですらあんなに苦戦してるのに……)

「それでも4対4よ?」
「あの子鬼がだいぶ削ってくれとるみたいじゃしの、同数ならなんとかなるじゃろうて、ノーラもおるしの」

(凄いわね、そこまで余裕なのかしら?)

 まだ信じられないリリを横目に、クリスタが声をかける。

「わかりましたギルドマスター。では私の手前に居る一体は、私とアン様で引き受けます」

 それを聞いたクラウディアがフラフラと立ち上がる。

「クリスタ! 私もやりますわ」
「いえ、失礼ながらクラウディア様とラーナ様はだいぶ消耗している様子、足手まといです」
「でも!」
「大丈夫です、策はあります」

 引き下がらないつもりのクラウディアだったが、クリスタはそれ以上に強情だ。
 ジィーッとクラウディアを見つめ微動だにしない。

「……わかったわ」

 その決意した瞳に、クラウディアはまた力なく座る。
 一通りやり取りを聞いていたベルンは指示を出した。

「よしっじゃあノーラよ、元気な一体はお主に任せた、儂は子鬼と戯れる三体を連れてく」
「魔法の準備は整っております、お任せを」

 ノーラが風魔法をくりだすと、暴風が吹き荒れ、アンと対峙していたデザートプレデターが浮き上がる。
 同時にベルンが老体とは思えないようなスピードで、ラーナの元へと走り出した。

「それっ、そこの子鬼よ下がっておれ、あとは儂がやる」
「っ! あぁ!?」

 デザートプレデターから攻撃を受けそうなラーナを、ベルンはまるで邪魔な虫でも払うかのように、後ろへと弾き飛ばした。

 ドゴォ……

「いったぁー、あの熊野郎、ボクの邪魔を……」
「手加減はしとる、休んでおれ」
「ボクの獲物だ!」

 立ち上がろうとしたラーナを、リリがお腹に乗り止めた。

「ラーナ! 立ち上がっちゃダメよ! もうボロボロじゃないの!」
「リリ!」
「あの人たちは味方よ、私が呼んできたの!」

 頭だけ持ち上げてリリの言葉を聞くと、助っ人の二人にチラリと目を向ける。
 ノーラは風魔法で飛ばし、ベルンは殴っては引きずり、力技で三体を引き連れていく、そこら中を噛みつかれているが怯む様子もない。

「……しょうがないかぁ」

 ラーナは大の字で後ろに倒れた。
 そのまま小さな声で「あ~あ、せっかくの……」と、リリに聞こえないようにつぶやく。
 そのまま曇った空を見たまま黙った。
 この砂漠ではめずらしく太陽のない真っ暗な空は、ラーナにはどう見えたのだろうか?
 それを知るものはこの世に一人しかいない……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...