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17話、激闘とその先(4)
しおりを挟む「……っ! クリ、スタ? クリスターーーーー!!」
顔をクリスタの体に埋めて、泣き崩れているクラウディア。
(なんて声を掛けたら……)
駆け寄った皆もリリと同様に、何も声をかけられない。
皆が俯き、泣き続けるクラウディア。
しかし直ぐに顔を上げると、その顔は涙をこぼしながらも、貴族然としたクラウディアに戻っていた。
「貴女に命を救われるのは、7歳の頃に暗殺者から救われて以来の二度目ですわね」
優しく小さく呟いたクラウディアは、動かなくなったクリスタへ語りかけた。
「小さい頃から貴女は私のことばかりで、無茶をするのも相変わらずだわ……主人より先に神へ謁見するなんて、ダメな子ね……」
クラウディアは涙を拭い立ち上がる。
落ちていたショートソードとレイピアを拾い上げると、血を地面に払い、腰に挿す。
「……ありがとう」
そのままデザートプレデターの胸からクリスタのナイフを抜いた。
「あなたの勇姿は、このナイフと共に私の胸に刻んでおきますわ、ゆっくりとお休みなさい」
膝をつき両手を顔の前で握ると、神とクリスタへ祈りを捧げた。
それは見事なもので、凄惨で哀しいことが起きているというのに、リリには神秘的に見えた。
そんなクラウディアに掛ける言葉がリリにはなく、ただただ呟くことしか出来なかった。
「クラウディア……」
そんな中、空気を読まずにイヴァが意味不明なことを言い出す。
「なんとも、辞世の詩すら詠めんとは悲しいことじゃ、まぁ妾が起こしてやろうかの」
全員がイヴァの一言に振り返る。
「「「「「っえ!!」」」」」
普段は詠唱をほとんどしないイヴァだが、珍しく呪文の詠唱を始めていた。
(イヴァが詠唱してるの初めて見た……)
皆が信じられない気持ちでいっぱいだが、その一方で信じたい気持ちもある。
複雑な気持ちが渦巻きながらも、今は固唾をのんでイヴァを見守るしかない。
「$%@¥$¥%%%@@$#$」
リリには理解できない言語の詠唱だ。
(もしかして、本当に助けられるの? まさか……ねぇ)
イヴァは手に持った杖を地面に思いっきり突くと、クリスタの上に黒い闇が現れた。
アイテムボックスで出てきた不定形でモヤモヤした物とは違い、漆黒でキレイな球形の靄とも言えない暗闇。
「クリスタのフルネームは何じゃ?」
イヴァは杖を突いたまま、珍しく真剣な顔でクラウディアに聞く。
「クリスタ=テーネブルグですわ」
信じきれないクラウディアだが、棒読みで答えた。
「うむ。虚空神アーカーシャの神力を持って、クリスタ=テーネブルグの魂をこの器へ定着させよ、リターンポイント」
イヴァの詠唱によって、漆黒の玉はクリスタだった物の胸に吸い込まれていく。
「う、上手くいったの?」
「さぁの? あぁそういえば失敗したら暴れ出すからその時は頼んだのじゃ、妾はもう魔力がない」
イヴァはドサッと地面に腰をつけた。
(っえ? 失敗とかあるの? イヴァ勝手に初めてそれは身勝手すぎない?)
リリはそう思ったが、放心状態のクラウディアの手前、口には出せず、ただただ黙ってしまった。
しかし、目の前で闇を飲み込んだクリスタは上半身だけゆっくりと起き上がる。
それを見て、ラーナとアンは武器を構え、警戒する。
「クラ、ウ、ディア……さ、ま?」
起き上がったクリスタは、珍しくキョトンとしていた。
何があったのかはわからない、なんなら本人は死を覚悟していたのだろう。
だからこそ、えも言えぬ表情でクラウディアを見つめていた。
「おー、成功じゃ久々だったでの妾もハラハラしたのー」
座り込みながらも、あっけらかんと答えたイヴァに、リリが珍しく本気でキレた。
「イヴァ! 黙ってて!」
「リリは、なにを怒っているのじゃ?」
「それは、イヴァが……」
(命を何だと思ってるの!?)
明らかに響いていない、暖簾に腕押し、糠に釘といったおもむきだ。
そんな激しい言い争いが目に入っていないかのようにクラウディアは一直線にクリスタに抱きついた。
「クリスタ!」
未だに状況がよくわからないクリスタは、首を傾げたまま佇むが、暫くして腕をクラウディアの頭に手を回そうとした。
その時、左腕が肩からドサッと、地面に落ちた。
「っえ?」
クリスタの口から、本気の困惑の声が漏れた。
イヴァが、ペチッとおでこを手で叩きながら、声を上げる。
「あちゃー、死体の損傷が激しすぎたかの?」
「どういうことですか?」
「死んだ時の傷が深すぎて、肩が取れたんじゃろ?」
やはり何も気にも留めず淡々と答えるイヴァだが、クリスタの質問の本質には気づいていなさそうだ。
「いやいやそういうことじゃなくて、説明をしろってことよ!」
見当違いな答えをするイヴァに、リリがツッコんだ。
「あーそういうことか」
(本当に気づいていなかったのね?)
「レヴァナントなんじゃから、そういうこともあるじゃろ?」
「レヴァナント……?」
相変わらず悪気もなく答えたイヴァだが、専門用語に誰もが理解できなかった。
それを察して、更に説明を続けるイヴァ。
「レヴァナントは、妾の村では戻りし者、蘇りし者って意味じゃ」
(戻りし者? 蘇りし物 それにさっき死んだ時って言ってたわよね?)
「……って、それってゾンビじゃないの!」
「ゾンビとは近いが違うぞよ、あ奴らみたいに意識に支障をきたしてる訳ではないからの」
「それって、生き返ってないじゃない!」
リリは更にツッコんだ、それに対してイヴァはさらっと訂正をする。
今度は黙って聞いていたクラウディアが、少し落ち着いたのかイヴァに質問をする。
「先程の魔術は蘇生魔術ではなく死霊魔術でしたの?」
クラウディアを含め、皆はてっきり蘇生魔術だと思っていたであろう。
しかしこの世界に蘇生魔術など存在はしていないのは周知の事実である。
ただ、もしかしたら200年生きているダークエルフなら、秘密の魔法でもあるのかと淡い期待を胸に抱いていたのだ。
「そりゃそうじゃろ? 妾、ダークエルフぞ?」
だが、この一言を前に納得するしかなく、皆は心の中で天を仰いだ。
イヴァの言うことはごもっともだ、ダークエルフは闇に近い妖精族だ。
しかし転移者であるリリには、全く納得できなかった。
「いやいやいやいや、それってだいぶ違うでしょ!」
「変わらん変わらん! 魔力で生きるか食物で生きるかの差じゃ」
「っえ! そうなの?」
(もしかして、この世界ではそういうもんなの?)
リリの反応を見て、ため息をつきながらクラウディアが訂正する。
「そんなわけ無いじゃない、死霊魔術は犯罪よ」
その一言にリリが勢いよくクラウディアの方に振り返り「マジ?」と聞く。
クラウディアは無言で静かに頷く。
今度は勢いよくイヴァに向き直すが、悪気なく座るイヴァに何とも言えない表情でリリは絶句した。
「嬢ちゃん、悪いがアタシでも庇うのは厳しいぐらい、ヤバい案件だな」
固まってしまったリリに、アンがとどめを刺す様に言い放った。
(そこまでかー、クリスタのためにはしょうがないんだけど……やばくない?)
頭を抱え悶えるリリ。
それを無視してクラウディアがイヴァに聞く。
「なぜクリスタのために、そこまでしてくださったの?」
「何故といわれてものぉ……」
クリスタの疑問はごもっともだろう、犯罪になるような魔法を出会って間もない人にかけるのは誰がどう見ても、つり合いが取れていない。
「妾は森深くで時空神を祀っていた小さな村の巫女じゃったんじゃが、時々訪れる信奉者相手によくやっておったからのぉ」
イヴァは本気で言っているようだ。
「なんでそんなことを? 倫理観や危機意識はどうなってますの?」
「俗世の常識は妾にはよーわからん、今まで皆が喜んでおったしのぉ」
「俗世って……」
「ん? あぁ人族の常識といったほうが良いかの?」
「普通に貴女がおかしいのではなくて!?」
クラウディアは更に踏み込んで追及する。
それに対してもイヴァは慣れたように答えた。
「妖精族は長生きじゃからな」
(それは知ってるけど、それとこれは関係なくない?)
「いまは、200歳ぐらいだっけ?」
「そうじゃな」
首を傾げリリがそう聞くと、イヴァは死生観を軽く語りだした。
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