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1.城を出ていった悪妃
こちらはとうにその覚悟
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「あなたは、結婚後、私にはのんびり過ごして欲しいと仰った。愛ある結婚生活を送りたいと、夢見がちなことを言っている自覚はあると、そう言い添えて」
「…………」
覚えがあるのだろう。
彼はバツが悪そうだったが、やがて苛立たしげに目を細めて私を見た。
「だからなんだよ。今更そんな昔の話を蒸し返して、何がしたい?」
「全て、嘘だったのですね」
「嘘?そんなわけない。あの時の僕の言葉は本心だったよ」
「結果的に、嘘になりましたね?」
「……いい加減にしなさい、クレメンティーナ。いつからきみは、王たる僕にそんな口を聞けるようになったんだい?」
都合が悪くなると、権力でどうにかしようとする。
そんなあなたに、こちらはもううんざり。
私はこれ以上の口論は無駄(というか、まともに取り合ってもらえないだろう)と判断し、書類をスッと彼の方に差し出した。
「ご確認ください」
「知らないな」
「それでは困ります」
「言ったはずだよ、クレメンティーナ。国王夫妻の離縁は認められない。これは王命だ」
「……そうですか。ですが、貴族院の判断はどうでしょう?私たちは白い結婚なのです。私たちに子供が生まれることはない。そんな無意味な結婚を、貴族院は推奨すると思いますか?」
「きみは役に立ってくれているよ。主に、政についてね」
褒めているつもりなのか微笑む彼に、私も笑みを返した。
ただ、内心は──
(ふざけるなよ?)
怒り心頭である。当然だわ。
だって、彼の発言はつまり、【都合のいい人間だから傍に置いてやる(笑)】みたいなものでしょう?
都合よく使って、使い捨ての道具とでも思っているのかしらね。いい加減、もう限界。
私は電池で動くロボットではなく、心を伴う人間なのだから。
心のケアが不十分だと先に心が死んでしまうの。だって、人間だもの。
「陛下。私はこの結婚を破婚にするためなら、処女検査も厭いません」
「は……」
陛下が、唖然としたように私を見た。
処女検査。それは、身辺の怪しい未婚令嬢の貞淑さを確認するための儀式のようなもの。それを受けるのは大変、それこそ名が汚泥に落ちるほどの不名誉とされているが、私はそれでも構わなかった。
既に、私の悪評など百も二百も流れている。
ひとつやふたつ増える程度、気にしない。
そんなことよりも。
「陛下。あなたはレヴィアタン国の王です。世継ぎを産まない妃は不要です。陛下に必要なのは、あなたの血を引く子供」
言葉を切り、私は静かに言い切った。
「陛下が真にあの愛人を愛してるなら、彼女を妃にして、世継ぎをたくさん産ませるのが、陛下の責務なのではありませんか?」
「……きみは、相変わらず出過ぎたことばかり言うね」
愛人のこと。子供のこと。
自分のしなければならないこと。
それらを指摘されて、気分を害したのだろう。
不機嫌そうに陛下は言った。以前の私なら、彼のその様子に口を噤んでいただろう。
愚かにも、私はこのひとが好きだったのだから。
責任感と恋心。
自制心と忍耐。
それらを抱いた私はこの三年間。諦めと切望に近い感情を持ちながら日々を生きてきた。
「私は臣下のひとりとして、必要だと判断し申し上げました。……では、話は以上です。陛下にとっても、私にとっても、色良いお返事をいただけること、願っております」
そのまま席を立つと、彼が眉を寄せた。
そして、低い声で私の名を呼び止める。
「待て」
「……何か?」
「なぜこの部屋はこんなにスッキリしている?それに、今のきみの発言──まるで、この城を離れるようだな」
陛下の言葉に、私は肩を竦めた。
私に興味のない彼のことだ。聞いていないかもしれない、と思ったが王なのだから最低限報告は受けているだろうと思ったのだけど。
本当に、彼は私個人に関心がないらしい。
私は、不敬にも彼を見下ろしながら答えた。
「私は長期休暇をいただきます。もう申請は既に受理され、本日出立予定です」
私の言葉に、陛下は絶句したようだった。
「…………」
覚えがあるのだろう。
彼はバツが悪そうだったが、やがて苛立たしげに目を細めて私を見た。
「だからなんだよ。今更そんな昔の話を蒸し返して、何がしたい?」
「全て、嘘だったのですね」
「嘘?そんなわけない。あの時の僕の言葉は本心だったよ」
「結果的に、嘘になりましたね?」
「……いい加減にしなさい、クレメンティーナ。いつからきみは、王たる僕にそんな口を聞けるようになったんだい?」
都合が悪くなると、権力でどうにかしようとする。
そんなあなたに、こちらはもううんざり。
私はこれ以上の口論は無駄(というか、まともに取り合ってもらえないだろう)と判断し、書類をスッと彼の方に差し出した。
「ご確認ください」
「知らないな」
「それでは困ります」
「言ったはずだよ、クレメンティーナ。国王夫妻の離縁は認められない。これは王命だ」
「……そうですか。ですが、貴族院の判断はどうでしょう?私たちは白い結婚なのです。私たちに子供が生まれることはない。そんな無意味な結婚を、貴族院は推奨すると思いますか?」
「きみは役に立ってくれているよ。主に、政についてね」
褒めているつもりなのか微笑む彼に、私も笑みを返した。
ただ、内心は──
(ふざけるなよ?)
怒り心頭である。当然だわ。
だって、彼の発言はつまり、【都合のいい人間だから傍に置いてやる(笑)】みたいなものでしょう?
都合よく使って、使い捨ての道具とでも思っているのかしらね。いい加減、もう限界。
私は電池で動くロボットではなく、心を伴う人間なのだから。
心のケアが不十分だと先に心が死んでしまうの。だって、人間だもの。
「陛下。私はこの結婚を破婚にするためなら、処女検査も厭いません」
「は……」
陛下が、唖然としたように私を見た。
処女検査。それは、身辺の怪しい未婚令嬢の貞淑さを確認するための儀式のようなもの。それを受けるのは大変、それこそ名が汚泥に落ちるほどの不名誉とされているが、私はそれでも構わなかった。
既に、私の悪評など百も二百も流れている。
ひとつやふたつ増える程度、気にしない。
そんなことよりも。
「陛下。あなたはレヴィアタン国の王です。世継ぎを産まない妃は不要です。陛下に必要なのは、あなたの血を引く子供」
言葉を切り、私は静かに言い切った。
「陛下が真にあの愛人を愛してるなら、彼女を妃にして、世継ぎをたくさん産ませるのが、陛下の責務なのではありませんか?」
「……きみは、相変わらず出過ぎたことばかり言うね」
愛人のこと。子供のこと。
自分のしなければならないこと。
それらを指摘されて、気分を害したのだろう。
不機嫌そうに陛下は言った。以前の私なら、彼のその様子に口を噤んでいただろう。
愚かにも、私はこのひとが好きだったのだから。
責任感と恋心。
自制心と忍耐。
それらを抱いた私はこの三年間。諦めと切望に近い感情を持ちながら日々を生きてきた。
「私は臣下のひとりとして、必要だと判断し申し上げました。……では、話は以上です。陛下にとっても、私にとっても、色良いお返事をいただけること、願っております」
そのまま席を立つと、彼が眉を寄せた。
そして、低い声で私の名を呼び止める。
「待て」
「……何か?」
「なぜこの部屋はこんなにスッキリしている?それに、今のきみの発言──まるで、この城を離れるようだな」
陛下の言葉に、私は肩を竦めた。
私に興味のない彼のことだ。聞いていないかもしれない、と思ったが王なのだから最低限報告は受けているだろうと思ったのだけど。
本当に、彼は私個人に関心がないらしい。
私は、不敬にも彼を見下ろしながら答えた。
「私は長期休暇をいただきます。もう申請は既に受理され、本日出立予定です」
私の言葉に、陛下は絶句したようだった。
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