〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。

文字の大きさ
13 / 48
1.城を出ていった悪妃

王妃なんてやめてやる

しおりを挟む

ベロニカがウィルに乱暴しようとした時。
瞬間的に、私の頭に様々な光景が走馬灯のように流れた。

雨の日に猫を拾った。子猫だった。
最初は走る毛玉のような子猫が半年後には成猫と変わらない大きさになり、そして──

「──」

それは、私の前世の記憶だった。
私が最初で最後に飼った猫は、二十歳まで生きた。大往生だった。
私はその子を看取った後、看取った、後──

(お、思い出せない……!!)

記憶は朧気で、ところどころ思い出せない部分もあるけど。彼女との思い出だけはしっかり覚えていた。


私はウィルをしっかりと抱きしめながらも、顔を上げてベロニカを見た。

ベロニカは、私の厳しい雰囲気に狼狽えた様子だったが、私はそれに構わず彼女に告げた。

「猫たちは、私が貰います」

「え……」

「構わないでしょう?だってあなた、この子達の面倒見てないじゃない」

「それは──」

「反論する気?できるの?証人も証言も山ほど用意出来るけれど。それに、あなたが何と言おうと、これは決定事項です。私は王妃として、あなたからこの子達を取り上げます。ロイヤルガーデンに好き放題に放っていたんですもの。ロイヤルガーデンは王族わたしの庭。決定権は私にあります」

「な……何言ってるんですか!?猫は庭に入れちゃいけないんですか?酷いわ。こんなに可愛いのに!」

ベロニカと話しても徒労に終わることを知っていた私は、彼女の言葉を無視して踵を返した。

「話は終わりです。陛下にもこの件は報告しておきます」

「待って!!」

悲鳴のような声を上げて、ベロニカは私の肩を掴んできた。
それに、思わず眉を寄せる。
ベロニカは、切実な声で叫んだ。

「私からこの子を奪わないで!!」

(???)

さっき、汚いって振り払おうとしなかった?
なのに、手元に置いておこうとするの??

「猫や犬は、アクセサリーではないわよ」

「知ってますそんなこと!」

「あらそうなの。ご存知ないかと思ったわ。手を離してくださる?」

「この子を返して!!」

ベロニカは、ウィルを【この子】としか呼ばなかった。
名前を覚えていないのか、見分けがついていないのか。どちらにせよ、もうベロニカの元に置いておく気はなかった。

彼女の大声に、ウィルは可哀想に怯えてしまっている。
怖がる彼をしっかりと抱きしめ、彼の顔を隠すようにしながら、私は声を張り上げた。

「誰か!!来てちょうだい!!」



そして、駆けつけた近衛騎士によってベロニカは引き剥がされ、その間に私は城に戻った。

後日、ベロニカに泣きつかれたのだろう陛下からは嫌味交じりの抗議を受けることになった。

だけどそんなこと、もう既にどうでも良かった。

陛下には、彼には、確かに淡い恋心を抱いていた。
それは悔しいことに事実だ。黒歴史に違いないけれど、事実なのだ。
婚約中、彼の誠実(に見えた)態度と振る舞い。見せかけの優しさに、私は確かに、恋心を育んでいた。

だけど、結婚してから彼の打って変わった言動に苦しんだ。悩みながらも、それでも私は恋心を捨てきれずにいた。

──でも、今は。

(ばっかみたいだわ)

ベロニカのような女に引っかかってる時点で、あの男に魅力などない。
あんな女性ひとを愛する彼に、捧げる想いなどない。
彼の人間性には失望した。

その時、私は決めたのだ。

王妃なんてやめてやる、と。
都合よく使われる歯車であることをやめよう。私は私として、私の人生を歩もう、と。


そして、ベロニカの猫事件だけど。
実は、この件。後日談がふたつほどある。

まずひとつめは、あの時、ベロニカを抑えた近衛騎士──名前をルークと言う。

彼は、陛下から罰を受けることになった。
陛下の愛人であり高貴な身分の女性に乱暴を働いたとして、自宅謹慎を命じられたのだ。

それを知った私は、王妃の権限で陛下の命を取り消した。
もちろん、この時も陛下とは一悶着どころかふた悶着ぐらいあったけれど、それは瑣末事だ。

そういう訳もあって、私はそれ以来、ベロニカに絡まれても、私の指示があるまでは動かないよう、自身の近衛騎士や侍女には言い含めるようにしている。

また、ベロニカがふたたび動物を拾ってきて放置、なんてことが起きないよう私は【城内に生き物を持ち込むのは禁止】と新たに法案を通した。完全に職権乱用だけど、使える手は使わないと、ああいう人間はまた繰り返す。

だから、法を制定したのだ(そもそも、城に生き物を持ち込むひと自体が今までいなかったからこそなかった法律である)

そして、ふたつめ。
猫たちは、城では飼えないので(ひとの出入りが激しいのと、ベロニカが何をしてくるか分からないため)お父様に相談し、クラウゼニッツァーの邸で引き取ってもらうことになった。

お母様は、動物があまり得意ではないので最初警戒していたらしいが、今では誰よりも猫たちにメロメロだという。

そして猫たちは、あまり家にいないというのにお兄様にべったりだそうだ。お兄様が家にいると、後を追いかける程なのだとか。う、羨ましい。
お父様も、猫を可愛がってくれているようで手紙からそれが伝わってくる。

(本当は、私も猫ちゃんと一緒に生活したい……)

城では無理だけど、王妃をやめて──つまり離縁してしまえば、クラウゼニッツァーの邸に戻れる。
貴族の娘であることには変わりないのでいずれ私も再婚するだろうが、再婚相手は猫好きだといい。犬好きでもいい。
猫ちゃんもわんちゃんも可愛いことには変わりない。



王太后陛下と別れると、私は侍女と共に馬車留めへと向かった。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...