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1.城を出ていった悪妃
【クレメンティーナ】に戻ったような
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「急なトラブルはありましたが、午前中に出発できそうで良かったですわ」
サラサの言葉に、私も笑みを返す。
「そうね。向こうの天気はどうかしら。晴れてるといいのだけど」
今日は、出立にふさわしい快晴だ。
雲ひとつない鮮やかな青空を見上げ、私は目を細めた。
「晴れていたら、ニュンペー湖に寄りましょう。真夏のニュンペー湖は、冬とはまた違う美しさがあると有名ですもの」
サラサの言葉に、私は微笑みを返すと、頷いて答えた。
サラサとリリアが同じ場所に乗り込み、近衛騎士が馬で並走する。
後続の馬車には、メアリーが荷物と一緒に乗った。
目立たない質素な馬車に乗り込めば、後はもう目的地に向かって進むだけだ。
向かう場所は、ニュンペー地方。
季節問わず涼しいのが特徴で、通称──【猫の街】とも有名な場所だ。
(前世で言う、猫島ってやつよね)
うんうん、と頷いて私は窓の外を見る。
前世の記憶を取り戻して、王妃をやめる決意をした後。引き継ぎを進めながらも、まず私は、長期休暇を取得しようと思っていた。
物理的に城を離れたかったし、恐らく離縁手続きの際、陛下が横槍を入れてくるだろうと予想したためだ。
そして──何より、私が。
たくさんの猫ちゃんたちに囲まれて、猫成分を摂取したいのだった。
(前世は猫アレルギーで一匹しか飼えなかったけど……!!)
幸い、今世は猫アレルギーもなさそうだ。
城では王妃という立場上、猫を吸うことは出来なかった。
だけど、ニュンペー地方で、素性を隠せば──
(思う存分、堪能できると思うのよね……!!)
猫に囲まれたい。吸いたい。嗅ぎたい。
そんな強い思いで、長期休暇先として決めたのが、ニュンペー地方だった。
表情は取り繕いながらもワクワクして窓の外を見ていると、対面に座ったリリアが楽しそうに言った。
「ニュンペー地方では、猫を象ったグッズがたくさんあるそうですよ。髪飾りとか、ハンカチとか」
「楽しみですわね、王妃陛下」
サラサに呼びかけられ、「そうね」と答えた私は、続けて、ふと気になったことを口にした。
「もう、そう呼ばなくて結構よ」
「ですが──」
困惑した様子のサラサに、私は笑みを見せる。
「離縁するのだもの」
これは、決定だ。覆ることはない。
そう確信を抱けるくらいには、この半年間、準備と根回しをしてきた。
だから、私は笑って彼女たちに言った。
「私のことは、以前のようにクレメンティーナ、で構わないわ」
サラサが、驚いたように目を見開いた。
彼女は、私の三つ年上だ。幼い頃は、彼女を姉のように慕ったものだった。
私は、公爵邸で過ごした時間に思いを馳せながらも、続けて言った。
「……それに、今から行くニュンペー地方では、身分を隠さなければならないわ。【王妃陛下】なんて呼んたらすぐ、私が誰かわかってしまうもの」
そう言えば、ふたりともも納得したようだ。
サラサが、恐る恐る……というように、私の名を呼んだ。
「では、クレメンティーナ様」
「…………ええ」
随分久しぶりに、サラサに名を呼ばれた。
それが懐かしくもあり──嬉しくも、ある。
王妃という重荷を下ろした証のように、思えて。
返事をすると、彼女の隣に座るリリアも続けて、私の名を呼んだ。
「クッ……クレメンティーナ様……!」
「ええ。今後はそう呼んでちょうだい」
リリアにそう返事をしながら、私は──
ようやく、自分が【王妃】から【クレメンティーナ】に戻ったような、そんな、気がしていた。
サラサの言葉に、私も笑みを返す。
「そうね。向こうの天気はどうかしら。晴れてるといいのだけど」
今日は、出立にふさわしい快晴だ。
雲ひとつない鮮やかな青空を見上げ、私は目を細めた。
「晴れていたら、ニュンペー湖に寄りましょう。真夏のニュンペー湖は、冬とはまた違う美しさがあると有名ですもの」
サラサの言葉に、私は微笑みを返すと、頷いて答えた。
サラサとリリアが同じ場所に乗り込み、近衛騎士が馬で並走する。
後続の馬車には、メアリーが荷物と一緒に乗った。
目立たない質素な馬車に乗り込めば、後はもう目的地に向かって進むだけだ。
向かう場所は、ニュンペー地方。
季節問わず涼しいのが特徴で、通称──【猫の街】とも有名な場所だ。
(前世で言う、猫島ってやつよね)
うんうん、と頷いて私は窓の外を見る。
前世の記憶を取り戻して、王妃をやめる決意をした後。引き継ぎを進めながらも、まず私は、長期休暇を取得しようと思っていた。
物理的に城を離れたかったし、恐らく離縁手続きの際、陛下が横槍を入れてくるだろうと予想したためだ。
そして──何より、私が。
たくさんの猫ちゃんたちに囲まれて、猫成分を摂取したいのだった。
(前世は猫アレルギーで一匹しか飼えなかったけど……!!)
幸い、今世は猫アレルギーもなさそうだ。
城では王妃という立場上、猫を吸うことは出来なかった。
だけど、ニュンペー地方で、素性を隠せば──
(思う存分、堪能できると思うのよね……!!)
猫に囲まれたい。吸いたい。嗅ぎたい。
そんな強い思いで、長期休暇先として決めたのが、ニュンペー地方だった。
表情は取り繕いながらもワクワクして窓の外を見ていると、対面に座ったリリアが楽しそうに言った。
「ニュンペー地方では、猫を象ったグッズがたくさんあるそうですよ。髪飾りとか、ハンカチとか」
「楽しみですわね、王妃陛下」
サラサに呼びかけられ、「そうね」と答えた私は、続けて、ふと気になったことを口にした。
「もう、そう呼ばなくて結構よ」
「ですが──」
困惑した様子のサラサに、私は笑みを見せる。
「離縁するのだもの」
これは、決定だ。覆ることはない。
そう確信を抱けるくらいには、この半年間、準備と根回しをしてきた。
だから、私は笑って彼女たちに言った。
「私のことは、以前のようにクレメンティーナ、で構わないわ」
サラサが、驚いたように目を見開いた。
彼女は、私の三つ年上だ。幼い頃は、彼女を姉のように慕ったものだった。
私は、公爵邸で過ごした時間に思いを馳せながらも、続けて言った。
「……それに、今から行くニュンペー地方では、身分を隠さなければならないわ。【王妃陛下】なんて呼んたらすぐ、私が誰かわかってしまうもの」
そう言えば、ふたりともも納得したようだ。
サラサが、恐る恐る……というように、私の名を呼んだ。
「では、クレメンティーナ様」
「…………ええ」
随分久しぶりに、サラサに名を呼ばれた。
それが懐かしくもあり──嬉しくも、ある。
王妃という重荷を下ろした証のように、思えて。
返事をすると、彼女の隣に座るリリアも続けて、私の名を呼んだ。
「クッ……クレメンティーナ様……!」
「ええ。今後はそう呼んでちょうだい」
リリアにそう返事をしながら、私は──
ようやく、自分が【王妃】から【クレメンティーナ】に戻ったような、そんな、気がしていた。
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