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〈幕間〉ベロニカ・ベルネット
面白い場所
しおりを挟むクレメンティーナが城を去った後──
ブライアンに牢から出してもらったベロニカは鬱々としながら歩いていた。
(あのおばあさん、頭がおかしすぎるわ!私が若くて美人だからって嫉妬?ババアの嫉妬ほど救いようのないものってないわよね)
ベロニカの後を、騎士と侍女が追従してくる。
いつも、彼女はひとり行動をしているのになぜ、今はいるのか。
それは、ベロニカを心配したブライアンが急遽命じたからだ。
ちなみに、伯爵令嬢であり王の愛人であるベロニカにも、最初護衛騎士や侍女はもちろんいた。
だけど彼女の思いつきで振り回されたり、あることないこと言われて罰を受ける繰り返しで、職を辞す侍女が急増したのだ。
侍女が辞職する度に、ベロニカは苛立った。
自分は何も悪くないのに、まるで自分に非があるように感じてしまう。しかも、侍女は鬱陶しい。ベロニカのやることに口出ししてきて、頭の固い人間が多すぎる。
結果、彼女はブライアンに侍女も騎士もいらない、と伝えたのだった。
侍女も騎士もクレメンティーナの息がかかっているのか、ベロニカを見る目は冷たく、いつも批判しているように見える。
自分は、そんな目を向けられていい人間ではないというのに。
ブライアンにクレメンティーナからの嫌がらせを報告すると、彼はクレメンティーナに怒った。
『僕がきみを守るから』というブライアンの言葉はあたたかく、彼女を包んだ。
その時のことを思い返してにんまりしたベロニカは、しかし背後の気配に、うんざりとため息を吐く。
(……ぞろぞろ連れ歩かれたら面倒で仕方ないわ。私の思うように動けないし)
騎士も侍女も、見るからに頭が固そうで、クレメンティーナと似たものを感じる。
ベロニカへの親愛は敬愛は感じない。
それもまた、イライラする。
(私はいずれこの国の妃になるの。この国でもっとも高貴な女になるのよ)
ブライアンもそう言っていた。
あのばばあや、鼻持ちならないクレメンティーナよりも偉くなるのだ。
そしたら──そしたらそしたら!!
その時のことを考え、ベロニカは気分が高揚した。
王太后によって牢に入れられるというハプニングは、彼女に強いストレスを与えた。
(なぜ私がこんな目にあわなきゃなんないのよ)
イライラしたベロニカは、そこでピタリと足を止める。
ふと、彼女は思い出したのである。
(そうだわ。面白い場所がある)
ブライアンからは決して近付かないように、と言われている場所。
『もし何かあったら、きみを守りきれないから』とブライアンはそう言い添えた。
だけどベロニカはそんなの本気にしていない。
彼女は常に、何とかなるだろう(誰かが何とかしてくれるだろう)の思いだけで動いているからだ。
(ブライアンだって本気で言ったわけではないでしょうし)
そもそも、それならその話をベロニカにしなければいい。そんな、思わせぶりに言われたら逆に興味が湧くじゃない。
あのひとは、そんなことすらわからない阿呆ではない。
つまりこれは──ベロニカに、【気になったのなら入ってみるといいよ】という言外のメッセージ。
そう思ったベロニカは、先程まで牢に入れられていた鬱屈も消え、ワクワクとした足取りで回廊を歩いた。
(鬱陶しい騎士や侍女はどうしようかな。クレメンティーナ様のように空気の読めないバカっぽいし……うーん)
考えた末、ベロニカはくるり、と振り返った。
驚いた騎士と侍女が彼女を見る。ベロニカは、口元に指先を当てて、こてん、と首を傾げた。
「ねえ。陛下があなたたちを呼んでたわ。急いだ方がいいんじゃない?」
「…………」
侍女が怪訝に眉を寄せる。
その隣で、騎士が冷静な声を出した。
「……我々は、ベロニカ様の護衛を任されております。お側を離れることはできません」
「陛下の命令に従わないというの?」
「……代わりのものを呼んで参ります。それまでお待ちいただけますでしょうか」
「嫌よ。私、この後用事があるの。陛下には私から言っておくわ。陛下は心配性なのよ。クレメンティーナ様が私に意地悪ばかりするでしょう?だから、過保護になっているの。彼女がなにかしてくるんじゃないかって彼は心配なのよ」
ベロニカのあんまりな物言いに、騎士は顔を強ばらせた。
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