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2.悪妃は余暇を楽しみたい
ふわぁっ
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「ね…………」
ね──猫ちゃんだわ~~~~!!!
(やって参りました!!猫の街!!)
すごい、あちこちに猫がいる。
流石、猫の街だわ!!!!
私は立場も忘れて興奮していた。
視界には、猫、猫、猫、猫!!
至る所に猫がいる。
すごい、まさに人も歩けば猫にあたる、状態。
リリアやサラサ、メアリーたちの手前、喜びの踊りを披露することは出来ないが、私は密かに手をぎゅっと握りしめた。
ニュンペー地方。
通称──猫の街。
街は馬車での通行が禁止(馬も禁止)されているため、徒歩で向かうと、大通りには観光客で賑わっていた。
その足元には…………
(猫、チャンッ…………!!!!)
心の中で、甲高い声を零す。
可愛い、なんて言う可愛さなの。破壊的な可愛さだわ。世界取れる。
大通りには様々な猫がいた。
サビ猫、ブチ猫、白猫、キジトラ猫……。多種多様な猫がのんびりと歩いている。
道端で寝ている猫もいた。
関所を通る際、観光案内パンフレットも貰った。
そこによると『猫は気まぐれな生き物だから、彼らの調子がいい時だけ触るように』と厳重に書かれていた。
(そうよね、猫ちゃんは気まぐれだものね)
流石、猫の街と名高い場所だ。
観光客はみな猫好きらしく、至る所に猫グッズが溢れている。猫の髪留めをしている女性もいれば、猫の柄物シャツを着ている男性もいた。
「すごいですわね……王妃へい──クレメンティーナ様!」
メアリーが興奮したように私を呼ぶ。
それに、頷いて答える。
大通りの露天では、人間の食事の他に、猫の餌やオヤツも売っているようだ。
サラサが私に尋ねた。
「少し行くと、牧場もあるようです。いかがしますか?」
「そうね……。まずはここで食事をしてから、宿泊先に向かいましょうか」
宿は、ニュンペーの街、つまりここで取っている。食事を取ってからチェックインし、荷物を置いてから動くのがいいだろう。
答えると、サラサが心得た、というように頷いた。
その後ろで、騎士のルークとケヴィンが物珍しそうに、あちこちに散らばる猫を見ている。
私は、彼らを振り向いてから、言った。
「では、ここからは別行動をしましょう!」
☆
私たちは全員で、六人。
この人数で動くと、流石に目立つ。
これはお忍び旅行なのだし、私の身分が露呈したら、周りが気を使うだろう。それは、私の望むところではない。
そのため、私たちはふたつグループに別れることにした。
私はルーク、ケヴィンと行動する。
もうひとつのグループは、メアリーとリリアとサラサの三人だ。
別行動を提案すると、やはり彼らは渋ったが、そこは、身分が露呈するといけないと説得した。
そして、最終的に『騎士のふたりと行動するなら』ということで合意してもらい──今に至る。
「いらっしゃい、いらっしゃい!今なら猫ちゃんクッキーが焼きたてだよ!」
「猫ちゃんの刺繍はいかがですか?旅の思い出に!」
「猫ちゃんを象った氷花もありますよ!」
大通りはすごい人通りだ。
活気があり、ほとんどのひとが手に猫のグッズを持っている。
「パラダイスだわ……」
「クレメンティーナ様?」
背後からルークに尋ねられ、ハッとする。
思わず、本音が口から零れてしまい、咄嗟に口を手で覆った。
(いけない、いけない……。今の私は王妃ではなく、ここは城でもない。だけど、彼らの主には違いないのだから、あまりみっともない姿は)
……と、思ったその時。
足元に、ふわりとした感触が触れた。
瞬間的に、足を止める。
「──」
こ……れ、は!!
下を向くと、そこにはやはり、一匹の猫ちゃんがいた。
真っ白の猫ちゃんは、私を見ると蠱惑的にその場に転がってみせた。
そう。まるで──
体をくねらせ『撫でてもいいのよ?』と言わんばかりにお腹をみせているじゃないの……!!
「っ……」
「クレメンティーナ様?この後は──」
「にゃぁ~~ん」
ルークの声に被せるように、猫ちゃんが鳴く。
自分が可愛いとわかっている声である。
甘えた、高い鳴き声が聞こえ──私は思わず、その場に膝をついていた。
「クレメンティーナ様!?」
驚くふたりに、口元に人差し指をあて、静かに、と指示を出す。
というか、クレメンティーナ【様】と呼ばれたらそのうち正体が露見しそうな気がする。
偽名を考えるべきかしら……。
そんなことを思いながら、猫ちゃんのお腹にそろそろと手を伸ばした。
……ふわぁっ。
「──」
ふわふわ!!ふわっふわ!!
そのあまりの柔らかな感覚に、私は思わず手を止めた。猫ちゃんは満更でもないのか、さらに体をくねくねとさせている。
「かっ」
「か?」
私にならって隣にケヴィンが腰を下ろし、聞き返してきた。それに、私は言葉を返す。
もう、理性がどこかにお出かけしてしまっていた。
「かわいい……………………っ!!!!」
もう、本音は抑えようがなかった。
「な~~ん」
(鳴き声も可愛いわ!やばい!可愛い!!可愛すぎる~~!!)
猫ちゃんバンザイ。
そして今世は猫アレルギーではないこの体に感謝。
私は猫ちゃんを撫でくり、撫でくり、しながらその感触を堪能した。
そう。これ、これよ~~!
私は城でもこうやって猫ちゃんを可愛がりたかったの……!
王妃だとか、立場だとか、そういうの忘れて、『可愛いでちゅね~~!』ってやりたかったのよ……!!!!
ゆっくり手を滑らせる。
「んー……」
猫ちゃんは、嫌がらなかった。
ごろごろと言っているのが聞こえる。
私は、にっこり、笑みを浮かべて魔法を放つ。
「κάθαρση」
水魔法と火魔法の混合魔法のひとつ、浄化魔法である。
ギョッと隣のケヴィンが驚いているがそれに構わず──私は猫ちゃんのお腹、つまりモフモフの毛に顔を近づけようとした。
いわゆる猫吸いである。
猫ちゃんが好きな人間なら誰しもがする、あれである。
前世は猫アレルギーがあり、今世は王妃という体裁があり、出来なかった。
お忍び旅行で、誰も私の素性を知らない今だからこそ、できるふわふわ堪能技。
それをいざ味わおうとした、その時。
「あっ……こら!待ちなさい、それは──」
どこかで聞いたことのある声が、聞こえてきた。
「え?あっ──キャッ!!ゔえっ」
振り返ると同時、何かが顔にぶつかってきた。
それは柔らかくふわふわとした感触──と同時に、ベチャ、という嫌な音。
最悪なドミノ倒しが起きた気がした。
ね──猫ちゃんだわ~~~~!!!
(やって参りました!!猫の街!!)
すごい、あちこちに猫がいる。
流石、猫の街だわ!!!!
私は立場も忘れて興奮していた。
視界には、猫、猫、猫、猫!!
至る所に猫がいる。
すごい、まさに人も歩けば猫にあたる、状態。
リリアやサラサ、メアリーたちの手前、喜びの踊りを披露することは出来ないが、私は密かに手をぎゅっと握りしめた。
ニュンペー地方。
通称──猫の街。
街は馬車での通行が禁止(馬も禁止)されているため、徒歩で向かうと、大通りには観光客で賑わっていた。
その足元には…………
(猫、チャンッ…………!!!!)
心の中で、甲高い声を零す。
可愛い、なんて言う可愛さなの。破壊的な可愛さだわ。世界取れる。
大通りには様々な猫がいた。
サビ猫、ブチ猫、白猫、キジトラ猫……。多種多様な猫がのんびりと歩いている。
道端で寝ている猫もいた。
関所を通る際、観光案内パンフレットも貰った。
そこによると『猫は気まぐれな生き物だから、彼らの調子がいい時だけ触るように』と厳重に書かれていた。
(そうよね、猫ちゃんは気まぐれだものね)
流石、猫の街と名高い場所だ。
観光客はみな猫好きらしく、至る所に猫グッズが溢れている。猫の髪留めをしている女性もいれば、猫の柄物シャツを着ている男性もいた。
「すごいですわね……王妃へい──クレメンティーナ様!」
メアリーが興奮したように私を呼ぶ。
それに、頷いて答える。
大通りの露天では、人間の食事の他に、猫の餌やオヤツも売っているようだ。
サラサが私に尋ねた。
「少し行くと、牧場もあるようです。いかがしますか?」
「そうね……。まずはここで食事をしてから、宿泊先に向かいましょうか」
宿は、ニュンペーの街、つまりここで取っている。食事を取ってからチェックインし、荷物を置いてから動くのがいいだろう。
答えると、サラサが心得た、というように頷いた。
その後ろで、騎士のルークとケヴィンが物珍しそうに、あちこちに散らばる猫を見ている。
私は、彼らを振り向いてから、言った。
「では、ここからは別行動をしましょう!」
☆
私たちは全員で、六人。
この人数で動くと、流石に目立つ。
これはお忍び旅行なのだし、私の身分が露呈したら、周りが気を使うだろう。それは、私の望むところではない。
そのため、私たちはふたつグループに別れることにした。
私はルーク、ケヴィンと行動する。
もうひとつのグループは、メアリーとリリアとサラサの三人だ。
別行動を提案すると、やはり彼らは渋ったが、そこは、身分が露呈するといけないと説得した。
そして、最終的に『騎士のふたりと行動するなら』ということで合意してもらい──今に至る。
「いらっしゃい、いらっしゃい!今なら猫ちゃんクッキーが焼きたてだよ!」
「猫ちゃんの刺繍はいかがですか?旅の思い出に!」
「猫ちゃんを象った氷花もありますよ!」
大通りはすごい人通りだ。
活気があり、ほとんどのひとが手に猫のグッズを持っている。
「パラダイスだわ……」
「クレメンティーナ様?」
背後からルークに尋ねられ、ハッとする。
思わず、本音が口から零れてしまい、咄嗟に口を手で覆った。
(いけない、いけない……。今の私は王妃ではなく、ここは城でもない。だけど、彼らの主には違いないのだから、あまりみっともない姿は)
……と、思ったその時。
足元に、ふわりとした感触が触れた。
瞬間的に、足を止める。
「──」
こ……れ、は!!
下を向くと、そこにはやはり、一匹の猫ちゃんがいた。
真っ白の猫ちゃんは、私を見ると蠱惑的にその場に転がってみせた。
そう。まるで──
体をくねらせ『撫でてもいいのよ?』と言わんばかりにお腹をみせているじゃないの……!!
「っ……」
「クレメンティーナ様?この後は──」
「にゃぁ~~ん」
ルークの声に被せるように、猫ちゃんが鳴く。
自分が可愛いとわかっている声である。
甘えた、高い鳴き声が聞こえ──私は思わず、その場に膝をついていた。
「クレメンティーナ様!?」
驚くふたりに、口元に人差し指をあて、静かに、と指示を出す。
というか、クレメンティーナ【様】と呼ばれたらそのうち正体が露見しそうな気がする。
偽名を考えるべきかしら……。
そんなことを思いながら、猫ちゃんのお腹にそろそろと手を伸ばした。
……ふわぁっ。
「──」
ふわふわ!!ふわっふわ!!
そのあまりの柔らかな感覚に、私は思わず手を止めた。猫ちゃんは満更でもないのか、さらに体をくねくねとさせている。
「かっ」
「か?」
私にならって隣にケヴィンが腰を下ろし、聞き返してきた。それに、私は言葉を返す。
もう、理性がどこかにお出かけしてしまっていた。
「かわいい……………………っ!!!!」
もう、本音は抑えようがなかった。
「な~~ん」
(鳴き声も可愛いわ!やばい!可愛い!!可愛すぎる~~!!)
猫ちゃんバンザイ。
そして今世は猫アレルギーではないこの体に感謝。
私は猫ちゃんを撫でくり、撫でくり、しながらその感触を堪能した。
そう。これ、これよ~~!
私は城でもこうやって猫ちゃんを可愛がりたかったの……!
王妃だとか、立場だとか、そういうの忘れて、『可愛いでちゅね~~!』ってやりたかったのよ……!!!!
ゆっくり手を滑らせる。
「んー……」
猫ちゃんは、嫌がらなかった。
ごろごろと言っているのが聞こえる。
私は、にっこり、笑みを浮かべて魔法を放つ。
「κάθαρση」
水魔法と火魔法の混合魔法のひとつ、浄化魔法である。
ギョッと隣のケヴィンが驚いているがそれに構わず──私は猫ちゃんのお腹、つまりモフモフの毛に顔を近づけようとした。
いわゆる猫吸いである。
猫ちゃんが好きな人間なら誰しもがする、あれである。
前世は猫アレルギーがあり、今世は王妃という体裁があり、出来なかった。
お忍び旅行で、誰も私の素性を知らない今だからこそ、できるふわふわ堪能技。
それをいざ味わおうとした、その時。
「あっ……こら!待ちなさい、それは──」
どこかで聞いたことのある声が、聞こえてきた。
「え?あっ──キャッ!!ゔえっ」
振り返ると同時、何かが顔にぶつかってきた。
それは柔らかくふわふわとした感触──と同時に、ベチャ、という嫌な音。
最悪なドミノ倒しが起きた気がした。
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