〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。

文字の大きさ
18 / 48
2.悪妃は余暇を楽しみたい

ふわぁっ

しおりを挟む
「ね…………」

ね──猫ちゃんだわ~~~~!!!

(やって参りました!!猫の街!!)

すごい、あちこちに猫がいる。
流石、猫の街だわ!!!!

私は立場も忘れて興奮していた。

視界には、猫、猫、猫、猫!!
至る所に猫がいる。
すごい、まさに人も歩けば猫にあたる、状態。

リリアやサラサ、メアリーたちの手前、喜びの踊りを披露することは出来ないが、私は密かに手をぎゅっと握りしめた。

ニュンペー地方。
通称──猫の街。

街は馬車での通行が禁止(馬も禁止)されているため、徒歩で向かうと、大通りには観光客で賑わっていた。

その足元には…………

(猫、チャンッ…………!!!!)

心の中で、甲高い声を零す。
可愛い、なんて言う可愛さなの。破壊的な可愛さだわ。世界取れる。

大通りには様々な猫がいた。
サビ猫、ブチ猫、白猫、キジトラ猫……。多種多様な猫がのんびりと歩いている。
道端で寝ている猫もいた。

関所を通る際、観光案内パンフレットも貰った。
そこによると『猫は気まぐれな生き物だから、彼らの調子がいい時だけ触るように』と厳重に書かれていた。

(そうよね、猫ちゃんは気まぐれだものね)

流石、猫の街と名高い場所だ。
観光客はみな猫好きらしく、至る所に猫グッズが溢れている。猫の髪留めをしている女性もいれば、猫の柄物シャツを着ている男性もいた。

「すごいですわね……王妃へい──クレメンティーナ様!」

メアリーが興奮したように私を呼ぶ。
それに、頷いて答える。

大通りの露天では、人間の食事の他に、猫の餌やオヤツも売っているようだ。
サラサが私に尋ねた。

「少し行くと、牧場もあるようです。いかがしますか?」

「そうね……。まずはここで食事をしてから、宿泊先に向かいましょうか」

宿は、ニュンペーの街、つまりここで取っている。食事を取ってからチェックインし、荷物を置いてから動くのがいいだろう。

答えると、サラサが心得た、というように頷いた。

その後ろで、騎士のルークとケヴィンが物珍しそうに、あちこちに散らばる猫を見ている。
私は、彼らを振り向いてから、言った。

「では、ここからは別行動をしましょう!」







私たちは全員で、六人。
この人数で動くと、流石に目立つ。
これはお忍び旅行なのだし、私の身分が露呈したら、周りが気を使うだろう。それは、私の望むところではない。
そのため、私たちはふたつグループに別れることにした。
私はルーク、ケヴィンと行動する。
もうひとつのグループは、メアリーとリリアとサラサの三人だ。

別行動を提案すると、やはり彼らは渋ったが、そこは、身分が露呈するといけないと説得した。

そして、最終的に『騎士のふたりと行動するなら』ということで合意してもらい──今に至る。



 
「いらっしゃい、いらっしゃい!今なら猫ちゃんクッキーが焼きたてだよ!」

「猫ちゃんの刺繍はいかがですか?旅の思い出に!」

「猫ちゃんを象った氷花アイスフラワーもありますよ!」

大通りはすごい人通りだ。
活気があり、ほとんどのひとが手に猫のグッズを持っている。

「パラダイスだわ……」

「クレメンティーナ様?」

背後からルークに尋ねられ、ハッとする。
思わず、本音が口から零れてしまい、咄嗟に口を手で覆った。

(いけない、いけない……。今の私は王妃ではなく、ここは城でもない。だけど、彼らの主には違いないのだから、あまりみっともない姿は)

……と、思ったその時。

足元に、ふわりとした感触が触れた。
瞬間的に、足を止める。

「──」

こ……れ、は!!

下を向くと、そこにはやはり、一匹の猫ちゃんがいた。

真っ白の猫ちゃんは、私を見ると蠱惑的にその場に転がってみせた。

そう。まるで──
体をくねらせ『撫でてもいいのよ?』と言わんばかりにお腹をみせているじゃないの……!!

「っ……」

「クレメンティーナ様?この後は──」

「にゃぁ~~ん」

ルークの声に被せるように、猫ちゃんが鳴く。

自分が可愛いとわかっている声である。
甘えた、高い鳴き声が聞こえ──私は思わず、その場に膝をついていた。

「クレメンティーナ様!?」

驚くふたりに、口元に人差し指をあて、静かに、と指示を出す。
というか、クレメンティーナ【様】と呼ばれたらそのうち正体が露見しそうな気がする。
偽名を考えるべきかしら……。

そんなことを思いながら、猫ちゃんのお腹にそろそろと手を伸ばした。

……ふわぁっ。

「──」

ふわふわ!!ふわっふわ!!

そのあまりの柔らかな感覚に、私は思わず手を止めた。猫ちゃんは満更でもないのか、さらに体をくねくねとさせている。

「かっ」

「か?」

私にならって隣にケヴィンが腰を下ろし、聞き返してきた。それに、私は言葉を返す。
もう、理性がどこかにお出かけしてしまっていた。

「かわいい……………………っ!!!!」

もう、本音は抑えようがなかった。

「な~~ん」

(鳴き声も可愛いわ!やばい!可愛い!!可愛すぎる~~!!)

猫ちゃんバンザイ。
そして今世は猫アレルギーではないこの体に感謝。
私は猫ちゃんを撫でくり、撫でくり、しながらその感触を堪能した。

そう。これ、これよ~~!
私は城でもこうやって猫ちゃんを可愛がりたかったの……!

王妃だとか、立場だとか、そういうの忘れて、『可愛いでちゅね~~!』ってやりたかったのよ……!!!!

ゆっくり手を滑らせる。

「んー……」

猫ちゃんは、嫌がらなかった。
ごろごろと言っているのが聞こえる。
私は、にっこり、笑みを浮かべて魔法を放つ。

「κάθαρση」

水魔法と火魔法の混合魔法のひとつ、浄化魔法である。
ギョッと隣のケヴィンが驚いているがそれに構わず──私は猫ちゃんのお腹、つまりモフモフの毛に顔を近づけようとした。
いわゆる猫吸いである。
猫ちゃんが好きな人間なら誰しもがする、あれである。

前世は猫アレルギーがあり、今世は王妃という体裁があり、出来なかった。
お忍び旅行で、誰も私の素性を知らない今だからこそ、できるふわふわ堪能技。
それをいざ味わおうとした、その時。


「あっ……こら!待ちなさい、それは──」

どこかで聞いたことのある声が、聞こえてきた。

「え?あっ──キャッ!!ゔえっ」

振り返ると同時、何かが顔にぶつかってきた。
それは柔らかくふわふわとした感触──と同時に、ベチャ、という嫌な音。

最悪なドミノ倒しが起きた気がした。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...