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2.悪妃は余暇を楽しみたい
お帰りくださいませ。
しおりを挟む私たちは、宿に併設している食堂で食事をとることにした。
そして、食事を終えると、私は彼らを部屋に呼び、今後の方針を共有する。
部屋に置かれた一対のソファに、私とメアリー、リリアが座り、その対面にケヴィンとルークが座る。
リリアは、宿の使用人に呼び止められ、今は不在だ。
彼女には後で話の内容を伝えるとして──私は、彼らに言った。
「もし、ベルネット伯爵が偽りの報告をしているのなら見過ごすことは出来ないわ」
私の言葉に、サラサが頷いて答えた。
「では、ルーンケン卿に協力されるということでよろしいでしょうか」
「ええ。とはいっても、ここでできることは限られている。住民からの聞き取り調査を終えて、何も収穫がなかったら長期休暇は中止にするしかないわね……」
一度王城に戻るか、この地を預かる代行領主の話を聞きに行くか。
もし、ベルネット伯爵が黒なら、代行領主も共犯の可能性が高い。
(王妃を辞めると決めけど、今の私はまだ王妃という立場にあるのだし──)
それに、立ち寄った土地でこんなハプニングに巻き込まれるとは思っていなかったが、これも運命だと思うことにしよう。
(よし。最後の仕事だと思って、頑張りましょう!)
そう思いながら顎元に指先を当てて今後の予定を考えていると、扉がノックされた。
入室してきたのは、リリアだ。
彼女は困惑の色を浮かべながら、私に言った。
「クレメンティーナ様。今、よろしいでしょうか」
「どうしたの?」
戸惑う彼女に尋ねると、リリアは眉を下げ、言った。
「先程、城からの報告を受け取りました。それによると……あの」
彼女はおずおずと、私に手紙のようなものを差し出した。
どうやら、城からの報告書のようだ。
封は既に切られている。
口ごもるリリアを不思議に思いながら、私は封筒の中から一枚の手紙を取り出した。
紙面に目を走らせ──思わず、素っ頓狂な声がこぼれた。
「はあ?」
そう。
もはやそう言うしかなかった。
なぜなら、紙面には
【国王陛下が出立された。近く、ニュンペーの街にお立ち寄りになる】
と、記されていたからである。
「なっ……どういうこと?」
「クレメンティーナ様。報告はなんと?」
サラサが尋ねる。
見れば、ケヴィンやルーク、メアリーも問うように私を見ていた。
私は、手紙をテーブルの上に置き、端的に答えた。
「陛下がいらっしゃるそうよ」
(本当に何で??)
まさか私を追いかけてきたり………って、
(そんなわけないわよね~~~~!!)
だって陛下は私がお嫌いなのだし。わざわざ追ってくるはずがない……わよね……!?
え、嫌。
本当に、来られたら困るのだけど。
何しに来るのよ本当に。
お帰りくださいませ。
その場に、重たい沈黙が落ちた。
「…………」
みな、しばらく沈黙していたが静寂を破るように口を開いたのは、メアリーだった。
「城に戻られますか?」
彼女を見ると、メアリーは冗談で言っているわけではないようだ。彼女は真剣な顔をして、私を見ていた。
「今戻れば、陛下とお会いすることは避けられます」
「……メアリーの言う通りです。調査は、城でもできるのではありませんか?あるいは、クラウゼニッツァーの邸宅にお戻りになるのはいかがでしょうか」
続けて提案してきたのは、サラサだ。
(このままニュンペーの街に留まれば、陛下との対面は免れない……)
だけど、ルーンケン卿の言葉が気になる。
このまま、放り出していいとも思えない。
私は、報告を受けたリリアに尋ねた。
「陛下はなぜこちらにいらっしゃるの?」
「それは……聞いておりません。ただ、ここにいらっしゃる、とだけ」
「クレメンティーナ様を追われたのでしょうね」
サラサが、嫌すぎる推測を口にした。
思わず眉を寄せると彼女は再度、私に尋ねてきた。
「どうなさいますか?王妃陛下。私どもは、王妃陛下のお言葉に従います」
彼女が、クレメンティーナ、ではなく、王妃と呼んだのは、もうすぐ陛下がこの地にやってくるからだろう。
彼がここに来てしまえば、必然、私はふたたび【王妃の仮面】を被らなければならない。
だから、サラサは尋ねているのだ。
王妃に戻るか、クレメンティーナのままクラウゼニッツァーの邸宅に戻るか。
「…………」
僅かな沈黙の後、私は苦笑した。
肩を竦め、ため息を吐いた。
「そうね。仕方ないわね……」
もう、こうなってしまったら仕方ない。
私は、サラサの質問に答えるように、はっきりと言った。
「陛下がいらっしゃる前に、早急に問題は片付けましょう。その上で、陛下にはさっさと城にお帰りいただくわ」
私の言葉に、サラサとメアリー、リリアが頷いて答えた。
ケヴィンとルークも同意のようだ。
(……なぜ陛下がここに来るかは分からないけれど。国王が、安易に城を不在にしていいわけがないわ)
なんと言って出立してきたのかは分からないが、早いところ、宰相あたりに連絡して引き取ってもらおうと思う。
(……となると、時間は限られるわね……)
早急に問題を片付けなければならないのだから、急いで動かなければ。
そう思った私は、忙しくなる予感に大きく伸びをした。
私の長期休暇は始まったばかりなのだから。
誰にも、邪魔はさせない。
何せ、まだ私は猫吸いすら出来ていないのである。
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