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2.悪妃は余暇を楽しみたい
庇いきれなかったら
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更新、間が空いてしまって申し訳ないです!
ちょこちょこ更新していきますので、お付き合いいただけますと幸いです…!
また、19話「鬼教官と三年前の記憶」以降、大幅に加筆修正しています。その関係で、24話がめちゃくちゃ長くなってしまったので、半分に切っています。
読み返していただけますととても嬉しいです~よろしくお願いします。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
こう言うと誤解を招きそうだが、私は彼を苦手としているが、決して嫌いではない。
ただ、効率厨というか、利己的だと思っていたので、他人を慮る配慮ができるのか、と単純に驚いたのである。
(……いや、どういっても酷いわね。まあいいか)
本人に聞かれている訳でも無いのだし。
彼の、白銀のまつ毛が伏せられる。
冷たい風が吹いて、彼の銀髪が揺れた。
私は、話をまとめてしまおうと、言葉を続ける。
「ですから、彼女には役目を果たしてもらいたいと思います。ベルネット伯爵が汚職をしているのなら、相応の責任は取ってもらう必要はありますが……それは、彼女個人への感情とは関係がありません」
「さすが、陛下の代わりに執務をされているだけありますね」
「褒めてます?」
「貶める意図はありません」
ハッキリ答えてから、彼はまた悩むように数秒沈黙した後、私に尋ねた。
「割り切っている、ということでしょうか?」
「……おっしゃる通りでしょうね。公人と個人の思いは、それぞれ別です」
ルーンケン卿とこんな話をすることになったのは想定外ではあるが、これはいい機会でもあった。
言葉にすることで、改めて私は私の気持ちを整理できた気がする。
(クレメンティーナ個人としては、ベロニカが嫌い)
それはそうだろう。
あんな女、といったら言葉が悪いが、彼女を好きになれる人間がいるなら見てみたい。
とはいえ、王妃としては、彼女の利用価値、存在価値を理解している。
(直系が途絶えたら困るものねー。まあ仕方ないか)
そんなわけで、私は私自身の気持ちとは、折り合いをつけていた。
「そろそろ解散にしましょうか」
風が冷たい。本日の話し合いはこの辺りにして、もうそろそろ解散するべきだろう。
私がそう言うとルーンケン卿がため息を吐いた。
「なんとも、あなたらしいですね」
「……そうでしょうか?」
意図が掴めず、首を傾げた。
それに、彼が頷く。
「ええ。私としては」
ルーンケン卿も、そろそろ話を終わりにしようと思ったのだろう。
彼は席を立ち、言葉を続けた。
「あなたはもっと、ご自身の幸せを追いかけてもいいかと思いますが」
「それは──」
つまり、好きなことをして生きてもいいんじゃないか、的な、あれかしら?
まさか彼がそんなことを言うとは思わなかったので、目を見張る。
ルーンケン卿は、言うべきでは無い言葉が滑り落ちた、とでも言わん様子で言った。
「失礼。これは、ただの独り言です」
それにどう返答すべきか悩んでいると、彼はさっさと話を終わらせてしまった。
「では、また明日。ニュンペー湖の入口で落ち合いましょう。詳しい時間は、そちらの侍女に追って連絡します」
「……分かりました」
「おやすみなさい、クレメンティーナ様。いい夢を」
それだけ言うと、ルーンケン卿はそのまま去ってしまう。
残されたのは、彼の意外な様子に少し驚いた私と、騎士のケヴィン、そして侍女のサラサである。
私も席を立つと、サラサが感嘆したように言葉を零した。
「驚きましたね」
「あなたもそう思う?」
振り返って聞き返す。サラサは苦笑しながら頷いた。
「場所が変わったことで、ルーンケン卿も取り繕う必要が無くなったのかもしれませんね」
「…………ん?」
「さ、クレメンティーナ様。宿に戻りましょう。ニュンペーの夜は冷えますから」
サラサは手に持っていた薄手のブランケットを私の肩にかけながら言った。
「サラサ。取り繕う必要がなくなった、というのは?」
私は有難くそのブランケットを受け取りながら彼女に尋ねる。それに、サラサは首を傾げ、答えた。
「そのままの意味ですわ。随分正直になられたな、と」
「……彼、あんなひとだったかしら。随分、その」
優しい、というか。
親切、というか。
いきなり優しくされると、ちょっと、恐怖を覚えるというものだ。
彼にはとんでもなく失礼な話かもしれないけれど。
うまくこの気持ちを言語化できずもどかしい思いに駆られていると、サラサが納得したように「ああ」と言った。
「確かに分りにくい方かもしれませんね。ですが、私どもは離れたところから見ておりますので──」
サラサはそこで言葉を止めると、悩むようにしながらも続きを口にした。
「目は口ほどに物を言う、とよく言うでしょう?」
「……彼は元々ああいうひとだった、と?」
(そんなばかな)
それならいくら何でも私だって気がついている。
少なくともこの三年、彼とは一緒に仕事をしていたのだから。
私の言葉に、今度はサラサがきょとんとした。
「ああいうひと、というのが何を指すのかが分かりかねますが……。そうですね。以前から、クレメンティーナ様をご心配されていたとは思います」
サラサの意外な言葉に、私は一瞬言葉を失った。
(うっ……そだぁ!)
とは、流石に彼女の前では言えない。
その代わり、私は苦く笑って、誤魔化すように言った。
「それは知らなかったわ……」
「ルーンケン卿は厳しい方ですからね。さあ、クレメンティーナ様、戻りましょう」
サラサに急かされて、私はようやく動き出した。
ルーンケン卿のことはさておき。
(もし、ベルネット伯爵の不祥事でベロニカが立場を失うようなことがあれば──)
陛下は、どうするのだろう。
ベロニカを擁護する?
それは間違いないだろう。
私の今後の人生全ての幸運を賭けてもいい。
(だけど、それでも庇いきれなかったら?)
「…………」
その【もしも】を考えると頭が痛む。
絶対、間違いなく揉めるからだ。
とはいえ、まずは明日、例の場所に行ってから考えるとしよう。
そう思い、私は宿に戻った。
ちょこちょこ更新していきますので、お付き合いいただけますと幸いです…!
また、19話「鬼教官と三年前の記憶」以降、大幅に加筆修正しています。その関係で、24話がめちゃくちゃ長くなってしまったので、半分に切っています。
読み返していただけますととても嬉しいです~よろしくお願いします。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
こう言うと誤解を招きそうだが、私は彼を苦手としているが、決して嫌いではない。
ただ、効率厨というか、利己的だと思っていたので、他人を慮る配慮ができるのか、と単純に驚いたのである。
(……いや、どういっても酷いわね。まあいいか)
本人に聞かれている訳でも無いのだし。
彼の、白銀のまつ毛が伏せられる。
冷たい風が吹いて、彼の銀髪が揺れた。
私は、話をまとめてしまおうと、言葉を続ける。
「ですから、彼女には役目を果たしてもらいたいと思います。ベルネット伯爵が汚職をしているのなら、相応の責任は取ってもらう必要はありますが……それは、彼女個人への感情とは関係がありません」
「さすが、陛下の代わりに執務をされているだけありますね」
「褒めてます?」
「貶める意図はありません」
ハッキリ答えてから、彼はまた悩むように数秒沈黙した後、私に尋ねた。
「割り切っている、ということでしょうか?」
「……おっしゃる通りでしょうね。公人と個人の思いは、それぞれ別です」
ルーンケン卿とこんな話をすることになったのは想定外ではあるが、これはいい機会でもあった。
言葉にすることで、改めて私は私の気持ちを整理できた気がする。
(クレメンティーナ個人としては、ベロニカが嫌い)
それはそうだろう。
あんな女、といったら言葉が悪いが、彼女を好きになれる人間がいるなら見てみたい。
とはいえ、王妃としては、彼女の利用価値、存在価値を理解している。
(直系が途絶えたら困るものねー。まあ仕方ないか)
そんなわけで、私は私自身の気持ちとは、折り合いをつけていた。
「そろそろ解散にしましょうか」
風が冷たい。本日の話し合いはこの辺りにして、もうそろそろ解散するべきだろう。
私がそう言うとルーンケン卿がため息を吐いた。
「なんとも、あなたらしいですね」
「……そうでしょうか?」
意図が掴めず、首を傾げた。
それに、彼が頷く。
「ええ。私としては」
ルーンケン卿も、そろそろ話を終わりにしようと思ったのだろう。
彼は席を立ち、言葉を続けた。
「あなたはもっと、ご自身の幸せを追いかけてもいいかと思いますが」
「それは──」
つまり、好きなことをして生きてもいいんじゃないか、的な、あれかしら?
まさか彼がそんなことを言うとは思わなかったので、目を見張る。
ルーンケン卿は、言うべきでは無い言葉が滑り落ちた、とでも言わん様子で言った。
「失礼。これは、ただの独り言です」
それにどう返答すべきか悩んでいると、彼はさっさと話を終わらせてしまった。
「では、また明日。ニュンペー湖の入口で落ち合いましょう。詳しい時間は、そちらの侍女に追って連絡します」
「……分かりました」
「おやすみなさい、クレメンティーナ様。いい夢を」
それだけ言うと、ルーンケン卿はそのまま去ってしまう。
残されたのは、彼の意外な様子に少し驚いた私と、騎士のケヴィン、そして侍女のサラサである。
私も席を立つと、サラサが感嘆したように言葉を零した。
「驚きましたね」
「あなたもそう思う?」
振り返って聞き返す。サラサは苦笑しながら頷いた。
「場所が変わったことで、ルーンケン卿も取り繕う必要が無くなったのかもしれませんね」
「…………ん?」
「さ、クレメンティーナ様。宿に戻りましょう。ニュンペーの夜は冷えますから」
サラサは手に持っていた薄手のブランケットを私の肩にかけながら言った。
「サラサ。取り繕う必要がなくなった、というのは?」
私は有難くそのブランケットを受け取りながら彼女に尋ねる。それに、サラサは首を傾げ、答えた。
「そのままの意味ですわ。随分正直になられたな、と」
「……彼、あんなひとだったかしら。随分、その」
優しい、というか。
親切、というか。
いきなり優しくされると、ちょっと、恐怖を覚えるというものだ。
彼にはとんでもなく失礼な話かもしれないけれど。
うまくこの気持ちを言語化できずもどかしい思いに駆られていると、サラサが納得したように「ああ」と言った。
「確かに分りにくい方かもしれませんね。ですが、私どもは離れたところから見ておりますので──」
サラサはそこで言葉を止めると、悩むようにしながらも続きを口にした。
「目は口ほどに物を言う、とよく言うでしょう?」
「……彼は元々ああいうひとだった、と?」
(そんなばかな)
それならいくら何でも私だって気がついている。
少なくともこの三年、彼とは一緒に仕事をしていたのだから。
私の言葉に、今度はサラサがきょとんとした。
「ああいうひと、というのが何を指すのかが分かりかねますが……。そうですね。以前から、クレメンティーナ様をご心配されていたとは思います」
サラサの意外な言葉に、私は一瞬言葉を失った。
(うっ……そだぁ!)
とは、流石に彼女の前では言えない。
その代わり、私は苦く笑って、誤魔化すように言った。
「それは知らなかったわ……」
「ルーンケン卿は厳しい方ですからね。さあ、クレメンティーナ様、戻りましょう」
サラサに急かされて、私はようやく動き出した。
ルーンケン卿のことはさておき。
(もし、ベルネット伯爵の不祥事でベロニカが立場を失うようなことがあれば──)
陛下は、どうするのだろう。
ベロニカを擁護する?
それは間違いないだろう。
私の今後の人生全ての幸運を賭けてもいい。
(だけど、それでも庇いきれなかったら?)
「…………」
その【もしも】を考えると頭が痛む。
絶対、間違いなく揉めるからだ。
とはいえ、まずは明日、例の場所に行ってから考えるとしよう。
そう思い、私は宿に戻った。
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