〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。

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それから、私は数日意識を失った。

私は、自身の血から宝石を生み出す【宝石姫】だ。

この国に、百年に一度生まれると言われている、宝石姫。
私の役割は、毎月規定量の宝石を王家に差し出すこと。
私の血は、空気に触れた瞬間宝石になるものだから、注射器での採取はできない。
そのため、私は毎月手首を切って血を流す。

宝石姫としての体質なのか、血を抜き取っていることが原因なのか、私は度々、寝込むようになった。
酷い時は二日、三日、意識が戻らない。

目が覚めると、いつもメイドがホッとした顔をする。

王家の方々は好きだ。
敬愛しているし、親愛の情を抱いている。

心身を削って宝石を生み出す私に王家の方々はいつも気を使ってくださるし、王太子殿下も私の宝石を必要としなくなるように尽力すると仰ってくれた。

それに──何より、クリスが一緒にいてくれたから。
だから、耐えられた。

私が、血を流す時はいつだってクリスがそばにいてくれた。

幼い頃、あまりの痛みに泣いてしまった私を慰めてくれたのも、彼だった。
痛がる私を見兼ねたのだろう。

『家にある宝石を代わりに献上しよう』──。

クリスはそう言った。
それは、とんでもないことだ。
宝石姫が生み出した宝石は特別で、鑑定されればすぐに知れる。それなのに、彼は私のためにそう言ってくれた。
そうすれば、私が苦しむことはなくなるから、と。

そこでようやく、私は気付いた。
痛みに苦しむのは私だけだと思っていたけど、私が手首を切る時。私の手をしっかりと握ってくれている彼の手もまた、震えていたことに。

クリスも、私と同じくらい──苦しんで、一緒に耐えてくれていた。

それに気付いた時、私はひとりではない、と思った。
彼の優しが温かくて、嬉しくて、泣いてしまった。

クリスは私が泣き出したのを見て、まだ痛みがあるのかと心配してくれたのだっけ──。






目を覚ました私は、ベッドの上でぼう、と考え込んだ。

次に宝石姫の役目を果たす日は、明後日。
いつも通り、クリスは来てくれるだろう。
そして、私の手を握ってくれるはずだ。

……いつものように。

(嫌だわ)

もしかしたら、なにか事情があるのかもしれない。
その可能性も考えた。

でも、愛するクリストファー、と書かれていた。
お慕いしている、とも書かれていた。
どんな事情があったとして、あのラブレターを書いたひとがいるのは事実だ。

それに、手紙には【私も】と書かれていた。
それはつまり、クリスが彼女に愛の告白をしたということ……。

(そういえば、私、クリスに好きって言われたこと……ない)

クリスは、私のことなんて好きではないのかもしれない。
この婚約も、親が決めたもの。
互いに恋愛関係になったから結んだものでは無かった。

私は……私は、クリスを無理に縛り付けていたのだろうか?

彼は、私に恋情ではなく、同情を抱いているのかも。

そうだとしたら……もう。
宝石姫の役目を果たすとき、彼にはそばにいてほしくない。

これ以上、私に同情なんてしてほしくない。
同情だけで、そばにいてほしくない。

長年抱え込んだ恋心は緩やかに、少しずつ、凍りついて、融解し、どろどろになっていく。
私のこころも、そんなふうに溶けてしまえば楽になれるのに。

そんなことを思いながら──私はクリスを待つ。

今日は、彼がザイデル伯爵邸に来る日だった。
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